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1999年7月 ギマランエス高原



ブラジリア・パンタナル旅行第三弾、ギマランエス高原編

7月25日 日曜日

今日は湿地と平原のパンタナルから離れて、断崖と滝のシャパーダ・ドス・ギマランエスに行きます。日本人ガイドとも一緒なので今回はセーザともいろいろと話せるでしょう。

集合時間通り、ホテルで待っているとガイドから電話があります。「今、セーザの家にいるんだけど、子供を連れてくるので15分ほど遅れるよ。」とのこと。そういえば、昨日のパンタナルの帰りにセーザが「明日は僕の息子の二ヶ月目の誕生日なんだ。」とうれしそうに話していたのを思い出します。そうか、家族を連れてくるのか。そう思うと、何だか暖かい気持ちになります。

これも昔の話ですが、中国の青海省のゴルムドからチベットのラサまでバスをチャーターして移動したとき、バスの運ちゃんが親戚や家族など10人ぐらい連れてきたときにはバスをチャーターした旅行者達と「そいつらを降ろせ。」「いやだ、降ろさない。」「じゃあ金を返せ。」「じゃあ運転しない。」と壮絶な戦いをしたことを思い出します。結局あのときは旅行者側が勝利して親戚達を降ろしましたが、やはり運転手との信頼関係があると全然違うものなんだなと思います。

さて、車は一路シャパーダへ。パンタナルへ行くときとは対照的に、道の両側から水分がなくなっていき、殺伐としたセラードの景色が広がっていきます。「ふ〜ん、全然違うね。」と思っていると、遠くの方に山らしきものが見えてきます。ガイドによるとあれがシャパーダの山々とのこと。近づいて行くにつれてその全容が見えてきます。それはアメリカのモニュメントバレーのような山でした。テーブルマウンテンというヤツです。頂上が平らな高原がダラダラと続き、あるところでストンと崖になって終わっています。そんな山があちこちにそびえ立つようになり、道はその崖の間を縫うように走ります。

もともとシャパーダとはこういったテーブルマウンテンのことを指すようで、ブラジルには三つの有名なシャパーダがあります。ひとつがここ、もうひとつがブラジリアの近くにあるシャパーダ・ドス・ベアデイロス。そして最後のひとつがバイーアにあるシャパーダ・ジアマンチーナ。今回一緒に回っている友人が、ちょうどそこから帰ってきたらしく、感想を聞くともう大絶賛。荒々しい大地と開放感が素晴らしいみたいです。

まず最初は名前を忘れた滝。そこも観光地らしく駐車場にはたくさんの車が停めてあります。滝の源となる川は気持ちの良さそうな草原の上を流れていてブラジルの善男善女が喜々として水遊びに興じています。刺し殺されるんじゃないかというほどの強烈な太陽と真っ白に見えるほどの明るい風景をみていると、そこだけ時間が止まっているようで、子供の頃セミ取りに出かけたときの強烈な緑の色と、真っ白な運動場の色が頭に浮かびます。こんな光景を見ていると、「ブラジル人っていいやつばっかじゃん?」って思いたくなりますね。

お次はは「地獄の門」というところです。断崖絶壁がぐるりと取り巻いているその上の方から断崖の下をのぞきます。「地獄の門」といえば、上野の国立西洋美術館の入口にロダン作の「地獄の門」ってのがありましたね。おどろおどろしくて荘厳な門の上に「考える人」がちょこんと座っていて、それはあたかもファウストのメフィストーフェレスのようでした。しかし実際の「地獄の門」は小便臭い。そういえば、インドなんかの観光地でもひとけのない隅の方は小便臭かったけど、こんなお日様がカンカンに照っていて、観光客もたくさんいるようなところでしなくても・・・な気分です。ガイドの話の中に「このあたりはカーブが多いのでスピードを出しすぎた車が本当に地獄の門に行ってしまうことがよくあります。」というのがありましたが、このときは「おい、あんたその話を今まで何回した?」と思います。またまた話は昔に飛びますが、京都の西本願寺に修学旅行で行ったときに寺を案内してくれた坊主のガイドは面白かったな。客慣れしているんだろうけど、坊主とは思えないくだけた話し方でユーモアたっぷりでした。細かい話を憶えていないのが残念ですが。話は戻りますが、たしかにこのあたりは急カーブが多いので危なさそう。日本だったら頑丈なガードレールで車の転落を防ぐところですが、それほど頑丈にも見えないし。

ガイドの解説で面白かったのがあります。「ナマケモノの木」。ナマケモノが常食にしている木で、この木がたくさん生えていないとナマケモノは生きていけないそうです。木の方はひょろひょろと細長い木の先っぽだけに申し訳程度に葉っぱがついています。この木を見た友人が「やる気のなさそうな木」と言った言葉がぴったりです。しかしそのやる気のなさそうな姿とは裏腹に、成長は早いみたいであっという間に大きな木になるそうです。もう一つの特徴はその中身。ナマケモノの木の中身は空洞になっていて、そこに住んでいるアリがいるそうです。どうやって木と共生しているのかは知りませんが、不用意にこの木を切り倒すと頭の上からアリのシャワーを浴びることができるという仕組みです。

そそくさと「地獄の門」を後にするとシャパーダの町で昼食。セーザのかわいい子供と一緒にシュハスコでした。奥さんも優しそうな人で、セーザのつぶらな瞳はここから来ているのかと納得しました。

昼食後には本番の国立公園に入ります。ちょうど3日前から入場料を取られるようになったとかでちょっと残念。3R$払うと腕に巻くピンク色のバンドをくれ、これがお金を払ったしるし。ここも「地獄の門」と同じようにテーブルマウンテンがまわりをぐるりと取り巻いています。ただ、乾燥しているので植生がセラード風だが、もしここが多雨地域で熱帯雨林が形成されていたらギアナ高地のようになるのかもしれません。ここの名物は「花嫁のベール」という高度差80mの滝。テーブルマウンテンの縁から流れ落ちる滝は「プチ・エンゼルフォール」と言えるかもしれません。まずは、その「花嫁のベール」が良く見渡せる展望台へ行きます。このあたりの地形を文字で表すと、ちょうど崖が馬の蹄鉄のようなU字型に取り巻いているような形になります。Uの字の一番下のところに「花嫁のベール」があり、Uの字の上の端っこのほうに展望台があります。そこから見ると「花嫁のベール」はもちろんのこと、反対の方角には崖の両側の崖に挟まれた隙間から遠くの平原が見渡せます。今までの観光地では日本ほど整備されていないと言うか、柵でガチガチに囲っていないところが多かったんですが、このあたりは完全に柵で囲われています。ただ、柵といっても乗り越えようと思えば乗り越えられるぐらいの大きさですが、乗り越えているところをレンジャーに発見されるとピピピーと笛をならされて注意されます。ちょうど展望台の近くのい柵の向こう側に細長く突き出た崖があって、先まで行ってそこから写真を撮るときれいだろうな、と思っていたら、さっそくブラジル人がそこに行こうとして注意されてました。せっかくここまで来たし、また来るチャンスはないかも知れないと思った僕はねばり強くチャンスを待ち、とうとうガイドやレンジャーがいなくなった時を見計らってそこに入って写真を撮りました。

次はUの字の一番下の「花嫁のベール」のところに行きます。ここでも遊歩道の崖側には柵があり、入れないようになってましたが、勝手に入って迫力のある写真を撮ることができました。そうこうするうちに滝に到着。遠くから見ると迫力満点の滝ですが、上から見ると、それほど水量も多くないただの川でした。しかし、滝の側まで行って、滝口越しに向こう側を眺めるとすごく遠近感のあるとてもいい眺めで今回の旅行のベストとも言える写真を撮ることができました。

ここでいったん終了。車に乗って別のところに行きます。そこは禿げ山の上で、遠くの景色が一望できるところです。乾期で舞い上がった土埃や野焼きの煙でかすんでいますが、360度の地平線がぐるりと取り巻いています。たしかにすごい景色なんですが、日本の見晴らしのいい山に登って、下界を見渡したときとさして変わりがないようです。自然の迫力系の景色については普通の人よりもたくさん見ているのでだんだん目が肥えてきてしまったようです。ちょっと寂しい。それとじゃまなのは隣のオヤジ。カーステレオでガンガン音楽をかけて奥さんらしき女性と踊っています。ブラジルではどこの観光地に行ってもカーステガンガンで踊る人達がいます。確かにここはブラジルだよ、みんなダンスが好きだよ、でもさぁこの広いブラジルでここぐらいは静かにしてもいいんじゃない?と思います。とにかくまわりの人のことを考えないことに関しては世界一のブラジルです。

適当に観光して程良く疲れたところで休憩。立ち寄った店がなかなかいかしてました。車道から少しばかり下ったところにある店で、 店の目の前が滝になっていて、滝壺では泳いでいる人がいます。店と滝壺の間には白い砂浜があり、滝と店のまわりは樹林に取り囲まれていて、なにやら箱庭の中にいるみたいです。そんな店でのんびりとビールでのどをうるおします。

店を出るといったんシャパーダの町にもどります。本来のツアーの予定では、このままクイアバに戻ることになっていましたが、こじんまりしているシャパーダの町の方がクイアバのコンクリートジャングルで焼き焦がされるよりはるかに気持ちよさそうです。友人達もそう思ったようで、ガイドに頼んでこの町で降ろしてもらうことにしました。ちょうど町では「冬祭り」が開催されていて、宿は見つからないかも、と言われましたがなんとか見つけることができ、ガイドと別れることになりました。

さて、シャパーダの町ですが、冬祭りということもあってか観光客が多く外国人らしい観光客も見受けられます。標高の高いこの町は灼熱のクイアバからの避暑地にもなっているようで、とても観光地化されています。その「冬祭り」ですが、これといって何か大きなイベントがあるわけでもなく、中心にある公園のまわりにフェイラがならび、夜になると小さいコンサートが開かれるといった、いわゆる日本の「盆踊り」的なお祭りです。時間があまった僕たちはフェイラに出向いてみます。扱っている商品はアクセサリーや革細工などどこのフェイラでもあるような品物ばかりでしたが、店の人の人種が違いました。以上にインジオ系の人達が多いです。話を聞いてみるとメキシコから来たおっさんや、ボリビアから来たおばちゃんとかがたくさんいますし、そう思って聞いているとスペイン語があちこちで飛び交っています。それに加えて多かったのが、海外の安宿あたりに沈没していそうなヒッピー系の欧米人。下から上までどこかの怪しげな民族衣装で身を包んでいて、普通の格好をしているインジオの人達とは対照的です。それに商売の方も、やる気満々で客引きに余念のないインジオたちとは対照的にヒッピー系の人達は仲間達とけだるそうに話し込んでいます。まじめに生活かけてやっている人達と遊びでやっている人達との違いを感じてしまいました。まあそんな感じの風景を見ると、世界各国の旅人の沈没地を思い起こさせます。僕の行ったところで言うと、中国雲南の大理や西双版納、チベットのラサやインドのカルカッタあたりの安宿街に似ていてなんとなく気が楽です。こういった町では毎日感じている外国人であることのプレッシャーがだいぶん少なくなりますね。

もうひとつシャパーダの町で面白かったのでは電話ボックス。トランス・パンタネイラの入口でトゥユユの形をした電話ボックスはみましたが、ここではいろんな動物の形をした電話ボックスがありました。最近ブラジルの電話システムが変わり、新しい電話会社になったので観光客にアピールするんでしょうか。

その後もフェイラを回ったり、ビールを飲んでまったりしたりと一日が過ぎていきました。

7月26日 月曜日

この日は別のツアーに参加してシャパーダに点在する滝をひとつひとつトレッキングで回っていきます。途中、滝壺では泳ぐことができるので水着は必携です。まずはツアー会社の前に行って待ちますが、どうも一人参加者が来ていないらしくなかなか出発しません。しょうがないので昨日フェイラが立ち並んでいた公園でボーっとしていると遠くの方から音楽が聞こえてきます。何かな、と思っていると何だか知らないけどカトリックの行事らしく、聖者らしい人形がのった御輿を先頭に人々が静かに歩いています。最後尾には軍楽隊もついて時折賛美歌のような歌をみんなで合唱しながらの行進です。爽やかな朝の空気と清らかな合唱が町に響きわたり、高地特有の青い空と相まって不思議な雰囲気をかもしだしていました。

結局1時間遅れで出発です。フォルクスワーゲンのおんぼろバンでゆられていった目的地は昨日の国立公園。昨日と同じようにお金はとられましたが今日は腕に巻くピンクのバンドはもらいません。まずは花嫁のベールなんかを巡りますが、これは昨日と同じです。そして花嫁のベールから先がトレッキングコースになっています。トレッキングといっても背の低い灌木が生い茂るばかりで上からは強烈な太陽が容赦なく降ってきます。そんな暑い道のりをうなだれながら歩いていると最初の滝に近づいたようで、滝壺に飛び込むドボ〜〜ンという景気のいい音やはしゃぎ声が聞こえてきます。その音を聞くと、みんな一目散に駆けだしていきます。

そこは小さな滝で、確かに滝壺は気持ちの良さそうなプールになっていて到着するやいなやみんな水着になって入っていきます。でも日本の山で遊んだ僕の目にはその滝とは反対のほうが気になります。ゴツゴツした岩がならんでいて、いかにも沢で遊んで下さいと言わんばかりです。オーバーハング気味で登れそうのない滝で遊ぶよりは、ということで下流にじゃぶじゃぶと突っ込んでいきました。そこは予想通りの場所で、大きな岩を下ったり、両側を岩で囲まれた回廊を泳いだりと楽しい行程で、先の方にはちょうど手頃な滝がありました。まずその滝壺まで行き、そこから沢登りの始まりです。久しぶりに全身の筋肉を使って水と岩と格闘していると時間がたつのも忘れてしまいます。みんながいる滝まで戻ると、ちょうど出発の時間で次の滝に移動です。

さらに下流に移動したところにある滝は50mはあろうかという大きな滝。ここも滝壺がプールになっています。しかしその滝も横の方からは少しだけ登れるようになっているのでとりあえず少しだけ登ってみました。滝は水量も多く、登っていると息もできないくらいでなかなか快適です。適当に遊んだ後、またもや下流に行ってみます。すると、さらに大きな滝の上に出ました。高さは100mはあるんじゃないかという滝で、上の方からおそるおそるのぞき込むと、遙か下まで見渡せます。また、正面には目の前を遮る樹林など何もなく、遠くに見える大きな崖と、遙か下にある緑の絨毯が雄大な景色を形作っています。今日一番の観光スポットだ!と思いみんなが泳ぎ疲れて戻ってくるまで素晴らしい景色を堪能しました。

その後、その滝の根本まで下りましたが、沢で遊ぶ時間がなかったのが残念です。先ほどの沢よりも大きな岩がゴロゴロと転がっていて、なかなか遊びがいがあるなぁと思っただけに、心残りでした。

滝壺で遊んでいる時間が長かったのでもういい時間になってきました。いったん公園入口まで戻ります。そこで昼食を取るんですが、そこのレストランも無粋。目の前にはシャパーダの広大な景色が広がり、鳥たちがかわいい歌を奏でているのにBGM!どんなに心が自然にとけ込もうとしても強制的に人間の世界に引き戻されます。もうブラジル、なんとかしてって感じです。

その後は車でまわりましたが、それほど大したところには行きませんでしたので省略。

夜はは近くのピッツェリアですごし、長い旅行の最後の晩を祝いました。未来都市ブラジリア、それとは対照的なパンタナル、自然と観光がごっちゃになったシャパーダとそれぞれ独特の良さがありましたが、まさに何でもありのブラジルを感じることができた僕の短い冬休みでした。


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