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1999年12月 マナウス再び



テフェからの船旅のあと再び訪れたマナウスです。

12月20日 月曜日

朝、気がついたらいつの間にか西に向かって航行していました。もうすぐマナウスです。川を見るとソリモンエス川のコーヒー牛乳ではなく、コカコーラ色のネグロ川です。マナウスが近づくとまず最初に見えたのが外国企業の工場群。マナウスの町に到着する前に見えたので、町の郊外にあるということになります。セントロを歩いている分には分かりませんが、やはりここマナウスはフリーポート、外国の企業がたくさんありますね。

そうこうするうちにマナウスの有名な浮き桟橋に到着。マナウスの前を流れるネグロ川の水位は多いときと少ないときで10m以上違うので、普通の桟橋ではダメらしく、巨大な浮き桟橋に船は接岸します。といっても岸壁には母犬の乳にむらがる子犬のように大小さまざまなボートが接岸していてすき間がありません。すると僕を乗せた船は何事もなかったかのように並んでいる船の後ろに着けちゃいました。ここから前の船に乗り移り、上陸するという寸法です。もともと船はそういう風にできていないので乗り越えるときに船縁の手すりを乗り越えないといけないし、折しも降り出した雨で濡れてすべりやすいし、下は川だし、背中には重いザックを背負っているしで結構スリルがありました。日本の山のちょっとした岩場を重いザックを背負って歩くときぐらいのスリルはあります。

まずは船内での睡眠不足を補うべくホテルに直行。マナウスの安宿では有名どころの「Hotel Rio Branco」だったし、観光シーズンでもあるのでもしかしたら日本人もいるかも?と思いましたが、さすがにいませんでした。まずは船旅で疲れた体を休めるために睡眠タイムです。午後一番にツアコンのおじさんに連絡し、アマゾン・ツアーを22,23日に組んでもらうことにしました。それが済むと、晴れて自由の身。本格的にマナウスを歩いてみることにします。といっても今回の目的はCD。しかもボイのCDです。ボイというのはボイ・ブンバ。「バ」のところにアクセントをつけるのが現地風です。


ボイ・ブンバ

毎年六月の終わりにアマゾン川中流のパリンチンスで行われるアマゾン最大のお祭り。

ガランチードカプリショーゾの二つの組に分かれた人々がブンボードロモでお互いの踊りを競い合い、毎年勝敗を決めます。ガランチードのチームカラーは「」で、庶民のイとされ、マスコットの牛は白色で、額に赤いハートのマークがあります。カプリショーゾは「」がチームカラー。マスコットの牛は黒色で、額には青い星のマークが光っています。お金持ちやエリートのボイと言われています。

決戦は六月ですが、マナウスの町では三月頃からガランチードカプリショーゾがそれぞれの会場に集まり、その年の踊り(毎年歌と踊りが変わり、だいたい13曲ぐらいあります)の練習をします。その練習は毎週末行われ、徐々に町中がヒートアップ。決戦日にはマナウスからそれぞれ専用の船団を作り、パリンチンスの町に集結します。その時ばかりは人口十万のパリンチンスの町も、アマゾン中の人とブラジル各地や外国からの観光客で埋まってしまうほどです。

ちなみにこのパリンチンスという町は日本人のアマゾン入植史でも有名なところで、入植初期から日本人が入り、このあたりの日系入植地の中心のひとつでした。

詳しくはエフィジェニオ・サーレス農業協同組合のボイ・ブンバのページをご覧下さい。


町のCD屋を探し、さっそくこのボイ・ブンバ1999のCDを入手しました。聞いてみると、わりと現代的でリオやサン・パウロのカルナバルの曲と似たような感じがします。もうちょっとアマゾン風かと思っただけに少し残念です。じゃあどんな曲がアマゾン風なんだよ?って言われたら何とも答えられないんですがなんかこう仮面ライダーアマゾンのような・・・(といまだに仮面ライダーアマゾンに引きずられる僕)

それが終わり、ぶらぶらするんですがクリスマス前ということでテフェに行く前よりもさらに混雑しています。サン・パウロではあまり見かけない客引きが歩いている僕の方をつかんで、「お客さん、この店の服はいいよ!」などといって引きずり込もうとします。まるで年末のアメ横のようです。せっかく頑張っているみたいなので、そんな彼らにも少しだけ日本語を教えてあげました。「おい、もしジャポネーズが通りかかったら、『ヤスイヨ!シャチョー!』って言え。」これでだいぶんアメ横らしくなるでしょう。

店員をちゃかしたりお土産を探したりしているうちに退屈になったので友人の職場に再び行きます。そこでしばらくインターネットに沈没。テフェに行っている間のメールチェックやホームページの更新などしました。こうやってあちこちに日本語PCを持っている友人がいるというのはありがたいことですね。こんなアマゾンの奥地で日本のメールが見えるなんてすごいことです。昔パキスタンを旅行してた時は何の情報機器も持ってなかったので、日本人旅行者から「自民党が負けて細川が首相になったらしい。」という当時としては信じられない情報に驚いたりしました。その後に「政権が変わってパスポートも変わったので古いパスポートの俺たちは日本に戻れない!現代の天正少年遣欧使節団だ!」とか「デノミになったので、成田で一万円札を没収される」とか根も葉もない噂が流れたのはご愛敬ですが。

友人と行ったのは中華料理屋。中華料理屋といえば世界中にあるので、旅行中現地の食べ物が食べたくなったときに行ったという記憶があります。そういえば、ブラジルに来てから自分で中華料理屋に行ったこともなければ行こうと思ったこともありませんね。どんなものが出るか分からないので日本で好きだったメニューを頼んでみましたが、やっぱり敗北しました。チンゲンサイのクリーム煮と思って頼んだら何か知らない野菜が入った牛乳スープみたいなのが出てきました。まあそんなこと気にしてたら生きていけないので全部平らげたことは言うまでもありません。

ただ、ひとつ気がついたのは、中国系の客がいるということでした。中華料理屋に中国客がいたって当たり前って言えば当たり前のことなんですが、ブラジルではあんまり見かけないので珍しかったです。どうも話を聞いていると広東語で、たぶん華僑の人でしょう。サン・パウロでは最近中国系、韓国系が増えているそうで、彼らは雑居スーパーみたいなところにこまごました店を構えています。そのお店は畳二条分ぐらいしかない小さいブースでその中に安かろう悪かろうの電化製品を並べたり、洋服を並べたりして売っています。そして店内にはそんなブースがぎっしりとならんでいます。彼らはこういったお店で日銭を稼ぎ、それを元手にだんだん大きくしていくそうです。話しに聞いたところだと日本人移民も初めの頃はそうだったそうで、それを聞くと「みんながんばれ!!」って気分になりますね。でも、それはサン・パウロのことだと思っていたのでこのマナウスで広東語を聞いたのには驚きました。

さて、食後には「ぜひ行きましょう」と誘われて、ボイ・ブンバショーのあるポンタ・ネグラまで行ってみます。バスで30分ということですがマナウス市街から離れていき、やがて街頭以外に灯りがなくなってしまうと「おいおいどこ連れて行くんだよぉ〜」って気分になります。そのうち再び灯りが見えてきてホッとしたらそこがショーのあるラランジーニャです。とはいえ今日は月曜日の夜。全然客がいません。またショーの時間にはまだ早いみたいです。しかしテレビではやってました。サッカーを。この前テフェで見たパウメイラス×フラメンゴのコパ・メルコスル決勝第二戦です。もうこれがあればあとは酒を飲みながらいくらでも時間はつぶせます。

そのうちショーが始まりました。ショーといっても小さいお立ち台の上に男1女2の3人が上がって音楽に合わせて踊るというちょっと小規模なやつです。いろいろな音楽がかかりますが、それぞれ決まった振り付けがあるらしく、三人は一糸乱れぬ連携で踊っていきます。「お〜すげぇ〜」と驚いていると友人は「マナウスの人なら誰でも踊れますよ。僕も含めて」と自らステージの横で踊ってくれます。確かに一年間マナウスで鍛え上げた彼もきっちりと踊ってくれました。まわりをよく見ると、ダンサーと同じように踊っている人もいます。で友人が「きっとこいつらが一番うまいと思うよ」と教えてくれたのが靴磨きの少年。するとあちこちのテーブルをまわっていた靴磨きも踊りの方が良くなったのかステージの側に来て友人と一緒に踊りますが、確かにうまい。どちらかという貧しい人達の部類に入る子供からお金持ちまでみんなが一緒に同じ踊りを楽しむってのはいいですね。

なお、ショーの最中にサッカーの試合の方も結果が出て、フラメンゴが優勝しました。その後フラメンゴの旗をなびかせクラクションを鳴らしながら何台か車が通り過ぎていくのを確認して家路、じゃないホテル路につきました。やっぱアマゾンはフラメンギスタが多いっす。

12月21日 火曜日

まず初めにリオへの飛行機のリコンファーム。普段は面倒でリコンファームなんかやらないんですが、今回は日本からの客人を迎えるホスト役のため、遅延は許されません。まずはVASPの事務所に行き、確認作業です。ただ、前の客が結構時間がかかりしばらく冷房のきいた気持ちいい店内でふかふかのソファーに沈み込みます。

今、リオの切符を確認していますがリオに到着したら、ついに「2000年カウントダウン in リオ・デ・ジャネイロ」の始まりです。ブラジル派遣が決定になった時からの計画、というか本当は僕が南米派遣の試験を受けたときからの計画です。それがついに始まるのです。かれこれ言い出してから二年近く立ったんじゃないでしょうか。そう思うと感慨無量ですね。それに日本で「混浴温泉ツアー」なんかを一緒に遊んでくれた気のいい友達がやって来ます。今までは主に日本の山々で一緒に遊んでいたんですが、その連中もついに海外、しかも一挙に地球の裏側まで来ちゃうんですから我ながらみんなの行動力には驚きます。「あいつらとコパカバーナかぁ」と思うだけでうれしくなっちゃいました。

そんな思いにひたりながらもやることはやらないと行けないので銀行へ。当座のお金を引き出さないと行けないんですが、ここでも「日本人で良かったなぁ」と思うことがありました。ブラジルの治安の悪さはもう有名ですが、もちろん銀行強盗もたくさんいます。そのため最近の銀行は入口を回転ドア式にして、その上に金属探知器をつけています。金属製の物が反応するとすぐに回転ドアを止めて、その客をいったん外に出してそれを確認させるんです。その時の僕は背中のザックには観光フル装備といった感じでデジカメや双眼鏡なんかも入っていて反応するのは明白です。だから銀行の前でザックを開けていろいろ出そうとしたら、中のガードマンが「いいよいいよ、入りな」と手招きしてくれ、探知機を消してくれました。あちこちで聞く「ジャポネース・ガランチード(日本人は信頼できる)」がまたまたここでも発揮されたわけです。その他の客は小さいバックの中の携帯電話まで確認させられていただけに対照的です。これはひとえに90年以上にわたって真面目にこつこつと働いてきてくれた日系移民の人達のお陰なんだよなぁと、こんなところで感謝しました。

その後、セントロを歩きながら中古CD屋を探したんですが、それよりも何よりもまず気付いたのはフラメンギスタ(フラメンゴファン)の多さです。だいたいこっちの人達は自分のひいきチームが何かの大会で優勝すると、その翌日はチームのユニフォームを着て町に出るんですが、昨日フラメンゴが優勝しただけに、今日は多いです。テフェでも感じましたがアマゾン流域ではフラメンギスタが一番多いんじゃないでしょうか。

無事に中古屋も見つけ、過去のボイ・ブンバCDを入手した後は、観光モード。今日はINPAの実験林とアマゾン自然博物館見学です。まずはINPAの実験林に行ってみましたが、お昼休みで開いてなかったのでまずは博物館に行きました。ここは日本人の橋本さんという人が作ったところで彼の趣味の蝶を中心にいろいろな魚や昆虫が展示してあるところです。

入口に入ってみても誰もいません。「すみませ〜ん」と日本語で声をかけてみると奥さんらしき人が出てきました。どうも今日のお客は僕一人みたいです。入場料を払い、入ってみるとまずは各種魚の剥製コーナーでした。まず入って最初にならんでいたのはいろいろなナマズ。それがどれもこれも大きいです。横の解説(日本語解説つき!)を読むとどれも「体長は最大で1.5〜2m、体重は150kgになる」などととんでもないことを書いてます。さらには「この魚はアマゾン下流のベレーンで大漁に取れ、住民の貴重なタンパク源となっている。」などと書かれているのを見ると「俺はアマゾンの漁師にはなりたくないね。だって網をあげたらそんな巨大なナマズが何匹もかかっていたらいややん!」って気分になります。日本の水族館でマグロを見ても思うんですが、やっぱ魚は適度な大きさを保って、あんまり巨大になっちゃいけませんね。年末の魚屋で見かけるブリやシャケぐらいが限度です。もうこれは常識。僕にとって体長2mのナマズは体長2mの蟻と同じくらい「尋常じゃない得体の知れない生命体」です。

そんな怪獣ナマズを通り過ぎると、やっと魚らしい大きさの魚がならんでいました。そこにはテフェの焼き魚屋台でおいしく頂いたタンバキーもあります。でも僕が最も注目したのは「カンジル」。「『感じる』なんて変な魚」となめてはいけません。これはかの開高健の「オーパ!」のなかで「河のテロの第一の急先鋒がカンジェロ、つぎがピラニヤという順序になる。」と書かれているぐらいの猛魚です。この魚は見た目がドジョウみたいで、先端に鋭い歯がついており、動物に食らいつくと体内に入って内部から食い破るというさしずめエイリアンのような凶悪な魚です。しかも尻尾から引き出そうとすると鰓が引っかかって抜けないようになっていて、ひたすら前進して食い尽くすんだそうです。外部から食い尽くすピラーニャが南斗聖拳だとしたら、内部から破壊するカンジルはまさに北斗神拳で、もうこれは北斗神拳の方が強いというのは世界の常識。そう、ピラーニャに襲われた動物が骨だけになるとしたら、感じるに襲われた動物は皮だけになるんです。それを聞くと哀れな生け贄達の「ひでぶ!」の叫びまで聞こえてきます。さらに恐ろしいのは動物を襲うと言っても一応血を流していたり弱っていない限り襲わない礼儀正しいピラーニャにくらべてカンジルは集団で無差別に襲いかかると言うことで渋谷のチーマーよりもタチが悪いです。ピラーニャを恐れるブラジル人はほとんどいませんが、そんな彼らもカンジルだけは恐れます。それが増幅したのか「立ち小便をすると小便をつたってカンジルが膀胱に潜り込み体の中を食い尽くす」なんていう恐ろしい話も昔の旅行記には出ていたくらいです。

その恐ろしいカンジルですが、姿が見えないと言うのも有名な話らしく開高健もカンジル見たさに漁師達に賞金を出したそうですが、誰も持ってこなかったみたいです。「オーパ!」によると「テロリストとしてのカンジェロの噂はちょいちょい聞かされたが、ではそいつを見せてほしい、写真にとりたいといいだすと、あんなものはアマゾンの屑で、いくらでも、どこにでもいるし、いつでもとれるんだから、そんなひまつぶしはあとまわしにしましょうや。」ということですが、この博物館にあったカンジルもドジョウとはほど遠い、フグのようなスタイルで解説にも「これは動物を襲う猛魚のカンジルとは別の種類のカンジルです。」と書かれていてやはり謎の魚のようです。

そして魚コーナーの最後を飾るのはピラーニャ。うちの近くの川で釣れるのは白ピラーニャですが、その他にも赤や黄色や黒がいて、それらが陳列されています。もうピラーニャは見なれてしまい、どっちかというと釣り上げても「ちぇっ、ピラーニャか、今日はついてないな」とあなどっているんですが、いろいろな種類がいるんだなぁとそれなりに感心したそぶりを見せてみました。

剥製コーナーが終わると、次は水族館です。ヤシの葉で葺いた屋根や壁がアマゾンらしさを引き立てます。中にはいるとひときわ目を引くのがピラルクー。これは世界でも有名ですね。体長が2mを越える世界最大の淡水魚です。これが水槽の中で泳いでいます。「おぉ〜〜すげ〜すげ〜」と寄ってみると、水がやや濁っていて視界が悪いんですが、どうも真ん中の方に集まってじーっとしているようでよく見えません。しょうがないのでその状態のままフラッシュをたいて写真を撮ったんですが、そのとたん「なんだなんだ今のは!」って感じでピラルクーが騒ぎ出しました。「あ〜あ、向こう側に逃げちゃうかな」と思ったのもつかの間今度はたくさんのピラルクー達が僕がいる方に寄ってきます。そして最後には僕が顔をひっつけている窓際までやって来て向こうもガラスに顔をひっつけてこっちを見ています。それも一匹だけでなく、入れ替わり立ち替わりやって来ては僕の顔を眺めていきます。「もしかしてピラルクーって人の方に寄ってくるの?」と思い、反対側の窓にいってドンドンと窓を叩いたところ今度はそっちに寄ってくるではありませんか。いや〜驚きました。今まで水族館でいろんな魚を見てきましたが、たいがい人から逃げるし、ましてガラスをドン!と叩けば向こう側にすっ飛んで消えてしまうのにこのピラルクーときたら・・・体が大きいだけのことはありますね。

水族館コーナーが終わると、最後は昆虫コーナー。この博物館のオーナーの第一の趣味である蝶を初めとしたたくさんの昆虫の標本があります。あんまり蝶には興味がない僕が一番気になったのはカブトムシ。やはり男の子の夏休みとカブトムシは切っても切れない関係でしょう。そしてカブトムシを語るならはずせないのがヘラクレスオオツノカブトムシの存在です。日本にはいないその強大な姿は全国小学生のあこがれの的で、僕はそのプラモデルまで持っていたんです。そいつと初対面です。まるで初恋の人と何十年ぶりに対面したみたいです。皺が増えてしまいおばちゃんになった初恋の人を見て「やっぱ会うんじゃなかった。思い出は思い出としてとっておくんだった。」というのが人間の場合ですが、今回の初恋の人は保存液を注射されて一番美しい頃の姿を保っています。「う〜ん美しい」と思いましたが、保存液で思い出しました。あのころ爆竹とならんで男の子の夏の標準装備だった「昆虫採集セット」の中には注射針の他に保存液か何かだったと思う青と赤のあやしい液体の入ったケースがありましたね。採集した昆虫にこれを注射して標本にするんだと思いましたが、意味もなくあの液体を注射して昆虫はおろか無実のカエルやトカゲまで殺してしまったのは僕だけではないと思います。あれって今思うととっても罪作りな道具でしたね。

その次に目を引いたのがゴキブリやクモやサソリなどのいわば「ゲテモノ」君たち。クモは予想通りのタランチュラ系で、アマゾンらしさをかき立ててくれます。ついでにアマゾンにもサソリがいるということはこの時始めて知りました。でもそのなかで一番の注目はゴキブリ。さぞや大きいことだろうと思いましたが、日本のヤツと変わりません。僕のブラジル滞在中のたくさんの目的のひとつに「巨大ゴキブリを見る」という怖い物見たさのものがあるんですが、未だお目にかかってません。伝説の10cmサイズ、秀吉が鋳造したと言われる慶長大判金貨よりも大きいヤツを一度でいいから見てみたいんですが、はたしてこの広大なブラジルの大地にそんなゴキブリが存在するのでしょうか。

以上にて博物館は終了。それほど数は多くはないんですが見応え十分です。その後は入口側のミュージアムショップで少し休憩。さっきの奥さんらしき人に声をかけて見るんですが、あまり話が弾みません。またもう一人日本人らしき真っ黒に焼けたお兄ちゃんもいましたが、この人ももの静か。三人の日本人がお互いに話すことなくその場にいました。後で知ったんですが、このお兄ちゃんは日伯交流協会から来ている研修生だそうで、そうすると僕の同業他社ということになります。僕達と彼らとは日本からたまたま同じ飛行機でブラジルに来たので少なからぬ縁がありますが、彼も想像を超える田舎に来たのでなかなか適応できてないのかな?と思います。

博物館は大通りからはずれているのでタクシーなど来るはずもありません。ということで遠くの大通りまで歩くことにしました。博物館のまわりは郊外の住宅街といった感じで結構気持ちがいいところです。ちょうど曇っていて厳しい日差しもなく、のんびり歩いていると子供達の歓声が聞こえます。「あれっ、学校でもあるの?」と思ったら「マナウス日本人学校」と日本語の看板がすぐ目の前にありました。まずは「へえぇ、こんなところにあるんだ」と思っちゃいました。マナウスのセントロからは遠く離れ、バスも走ってなくてたどり着くには車しかありません。そんな不便なところにある学校が失礼ながら隔離病棟みたいに思えてしまいました。ブラジル社会からなるべく離れて隔離病棟で暮らす日本人駐在員もいるという話しも聞いていたので「もったいないなぁ」などと思いながら通り過ぎていきました。

お次はINPAです。先ほどはお昼休みでしたがこんどはちゃんとあいてました。入口に近寄ると、まずは可愛い猿達の歓迎です。ポケットモンキーみたいなのがちょこちょこと近寄ってきて餌でも欲しいのかこちらをジッと見ます。でもあげるつもりもないので、そのうちに行っちゃいました。お次に待ちかまえているのがガイドの皆さん。でも金に目がくらんだおじさんなんかはいなくてみんな子供達です。黄色いベストを着た子供達が公園内の見所を案内してくれます。ただ、今日はのんびりと時間を過ごすためにここに来ているのでガイドはご遠慮させてもらいます。

まずは足の向くままに歩いていたら清掃中の水槽に出会いました。中にいたのはマナティー。人魚のモデルといわれる希少な動物です。世界各地で減っているようですが、ご多分に漏れずここでも食用のために今も密漁されており、数が徐々に減っています。環境破壊について世界中から非難を浴びているブラジルですが、最近は動物や植物といった生物資源の管理についてはうるさくなってきています。その象徴がIBAMA(アマゾン環境管理局みたいなもの)で、最近ではIBAMAの許可なしには焼き畑など出来ないし、野生動物の密猟・密輸にも厳しくあたっています。とはいえそこはブラジルというお国柄、そういった網の目を抜けて事に及ぶ不届き者も多く、依然としてマナティーなどは絶滅の危機にあります。

さらに先に進んでいくうちに、一陣の湿った風が吹き抜けていきました。「あっ、これは降るな」と感じたので、途中にあったあずまやに待避したんですが、そのうちポツリポツリとやって来ました。そのあずまやは巨大なビーチパラソルのような形で屋根はヤシの葉で葺いてあります。その葉先からポタポタとしたたり落ちる滴を見ているうちに雨は本降りになり、その滴は水のカーテンになっていきました。その向こう側は激しい雨がヴェールのようになってまわりの景色をかき消し、雨音はその他の音一切を遮断してしまいました。ぽつねんとたたずむ僕のまわりには雨の白い壁があるだけで、耳には雨音しか入って来ません。ここがマナウスなのか日本なのか桃源郷なのかそんな事さえどうでもよくなってきました。僕のまわりにある雨がその時の僕の全世界でした。

しばらく雨に魂を抜き取られているうちにしだいに雨足は弱くなり、再び僕はマナウスに帰ってきました。今度は雨上がりの林を歩いていきます。上から命の補給を受けて元気になった林ではあちこちから命の波動が感じられます。これは日本でも感じることが多い元気な林に特有のエネルギーですね。そういうところにいると体全体にそういった力を浴びることが出来て気持ちがいいです。そう思っていたら案の定目の前をカピバラに似た小動物が走っていきました。とくに日本ではこういった気配をブナの原生林で感じることが多かったですね。日本古来の森にはほんとうに「もののけ」の気配が充実していて、自分がその中に帰っていくことがとても気持ちよかったことを思い出しました。


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