12月22日 水曜日
今日は待望のジャングルクルーズの日。どのガイドブックを見ても「マナウス最大のイベント、賛否はともかくとしてとりあえず行っとけ!」と推薦されています。もちろん旅する青年としても決してはずせません。
まずは知り合いのガイドについて、埠頭まで行きます。ガイドいわく「ほんとうは小さい船の方が細い水路にも入れるのでいいんだけど、それがいま使用中で使えないからちょっと大きな船になったよ。我慢してね。」とのこと。ぼちぼち後ろをついていくと、ガイドは埠頭に止まっているあっちこっちの船から声をかけられています。彼はリンス生まれの日系2世ですが、もうすでにマナウスで30年近く暮らしているそうで、その彼の人生の一部を感じました。
その船に着いてみると、確かに大きいです。僕一人貸し切りの船なのに二階建てで、ほんとうだったら5人以上は客を乗せることが出来るような船です。こんな船をひとりで借り切っちゃうと、なにか「金満日本人がジャパンマネーにものを言わせて」みたいで肩身が狭いっすね。で、恐縮しながら乗ったんですが、それも変な話です。まあとにかく僕たちを乗せた船は出発したのであります。
この船を手配したのが今日の朝だったので、まずは物資の買い出しです。近くのメルカードでするのかと思ったら、しばらく下流に行きます。そうすると岸辺から一本の浮き桟橋が出ていて、そのまわりにちっちゃい船がたくさん集まっています。どうも水上マーケットみたいです。観光用の水上マーケットではなく、船上生活者のための本物のマーケットのようでとても活気があります。さっそくそこに横付けすると上陸して買い出しに行きました。上陸した市場は先日行ったマナウスのメルカードとは違い、いかにも地元の人達の市場といった感じです。そこには朝一番で陸揚げされた魚達がたくさんならんでいます。おなじみのツクナレやピラルクーなどで、見ているだけで食べたくなりますね。
日本にいると、川魚といえば鮎や岩魚ぐらいしかなじみがありませんでしたが、こうやってみると海に負けないぐらいたくさんの種類の魚がいます。世界の川で、こんなにたくさんの種類の魚がとれるところって他にあるんでしょうか。世界の他の大河を想像しても、ナイル川や黄河なんかは栄養分無くて魚が少なそうだし、ミシシッピ川はアメリカにあるので食文化にかけては絶望的だし。
魚市場のあとは野菜や果物を買いに行きましたが、そのメルカードが面白い場所にありました。いわゆる川の上。今は水が少ない時期なので干上がっていますが、川底にあたる場所からたくさんの柱がニョキニョキと林立していてその上に床を敷いてメルカードを開いています。そのメルカードはかなり広く、延べ面積はちょっとした体育館よりも大きいんじゃないでしょうか。上陸する時に下から見たときは「これはファベーラか?」と思いましたが、すごいところにあるもんですね。床板のすき間から下を覗くと、野菜屑や紙屑などたくさんのゴミが落ちています。きっと増水期にはそれらすべてがきれいさっぱり流されていくんでしょうが、そうすると増水期直前の今、目の前に見えるゴミはほぼ半年分ということになりますね。まだまだこのあたりには「環境」ということを考える時間や余裕がたどり着いていないのかもしれません。
そこで魚や野菜を買って出発です。僕個人の物資としてデジカメ用の替え電池を買っておきましたが、これがあとで困りものになってしまいました。さて、出発かと思ったらまだ燃料の補給がありました。これもやっぱり川の上。川の上のガソリンスタンドは昔メコンを旅したときに見たのでそれほど驚きませんでした。
今度こそ出発です。今回のツアーのテーマは「とりあえず、行っとけ」です。マナウス近郊にもコーヒー牛乳色のソリモンエス川とコカコーラ色のネグロ川が混じらずに二色の帯になっているところなどの観光地があるらしいんですが、そう言ったところを何カ所もまわるのは疲れるので、ただ「ネグロ川をさかのぼって、面白いところがあったら寄る。」ぐらいの漠然とした計画です。アマゾンジャングルトレッキングぐらいはやってみたいので、唯一のイベントはそれですね。
ということで船はメルカードを出た後、ネグロ川をさかのぼっていきます。まず岸壁に見えてきたのが造船所。造船所といっても岸辺に小屋がならんでいてそこから川の中までレールが延び、その上に船が乗っています。今乗っている船やテフェから乗ってきた船も含めてアマゾンの船の多くが木造です。造船所でも材木を組み合わせて船を造っているようです。昔技術家庭科なにかの授業で、設計図を書いてバルサ材を使った船を造ったことがありました。ちゃんと竜骨とかの骨組みを作り、本物と同じように細長い板を何枚も張り合わせて外板を作り、その上には防水のためにプラパテと塗料を塗って仕上げました。今乗っている船を見ても、同じような作りで出来ていて伝統工芸品のような美しさを感じますね。
マナウスの町をすぎ、船はのんびりと進んでいきます。船足は遅いし、川幅は広いので進んでいてもほとんど景色が変わりません。まずはトレッキングできるところをめざして進んでいくようです。でも気になったのはキッチン。早くもにんにくのいい香りが漂ってきます。さて何が出るんでしょう。
そのうち船はなんでもない細い入り江に入ります。と思ったら食事タイムです。出てきたのはツクナレのフライににんにくベースのパスタにおいしいサラダ、カジュージュース。カジューというのは日本で言う「カシューナッツ」のことです。といってもあのナッツをジュースにするのではなく、そのナッツの下にぶら下がっている水気たっぷりの果実のことです。これはがぶっとかんだだけで口の中になんともいえないおいしい汁が出てきます。ただ、まわりの人の話によると、これが洋服につくとしみになって落ちなくなるそうですが。しかしその食事のおいしいこと。たいして設備の整っていない小さな船の上で、すごい腕です。
とにかくブラジルはフルーツにかけては天国ですね。特にアマゾンのフルーツの多さはなんかちょっと異様です。東南アジアなどよりも圧倒的に種類が多いです。見たこともないフルーツが山のように売られていて、しかもバカみたいに安い。たぶん外国人が日本の魚屋に行ってとまどうのと同じような感じなんでしょうか。
食事がすむと、再び船はネグロ川を延々とさかのぼります。その間僕は船の兄ちゃんとサッカーの話などとりとめのない話をします。ただ、このお兄ちゃんはパルメイラスファンとのこと。アマゾン流域ではフラメンゴ、ヴァスコを筆頭としたリオのチームの人気が高いだけに意外でした。さらに料理を作ってくれるお兄ちゃんはサン・パウロファンだそうで、結局この船にはリオのチームのファンは乗っていないということが判明しました。めでたいことです。
やがて船はトレッキングの目的地に着きました。そこは小さな入り江になっていて、小川が流れ込み、ささやかながら滝のようなものもあってなかなか楽しめそうです。その入り江のほとりに小さい村があるんですが、そこは土の土間に板でできた家、中には椰子の葉で屋根を葺いているところもあり、素朴なアマゾンの村という感じです。でもなんでここでトレッキングと思ったりしましたが、どうも今回お世話をしてくれたガイドを含めて、このあたりをトレッキングの場所として売り出したいようです。というのも普通のアマゾンの村には似つかわしくないゴミ箱の数と、「ゴミはゴミ箱に」とい看板がそれを物語っています。きっと最近の「エコ」ブームにのっていこうというのでしょう。そういえば、ブラジルのあちこちで見かける旅行社も「エコ」とか「グリーン」とかそういった名前をつけて客の関心を引こうとしています。とはいってもぜんぜん環境問題とかに配慮していないところが多いんですが。そのせいかどのガイドブックを見ても、今では「エコとかグリーンがつく旅行社には要注意」と書かれる始末。やはり地道にいいツアーを組んでいくしかないようです。
さてトレッキングですが、ガイドが村の奥のほうに住んでいるようでしばらく歩きます。そのうち高台に出たら学校と教会とサッカー場の三点セットがあり、近くにそのガイド氏がいます。ちょうどガイド氏はそのとき仕事中でナタを片手に雑草と格闘していました。船の兄ちゃんが一言二言頼むと早速出発です。何の準備もなくあっけない出発です。そういえば出発前に「何時間歩きたい?」って聞かれたぐらいです。そのガイド氏の格好は短パン一枚で上半身裸で足は裸足、ちょっとひざをいためているようで、片方のひざにサポーターを巻いています。そのサポーターが赤と黒だったので「もしやお宅はフラメンギスタですか?」と聞いたら案の定そうでした。まあそれはともかく、こちらは長ズボンはいてトレッキング用の靴なんかはいていてちょっと浮いちゃってます。
まずは村の裏のほうに点々と続く畑と、その間にぽつぽつと建っている家の間を抜けながらジャングルの方に近づいています。当たり前といえば当たり前ですが、ガイド氏はその家々の人たちと挨拶したり、世間話をしたりいろいろと忙しそうです。村の周りにはこういった家や畑があちこちにあるようです。畑の様子を見ていると、どうもというか当たり前のように焼畑方式のようです。使われなくなった畑らしきところも見かけられ、素人目に見ても粗雑な感じです。
また、村の生活用水になっている川も少し普通と違いました。ネグロ川がコカコーラ色なのは前にも書きましたが、支流の末端にあたるこのあたりでもコカコーラ色です。小さい小川までコカコーラ色になっているのを見て、ちょっと汚い感じがしますが実際はきれいで飲むことも出来ます。
あちこちの畑や家々を通り抜けるとやっとジャングルに入ります。さすがにジャングルに入ると差し込む光の量も減り、なんとなくそれらしい感じも出てきます。とはいっても人跡未踏といった雰囲気でもなく、縦横に人の通った跡があり、ガイド氏はその中を選びながら歩いているようです。ジャングルを歩いてみると、はっきりいって日本の屋久島あたりの植生に似てますね。ジャングルと言えば、もっと鬱蒼としているかと思いましたが、やはり森林なんてどこでも似たようなものなんでしょうか。
とはいえジャングルトレッキングの途中途中にはアマゾン特有の木があり、そのたびごとに解説を加えてくれます。細かい話は覚えていないんですが、薬木が多いのが印象的でした。中には飲むと健康にいい薬などもあり、それはちょうど味の濃い牛乳を飲んでいるかのようだし、その他にも日本のサロンパスのようなハッカ系のにおいのする木などもあり、それぞれが住民の生活の一部となっているようです。もうひとつ面白かったのがその名も「電話の木」。ミサイルが垂直に立っているような木で、下のほうにある羽のような根っこが特徴です。その見た目通り、かなり広く根っこが広がっているようで、それをたたくと森じゅうにカーンという乾いた音が広がります。他の木をたたいてもこんな音は出ません。昔は村々との連絡にこの木を使っていたようです。この木はツアーの旅に何度も叩かれているのか根っこが少々痛んでいます。ちゃんとたたくための木まで用意してるところがツアーって感じです。
ところが1時間ほど歩くと大きな道に出ちゃいました。道は遠くの町まで続いているそうで、このまま道をたどれば出発地に戻れるんですが、それではもったいないのでもう一度ジャングルに入ることにしました。しかしこれは予定外の事だったみたいで、前半の時のようにちゃんとしたコースをたどることなく本当の道なき道を歩いていくことになりました。ガイド氏も時折立ち止まっては方向を確認しているようで、ちょっと不安げです。まあ僕は森の中で迷うことになれているのでそれほど怖いとも感じませんでしたが、怖いと思えばかなり怖い状況ですね。
ジャングルらしい雰囲気を少し感じた後は再び船の上の人です。ただ、こんばんはサッカーのブラジル選手権決勝最終戦がある日なのでやはりその時間はテレビの前にいたいということになり、結局どこかの村に行くことになりました。たそがれが迫るネグロ川の旅は単調そのものでしたが、その単調さが幾千年もの悠久の川の流れを感じさせてくれます。
到着した待ちはトレッキングした町よりもさらに小さい町で、本当に数えるほどしか家がありません。まずは海岸に停泊したまま夕食を済ませると、船のお兄ちゃんたちはサッカーボールを持ってさっそくビーチに飛び出します。ここの水は温かくちょうどお風呂のようで気持ちが良かったですね。日の入りとともに一日の仕事を終え、ちょっとサッカーで遊んだり、泳いだりして気持ちよい夜を迎えるという生活がうらやましいです。僕の体も徐々にブラジル式生活に染まりつつあるので「忙しくない者は人間ではない」という日本社会に戻っていけるんでしょうか。
そのうち日が暮れてきたらサッカーの試合が始まります。お兄ちゃんの知り合いの家に行くことになりましたが、しかしこの村は本当にシンプルです。途中にあったホールや学校も窓や壁がなく、涼しそうなつくりです。子供たちもみんなはだしで駆け回っていて元気があります。かといって生活に困るほど貧しいという感じもなく、本当にアマゾンの小さな小さな村といったあんばいです。とはいえかなりの家にテレビはあるようで、どの家でもテレビを見ているみたい。発展途上国に行って思うんですが、床もないような家に突然テレビがあったりカラオケセットがあったりとアンバランスなところが多いですね。先進国に住む者の勝手な意見かも知れませんが、ちょっとなじめない時もあります。
サッカーの試合を見せてもらう家には近所の人たちが何人か集まっていてすでに盛り上がっています。どちらかというとアトレチコのファンのほうが多いみたいでしたが、一人熱狂的なコリンチアーナがいて黄色い声援を送っています。ことあるごとに金切り声で叫ぶその姿を見て、ブラジルのサッカー熱はアマゾンの先の先まで浸透しているんだなあと感心していました。また、その家は木造の粗末な家でしたが、壁には聖母マリアやキリストを描いた宗教画がかけてあるところは日本の田舎の家にいろいろな教訓のポスターが飾ってあるのと同じですね。田舎の人ほど信心深いということでしょうか。
なお、試合のほうは引き分ければ優勝するというコリンチャンスがなんとなく引き分けねらいらしい試合運びで予想通りに引き分け。コリンチャンスの優勝です。
その試合を見届けた後、船の中で寝るべく戻りましたが見上げると満月。薄い雲が流れるなか見え隠れする真っ白な月が印象的でした。まわりに人工の灯りがなく真っ黒な水面に反射する月影を見るとまたまた思い出してしまいました。場所はパキスタンの山の中、インダス川沿いの宿でした。インダス川のそばに聳え立つ断崖絶壁の上にも満月が輝いていました。そのときに宿の親父が気を聞かせて薬師丸ひろこの「Wの悲劇」をかけてくれたので涙が出そうになりましたね。「時の河を渡る船にオールはない、流されてく〜〜」のフレーズと夜のインダス川がとてもマッチしていて忘れられません。今日のアマゾン川を見てもそれと同じフレーズが頭の中をよぎり、おもわずジ〜ンとしてしまいました。
12月23日 木曜日
朝起きると雨でした。船の窓を強い雨がたたいています。強い風も吹いていて船がかすかにゆれています。そのうち船をくくりつけていた杭が引っこ抜けたのかいつのまにか流されています。強い雨の中で景色が流れていくのを見ていると、その雨の向こうにアジアの景色が見えたり、ヨーロッパの景色が見えるような気がします。
この雨を見ていると「今日も早よからがんばろう!」って気になりません。それは僕だけじゃないようで船員たちもハンモックの中でまどろんでいます。テフェでもそうでしたが、強い雨が降るとアマゾンの時間は止まってしまうんですね。
そのうち降ったりやんだりの天気になってきたのでぼちぼち出発の準備をはじめます。といっても僕は何もしなくていいんですが。朝のカフェを飲むと、まず今日は釣りにでも行くことにしました。本来ならトゥクナレとか釣りたいんですが、今は増水期で時期が悪くかなりの穴場に行かないとなかなか釣れません。僕が乗っている船はそれには向いていないのでやむなくピラーニャ釣りにでも行く事にしました。
釣りの場所は樹上ロッジで有名なアリアウ・ジャングルタワーの入り口付近の水路です。さっそく糸をたらしてみると、ピラーニャ特有のビクビクっとしたあたりがきます。さすがにピラーニャだけあってどこにでもいるようです。いままで釣った南部のピラーニャはあたりが来ても魚を釣り上げるのが難しかったんですが、ここのピラーニャは簡単ですね。ちょっと引っ張ると簡単にかかります。で、あがってきたのは赤ピラーニャです。大きさは10cm〜15cmぐらいで小さいです。サン・パウロで釣っているのと同じ位の大きさですね。ただ、そのあごの力はなかなか強力です。木片を噛ませて引っ張ってみましたが、サン・パウロのよりもはるかに力が強いです。あとで聞いたところによるとこの赤ピラーニャも人食いの一種だそうであなどれません。もちろんもっとも強力かつ大きくて強暴なのは黒ピラーニャで、写真で見ると40cmぐらいあるのもいるみたいです。あごなんか5cmぐらいありそうで、確かにこいつにやられたら指の一本ぐらい持っていかれるでしょうね。
ところで昨日は裸足のおっちゃんに対してトレッキングシューズの僕でしたが、今日もそんなことがありました。船のお兄ちゃんは竿なんか使わずに直接糸をたらして釣ってます。それに比べて僕は竿にリールまで使っちゃってとっても重装備です。でも釣れるのは同じだからたまりませんね。
そのうちアリアウ・ジャングルロッジから来たらしいボートがこちらにやってきます。そちらは小さいボートにたくさんの人が座って糸をたらしていますが、こっちは二階建てのボートに僕一人です。僕のことを「けっっっ、金持ち日本人がガキのくせに。」とか思っていると考えるとちょっと恥ずかしいですね。本当のお金持ちなら堂々としてられるんでしょうが、元々貧乏人なだけに、肩身を狭くしてしまいました。それでも向こうよりはこっちの方が良く釣れているみたいなのでちょっと誇らしげな僕であります。
しかし、釣れる釣れないってのは何が原因なんでしょうね。僕もその人達も同じようなところで同じような仕掛けで釣っているのに全然違います。地元で釣りをするときも同じ船で同じ針を使っているのに違います。小さい頃から田舎で育って、山や野原で遊んでいたので、なんとなく自然の営みと波長が合うんでしょうか。
でもピラーニャを釣っても面白くないので、早々に切り上げ、アリアウ・ジャングルロッジ(HP:Amazon Lodge Ariau Towers Travel to Manaus and Rainforest Treetop Lodge)に行ってみることにします。アリアウは樹上にあるロッジとして有名で、一度は泊ってみたいと思っていたんですが、なにしろ二泊三日ぐらいで300ドル以上するという話なのであきらめていました。でも昼間ちょっと遊びに行くぐらいだったらとても安いそうなので喜んでついていきました。
ピラーニャを釣っていた水路をさらにさかのぼっていくとアリアウです。高床式のホテルから船着場まで階段が伸びています。その高床式のレセプションの前には各国の旗がかかっていて、その中にはもちろん日本の旗もあります。きっと日本からのお得意さんもたくさん来ているのでしょう。でも高床式のホテルと旗を見ていると子供の秘密基地かなにかのような気がします。
船を下り、階段を登ろうとすると、サルが寝ています。人間が近づけば逃げるだろうと思っていましたが一向に逃げる気配がありません。また、こっちが近づいても見向きもしないし、相当人間になれているみたいです。サルをやり過ごしてホテルに入ってみると、天井も低く、どことなく薄暗いです。なぜかそれをみてロッキーチャックが住んでいたあなぐらを思い出してしまうんですが、それはなぜなんでしょう。とにかく入場料を払って案内人の後についていきます。
レセプションを出ると、そこは地面から5mぐらいのところにある通路でした。実際「樹上ロッジ」と言われていますが、本当は地面から支柱を立て、その上に各種の建物を建てているようです。そしてまず案内されたのが動物園というかオンサ(豹)の子供やアマゾンの鳥たちを飼っている檻です。レセプションのすぐ外にあり、いかにも「観光客の皆様、お楽しみ下さい。」的な感じもしますがまあそれはそれ、そういったところだからいいんでしょう。
一通り説明を受けた後、周遊コースに行ってみます。あちこちの建物を高床式の回廊がつないでいて、そこをまわっていきます。まず最初に行ったのが展望台。このあたりのジャングルは結構樹高が高く、かなり高いところに上がらないと展望が開けません。その頂上からの眺めは絶景と言いたいところですが、それよりも先に「単調」ですね。360度見渡す限りジャングルで、ネグロ川がちょっとしたアクセントになる以外なにもありません。やはりそれなりに景色にメリハリがないとだめですね。
展望台の後はホテルの宿泊棟に案内されましたが、なんとなくチャチっぽくて、学園祭のやぐらのような感じです。でも一度は泊ってみたいですね。ところで、この旅行記を見て、アリアウに泊まろうとしているみなさん、他の人の話ではここのホテルの部屋は二泊三日300ドルという値段にも関わらず、おチープだそうです。ちなみに300ドルでは一番安い部屋にしか泊まれません。このホテルの価値は部屋にはなくて、そのまわりの環境や施設にあります。また値段の中には一日ツアーの料金も入っているので、トータルでジャングルライフを楽しみたいという方におすすめです。豪華なホテルライフを楽しみたい方はマナウス近郊のホテルをどうぞ。アリアウの宿泊記などは「マダムNの海外ザアマス便り」の Vol.15,16,17 あたりを参照して下さい。
宿泊台、展望台、レセプションはそれぞれ近くにかたまってあるんですが、これから先、少し離れたところにいろいろな施設があるみたいです。さっそく行ってみましょうガイドに案内されるままに歩いていきますが、高床回廊はとっても快適です。足元を見るとけっこう草も茂っていて、普通にこういったところを歩こうとすればかなり疲れるでしょう。そこをこうやって楽させてもらえるってのはありがたいです。日本ではそういったところを汗かきながら歩いていただけに特に感じます。山の頂上までロープウェーかリフトで連れていってもらうときのような優越感と罪悪感が一緒になったような気持ちです。
しかしここで痛恨にもデジカメの電池が切れてしまいました。「それでは」と船に乗る前に買っておいた電池に交換しますが、なんと新品を入れているのに動かない!!買ったときから驚くほど安くてインチキくさい電池だなぁと思っていましたが、やはりインチキだったようです。せっかくたくさんの被写体が僕を待っているのになんということでしょう。
その後は教会や釣堀に案内されましたが、やはり写真が撮れないと悲しいですね。ちなみに教会もちゃんと高床式です。その次に案内されたのが天文台。天文台といっても丸い建物の中に僕らが子供のころ使ったような望遠鏡がおいてあるだけですが、このあたりには人工の灯りなんてないのですばらしい夜空が見えることでしょう。これだけでも泊りに来る価値がありますね。
次に案内されたところほどデジカメを使いたかったところはありません。その名も「ピラミッド」という怪しげな場所です。行ってみると確かにそこにはガラス張りのピラミッドがあります。高さは7〜8mぐらいでしょうか。そのガラスの上にはプラスチックでできたツタがはっていて見た目にはジャングルのなかの神秘のピラミッドみたいで、どことなくゲームの「Tomb Raider」を思い起こさせます。その肝心の内側にはカーペットが敷いてあり、なぜか枕まで置いてあります。ただ、なんといっても暑い!赤道直下で温室にいるみたいなもんです。ガイドの話だと、「今はちょっと調子が悪いが、クーラーをつければ涼しくなるし、BGMの設備もあり、アロマテラピーもできる」とのことです。「ジャングル=神秘=ピラミッド」という思考パターンがなんとなくヨーロッパ系のお金持ちおじいちゃんツアーを想像させてくれます。
その近くにアリアウで一番気持ちよさそうなところを見つけました。それは建設中の展望台で、こちらはひときわ大きな木のまわりを取り囲むように出来ていて、ぐるぐるとまわりながら登っていくと本当に木に登っているような気持ちになります。頂上はさっきの展望台よりも広くなっており、頭の上には枝が張って日差しをさえぎっていて吹き抜ける風が涼しいです。まだ建設中ですが、完成したらここにヘッジをつって休息所にするということでこれはなんともいえないいい寝床ですね。ついでに隅っこに小屋が建てられているので「これはなんだ?」とたずねると「ここで飲み物を売るんだ」とのこと。う〜んこんな高い木の頂上でカイピリーニャでも飲みながらヘッジに揺られるという晩年のトム・ソーヤー風の一日を過ごすためだけでも一泊する価値がありますね。
そこを出ると今度はネグロ川沿いの回廊を案内されます。すると回廊の一番外れのところにまたもや建設中の建物があり、これは宿泊棟になるそうです。足元にはプライアがあり、周りに建物はなく、できたらここに泊ってみたいですね。それにガイドの話では「雨期にはここ一帯が河になってしまうが、乾季になると干上がって一部が取り残されて池になる。そこにはたくさん魚がいるんだ。」とのことで、さらに釣りのためだけにももう一泊が必要です。
このあたりで方向転換してレセプションに帰るんですが、ネグロ川沿いの回廊は延々と続きます。もうかれこれ一時間ぐらいは歩いているんじゃないでしょうか。単純に考えても4km近い回廊があることになります。それに途中途中に新しく建設中の回廊もあり、かなり大きい回廊網になるんでしょうね。その回路網の要所要所にはあずまやがあり、そこにも気持ち良さげなヘッジがぶら下がっていてこれもとっても魅力的です。
結局ヘッジに一日、天文台に一日、天然釣堀に一日と最低三泊はしないといけないという結論になりました。
「いつかは泊りたい」という思いを残して再び船上の人になります。もうマナウスに戻るだけです。気持ちいい風に打たれながら進んでいきます。そういえば汗をかいたのでシャワーでも浴びましょう。といってもシャワーの水は河からくみ上げたコカコーラ色の水です。船内にシャワー室なんかないので船の後ろのデッキの上です。あまりにも広い河とあまりにも広い空を見ていると、なんかこそこそするのが恥ずかしくなり、デッキの上で裸になります。生まれたままの姿で、生まれたままの自然に囲まれながらシャワーを浴びていると大きな地球と一体になれたような気がして、心が大きく広がるような気持ちです。この気持ちを味わえただけもジャングルクルーズに来る価値があるのかもしれません。
そんなおおらかな気持ちになって、マナウスに到着です。宿に帰り、セントロのオープンカフェで夕食をとっていると子供たちの物売りがたくさんやってきます。そのうち一人が僕の周りでしゃがみこんで何かやっています。「何してのかな?」と思ったら、足を組んでいた僕のズボンのポケットから小銭が落ちていたようです。拾ったお金をもってどこかに行こうとしていた子供ですが、となりのテーブルのおじさんに注意されています。「そのお金はあの人のだろう。ちゃんと返しなさい。」ブラジルでは落としたものは絶対帰ってこないよと言われていただけにこういったおじさんの発言は心洗われる気がします。その二人のやりとりを興味深く見ていると、はじめは「違うよ、私のお金だよ」と言っていた子供も、不承不承あきらめてお金を返しに来ました。こっちも「お〜おまえは良い子だ。どれ、そのキャンディーをひとつ買ってあげよう。」と気前も良くなり買うつもりがなかったキャンディーを買ってあげます。すると子供のほうが実は一枚上手でした。「おじちゃん買ってくれてありがとう。じゃあ拾ったお金全部返してあげる。」とまだ隠していたお金を差し出してくれました。なんか「やられた!」と思いましたが、不思議と心が温かくなりますね。
これに限らず、昔の僕は物売りから物を買ったりすることはほとんどありませんでした。「どうせふっかけられるに決まっている。」と思っていたからです。でも最近になって気持ちが変わってきました。「彼らがどういった生活をしているのか知らないけど、生きていくためにこうやって物売りをしているんだろう。本当だったら生活なんか考えないで遊びたい盛りだろうに。しかもお金がほしいからといって盗むんではなくて、こうやって社会の末端ながらまっとうにお金を稼ごうとしているんだね。」という気持ちになっちゃって、必要もないのに買っちゃいます。もしかしたらそういった同情を買うために親や胴元がそう仕向けているのかもしれませんが、「それならそれでいいじゃないか、だまされてやろうや」と割り切ることが出来るようになりました。もしかしたら年をとったせいか、丸くなったんでしょうか。