12月27日 月曜日
今日もお出向かえです。ただし、その前に銀行に行かねばなりません。今回のツアーでは日本からの友達にはNYの僕の口座に事前に振り込んでもらってます。そのお金をまとめて両替して今度はそれをブラジルの銀行口座にうつし、さらに小切手でお金を支払っています。つまり事前に預かっている分、みんなのホテル代や食費を僕がまとめて払うという方式です。もちろん小切手が使えるところは小切手で払うんですが、やはり現金も必要で、銀行に行くことになったんです。
そんな能書きはどうでもよくて、南米銀行の支店に行きます。ところでこの南米銀行、もともと日本移民の人達が作った銀行で、日本語の看板もあります。日系社会のシンボル的な存在でしたが、おおむね衰退を迎えている日系団体のご多分に漏れず、この銀行も経営が傾きイタリア系の銀行のスダメリスに吸収合併されてしまいました。日本だったらそういった場合、吸収された南米銀行のキャッシュカードでスダメリスの支店からもお金をおろせそうですがなぜか出来ません。もともとブラジルでは日本のようにどこの銀行からでもお金がおろせるようなシステムはなく、自分の銀行の支店から引き出さないといけません。一応「Banco 24 horas」という各銀行共通のキャッシュディスペンサーもありますが、一日あたりの限度額が決まっているので不便です。
で、南米銀行は主に日系人という小さいマーケットを相手にしていた銀行なので支店数が少なくて困ります。ふだんの生活には別に困らないんですが旅に出たときなんかは困りますね。旅行の時には支店のリストを持って「この町には支店があって、次に支店のある町に行くのは○○日後だからその分のお金はだいたいくらぐらいかかって…」と計画的な出費をしないといけません。とくに支店の少ない北部を旅行するときには苦労しますね。ただ、そんな南米銀行のありがたいところは日系人のよしみで「特別小切手」を作ってくれるところ。クレジットカードでいうとゴールドカードにあたる信用度の高い小切手です。普通の小切手は自分の町から遠く離れたところで使えないことが多いんですが、この小切手だとほぼブラジル全土で受け付けてもらえます。とくにカードなどがあまり普及していないブラジルではありがたいです。
さてさてやっと銀行に到着。さっそくお金をおろそうとしますが、おろせません。キャッシュディスペンサーには「あなたの口座のある支店とはただいま連絡がとれません」などと出てきます。ナニィィ〜、こっちはお金に困ってるのに!!と窓口のお姉さんに聞いてみますが、「さあ、こればっかはしょうがありませんね。また時間をおいて来て下さい。」とのこと。はい、そうします。ところでこのやさしいお姉さん達もちょっとリオ風。こっちでは日本のように制服がないのでみんな思い思いの格好をして窓口業務をしています。でもほとんどが夏バージョンの「お肌露出してます!」って格好で、しかも肩のところには水着のラインがくっきりと出ていてとっても健康的です。その「遊んでます!」って格好と対照的に仕事は真面目にやっているところが面白いですね。今まで何度も書いたかもしれませんが、ブラジルはみんな真面目に働きますよぉ。南米だからといってなめちゃいけません。もちろん日本人みたいに効率的というわけには行かないけど、朝の定時からきっちりと働いてます。ただ、まわりの人に言わせると「ブラジル人は働くけど、ちゃんと見ていないと必ず手を抜く」そうです。
結局銀行でお金をおろせないまま、空港に迎えに来ます。今日もなんの問題もなく友人が到着しますが、その背中のザックの大きいこと大きいこと。「なに持ってきたんですかぁ?」と聞くと「この中の半分以上は水鉄砲だ!」。そうそう、彼はアメリカの大学院にもう長いこと留学中で、アメリカ産の安い水鉄砲を持ってくることになっていました。小さい水鉄砲もあるけど、ポンプで圧縮するタイプの大きいヤツも二丁持ってきています。一丁の長さが70cmぐらいはあるのでザックもでかくなるはずです。しかし税関で開けられなくて良かったですね。もし開けられたらなんて説明するんでしょう。「コパカバーナで水遊びするんです」と正直に答えるんでしょうか。
その後、無事に銀行でお金をおろし、ホテルでシャワーも浴びてさっそく出動です。まずはイパネマのレストランで待ち合わせです。ここは前回リオに来たときに入ったところで、イパネマの海岸に面してオープンになっていて、少し値段が高いものの気持ちがいいところです。そこで友人と会うんですが、今回はブラジルで一緒に仕事をしている友人と、僕の大学の頃の友人が一緒になります。ブラジルの友人の間ではそれなりにそつなく振る舞っていましたが、大学時代の僕はやや遊び人で、今回来た連中たちと遊び回っていました。そのためちょっと緊張したんですが、まあなんとかうまく行きそうです。
さて、今日の目的はひたすら「ビーチでまったり」です。大学時代の友人と遊ぶときは山や温泉やビーチで一日のんびりするパターンが多かったので、今回もそれにならい適当なキオスクを見つけて、そこで粘ることにします。まずはせっかくリオの来たんだからということでイパネマからリオまで歩いてみましょう。
年末の観光シーズンということでたくさんの観光客がいます。そんな人を見ているだけでも楽しいです。その中に「こいつは」という人も何人か見かけました。まず最初は「変質者オジサン」です。別に本人は変質者かどうか分かりませんが、明らかにその風体が変質者。年の頃70歳ぐらいのおじいさんなんですが、黒いピチピチの水着です。まあこれぐらいだったらリオにはごまんといるんですが、注目すべきは足元、黒い革靴に黒い靴下。しかもその靴下はサラリーマンがスーツの下に履くようなストッキングみたいな靴下です。ちょっと言葉では伝えられませんが、頭の中に「黒い競泳用水着に黒いストッキング靴下に黒の革靴」を想像して下さい。どうみても変質者です。
で、もっと度肝を抜かれた人もいました。面白い人が通りかかっても、その人の目の前では何食わぬ顔をして通り過ぎて、通り過ぎた後に「ねえねえ、さっきの人だけどさ・・・」と一応礼儀を守って罵倒していたんですが、この人ばっかりは思わず目の前で笑ってしまいました。それはおばちゃんで、わりと小ぎれいな格好をしています。黒いTシャツを粋に着こなしてはいるんですが、そのデザインというか文字に驚かれぬる。なんとそこにはカタカナで思いっきり「ゲス」と書かれているんです。その横に小さく「?」って書いてあったのでたぶん「guess ?」の事だとは思いますが、しかしカタカナで書かれると…我慢できませんでした。ブラジル人には日本語が珍しいのでTシャツなんかにカタカナや漢字を書いているものが結構あるんですが、これはそのうちの一番のヒット作です。このほかには帽子にきれいな刺繍で「猫」と書いている人もいました。これはまあまあの作品ですが、格好いい兄ちゃんがいかにも「俺様イケてるだろ?」って感じでかぶっていたのでちょっとだけ面白かった。
その他にも面白い人はいます。ブラジル人は欧米系の血が入っているので、全般的に毛むくじゃらなんですが、背中にも毛が生えている人がいます。もちろんそんな人はちょっとした外国のビーチに行けば見かけられるんですが、リオは年輩の人もビーチにいます。で、いましたいました。毛むくじゃらのおじいさん。胸毛から背中毛までもうフル装備で生えているんですが、それが見事に白くなっています。全身真っ白な毛におおわれたおじいさんは季節はずれの雪男みたいです。それでも堂々と水着一枚で歩いているところがリオのリオたるゆえんかもしれません。
さて、コパカバーナについたので、ちょっと一休みです。キオスクで椰子ジュースでも飲みましょう。飲んでいる間も人間観察は欠かせません。今回のターゲットはビーチのお兄ちゃん。僕たちがいるキオスクはコパカバーナの一流ホテル、リオ・オットン・パラセの前にあります。こういった大ホテルの前のビーチは半プライベートビーチとなっていて、ホテルの名前がはいったビーチチェアーとパラソルがならび、宿泊客向けのドリンクスタンドなんかもあります。また、そういったところにはちゃんとガードマンもいて、治安の悪いブラジルからお客を守っています。で、僕たちが着いたときは、店じまいの頃らしく、ガードマンのお兄ちゃんが後かたづけをしてます。また、このお兄ちゃんがかなりのマッチョ。黒人ですが、鋼のような黒い肌が汗できらきら光っています。しかしこの筋肉は誰のためのもんでしょうね。単なる泥棒よけでしょうか。ビーチでくつろぐ有閑マダム向けのもののような気がするのは僕だけでしょうか。そのお兄ちゃんもそうとう自意識過剰で、ただビーチチェアーとパラソルを片づけるだけなのにボディービルのような不自然な動きで体を強調します。そんな分かりやすいお兄ちゃんを見ているとなんかほのぼのとしてきますね。
そのキオスクを後にして、コパカバーナ沿いを歩いていると、「これぞブラジル!」ってヤツを見かけました。その名も「フットサッカー(?)」です。リオの海岸にはビーチバレーコートがたくさんあるんですが、そのうちの一つでやってました。ルールは簡単で、ビーチバレーと同じ二人一組になってバレーをします。ただ、両手は使わずに、胸と足だけで全部やっちゃいます。サーブの時はラグビーのPKの時のように砂の山を作り、その上にボールをのせてけっ飛ばします。見ているとだいたいレシーブは胸で行い、アタック(もどき)はヘディングでやるみたいです。バイシクルシュートでアタックとかやらないかな?と思いましたが、それはないみたい。ちょっと残念。昔ヴェトナムで、バドミントンのシャトルみたいなのを使ったフットバレーを見ましたが、あちらはもっと華麗でした。選手の身長よりも高いネットの上からバイシクルでシャトルを相手コートにたたき込んでいましたからね。まるでセパタクローみたいで、すごい迫力でした。サッカーの選手がバイシクルをすると、だいだい背中からドスンと落ちますが、彼らはバイシクルしてもちゃんと足から着地するところもすごかったですね。まるでアクロバットみたいでした。こちらリオのフットバレーはそれほど華麗さはありませんが、やはりブラジル人の足さばきは一流でした。ところで交替チームの中には女性も入っていて彼女のプレーも見ましたが、女性だからかどうかは知りませんが、胸でのトラッピングは一度もしませんでした。どんな球でも足でトラッピングしてましたね。
それを後にして歩いていると、またまた面白い人がいました。リオの海岸は人を飽きさせませんね。それは家族連れみたいな人達でした。娘さんらしき人が、盛んに砂をかけています。かけているところは人間の形をした砂山。早く言ってしまうと砂に生き埋めになった人です。女の子はキャッキャとはしゃいでどんどん砂をかけますが、人型の山は動きません。初めは「誰かを冗談で埋めているのかな?」と思いましたが、埋められている人は全然動かないので、単なる砂山のようです。「じゃあいったい彼女は何を楽しんでいるんだろう?」としばらく見ていたら、突然砂山が崩れ、人が出てきました。しかもうつぶせで。「ええぇ〜〜」っと思っちゃいました。だって僕たちがそれを見ていたのは相当長い時間だったと思うけど、その間ず〜〜っと砂の中で我慢していたんでしょうか?埋められていたオッサンもこっちを見て「楽しんでいただけましたでしょうか」って顔をしていて、まさに「してやられたり!」でした。
そのうち気持ちよさそうな木陰のあるキオスクを見つけたので、「今日の目的地はココ!!」的な気分になり、もうそのまま居座ることにしました。またもやくだらない話をしながら人間観察。ここでの注目は物売りです。だいたいリオのキオスクに座っていると、ピーナッツから絵まで、ありとあらゆる物売りがやってきます。リオの海岸で手に入らないのは安全ぐらいなもんです。でもおみやげなんかの物売りはあんまり楽しくありません。「つまらん!」と思っていると、面白いヤツがやってきました。そいつが売っているのはビールの入ったコップ。といってもどっきりカメラで使うような仕掛け付きのコップで、横からみると普通にビール(本当はビール色の着色した水)が入った透明なコップに見えますが、巧妙にフタがされていて逆さまにしても中のビールがこぼれません。まずは普通にビールを飲んでいるフリをして、通行人が通りかかったらそのビールをひっかけます。もちろん中のビールはこぼれないようになっていますが、やられた方はかなり驚きます。驚いた客に向かって「ハ〜イ、一つ○○R$だよ〜〜」と売りつける訳です。
で、このビールオヤジは僕たちがいるキオスクの前でさかんに通行人を驚かせては売りつけようとします。見ているこっちとしては「どっきりカメラ」をナマで見ているようなもんで、結構飽きません。大げさに驚く人もいれば、話しに夢中で気付かない人もいます。ただ、みんなに共通していることは「誰も買わない」ということです。こう書いてしまうとビールオヤジがいかにもかわいそうですが、またそのオヤジも全然悲しそうな顔をしないんだな、これが。コップを売るよりも人を驚かす方が好きみたいで、どんどん驚かせては悦に入っています。なんか物売りというと「何が何でも売りつけてやるかんね!」というギラギラした人が多いと思いきや、こんな遊び半分の物売りもいるってところがこれまたコパカバーナらしいです。このほかにはケチャップ屋さん(ケチャップが飛び出るように見えるケチャップケースを売ってます)とかいてみんな自分が楽しむために働いているようです。
ホントに今日一日はつもりつもった話と人間観察だけで終わってしまいましたが、リオのプライアの新しい楽しみ方を発見した一日でした。
12月28日 火曜日
本日は日本から来る客人はなし。朝からのんびり出来ると思いきや、そうも行きません。なぜなら引っ越ししないといけないからです。今泊まっているところは小ぎれいで従業員もフレンドリーでとてもいいところなんですが、28日からは年末料金になり値段がグーンと上がります。こっちではパコッチって言うんですが、5泊分ぐらいがセットになった料金でかなりふんだくられます。だいたいレギュラーシーズンの3倍以上といったところでしょうか。僕たちはそんなお金もないし、いいホテルに泊まれる身分でもないので移動することにしました。今夜からの宿泊先は知り合いが働いているリオ市内の日本語学校。ここならほとんどただに近い値段で泊まることが出来ます。
その前にホテル前のランドリーに出していた洗濯物を回収しないといけないんですがなんとまだ出来ていません。26日の朝には出していたので二日後の今日になっても出来ていないとは・・・絶句しながらも「今日日本に帰るから急いで仕上げてくれ」と頼むと30分ほどで出来てしまいます。「それなら初めからそうしなよな」とか思うもののしょうがありません。ここはブラジルです。で、もう一つ驚いたのが値段。猛烈に高いです。これは後で知ったことですが、ブラジルのランドリーが高いということは有名な話だそうで、Tシャツなんかをランドリーに出すぐらいなら新しいのをもう一枚買った方が安くつくぐらいです。
NHKの大河ドラマ「山河燃ゆ」でもそうでしたが、ブラジルの日系人が初めのころ開いたお店もランドリーだったそうです。でも結構ランドリーって儲かるのかもしれません。少なくともこの値段を取るなら。「山河燃ゆ」ですが、ドラマを見たあと原作も読んだんですが、今になってやっと分かることもたくさんあります。物語の主人公達の心の中にある日本とアメリカの二つの祖国というのはブラジルも同じです。当時のアメリカ日系人は強制収容所に入れられましたが、こちらブラジルも収容所ほどではないにしろブラジル当局からの圧迫を受け大変だったみたいです。その中でブラジル人として生きる二世達と日本人として生きる二世達が分かれ、これが後々の「勝ち組負け組闘争」の原因の一つになったというあたりは本当にドラマです。
さて、ランドリーも片づき、日本語学校に移動です。学校では空いた教室などにベッドが運び込まれていて快適な部屋になってます。クーラーなんかもあってホテル並です。場所もコルコバードのキリスト像に登る電車の駅のすぐ近くて交通も便利。ただ、バスの終点から少し歩かなければいけないのと、近くにファベーラがあって少し治安が悪いというところでしょうか。
荷物も解き、準備が出来たところで出発です。今日の目的地はチジュカ国立公園。みんなリオの主な観光地は歩いたので、目新しいところということでここにしました。もともと日本でも山登りとか好きな連中だったので博物館なんかに行くよりは楽しいでしょう。僕もリオの街から15分ほど行ったところに国立公園があるというので結構興味がありました。リオは海岸近くまで迫る山脈のまわりの狭い土地に広がっていますが、公園はその海岸山脈の上にあります。ただし15分というのは自分の車で行った場合。僕たちはバスの乗り継ぎで行くので結構時間がかかるはずです。案の定調べてみると、いったんホドビアリア近くまで行ってバスを乗り継がないといけないということが判明。さっそく出発です。
コルコバードのあるコズメ・ベーリョを出発したバスは、いったんセントロに出てプラサ15の方まで行きます。かなり遠回りになるんですが仕方がありません。その分リオの港の近くを通るので、港の風景を楽しみます。バスの車窓から見ると、港沿いには古めかしい建物が建ち並び、その上には青空が広がっています。なんとなく開放的で旅心をそそるものがありますが、今回はお預けです。途中セントロのバスターミナルを通るんですが、なんとこのターミナルが地下にありました。地下のターミナルではたくさんのバスが出たり入ったりしていてもうもうたる排気ガスです。まだまだブラジルが環境について考える国ではないのは分かってはいるんですが、なんとかならないもんですかね。
その後の乗り継ぎはすんなりといき、公園行きのバスに乗ります。バスはサエンス・ペナの町並みを通り抜け、徐々に高度を上げていきます。やがて建物も少なくなり、静かな別荘地みたいな雰囲気になってきました。まわりは豊かな自然に囲まれていて、いかにもお金持ちが好みそうな場所です。なんとなく香港島のレパルス・ベイあたりのコンドミニアム地帯を思い起こさせます。急勾配と急カーブを何度も通り過ぎ、頂上についたあたりに国立公園の入口はありました。国立公園といっても入口のまわりには大きな家が建ち並び、それほど山の中という感じではありません。
では入ってみましょう。公園はチジュカの山の谷沿いにあり、道路もきれいに整備されています。普通は車で観光に来るようで、のんびりと歩いている僕らのまわりを通り過ぎていきます。ただ、ところどころに歩行者専用の遊歩道があり、そこではブラジルらしい自然を楽しむことができます。そういった車と歩行者の共存できる公園作りは日本の山の公園の作りにも似ています。
公園内にはいくつかの見所がありますが、その多くが滝です。公園が谷沿いにあるので、そこを流れる川があちこちで滝をこしらえています。まず最初の滝に行きますが、そこに広がっていた光景は日本の滝と同じですね。まずは駐車場があり、その近くにはおみやげ物屋や食堂があります。滝のまわりは柵で囲まれ、滝の由来などが英語とポル語で書かれていたりして日本の観光地と全く同じです。ただちょっと違うのは滝の真っ正面でカップルが延々とキスをしていたことで、こっちがそれを写真にとっても気にしていないようでした。でももしかしたら今の日本もそうなっているのかもしれません。
滝を後にして、さらに奥をめざします。途中山道があったのでそっちを歩くことにしますが、20分ほど歩いても次の滝に到着しません。それどころか道がカーブしていてあさっての方向に続いています。なんかこのまま進んでいくととんでもないところに行っちゃいそうなのであきらめて、元に戻ります。すると今日、昼御飯を食べる予定にしていたレストランにすぐに着いてしまいました。
そこはガイドブックに「公園内のレストランでは一押し」と書かれていたところです。古風な建物で、レストランの正面には庭園があり、その向こうには鬱蒼としたチジュカの森が広がっています。レストラン内も年代物の落ち着いた家具が置いてあり、いかにも心地よさげです。ここはイタリア料理屋なんですが、こっちのイタリア料理は日本にくらべると量が多いので、やや少な目に頼みます。でも出てきたのを見てびっくり。日本と同じぐらいのかわいらしい量です。日本人相手だったらそんな商売でも通用すると思いますが、ブラジル人相手にそんなんでいいんでしょうか。
ぶつぶつ言いながら食べてしまうと、雑談モード。もともとあちこちあくせくまわるのは嫌いな人達ばかりなので「なんか今日はもうこのレストランにじっとしてようや」って気分になってます。これはブラジルのレストラン全般に言えることなんですが、レストランの値段の中には場所代も入っているようで、いったん料理を頼めば何時間粘ろうと店員はイヤな顔ひとつしません。日本みたいに無言のプレッシャーがかかることもないので自然と腰も重くなっちゃいます。
久しぶりの再会と言うことで話は弾むんですが、話の内容は学生時代とちっとも変わらないくだらなさです。その日のテーマは「15億円のもっとも無駄な使い方」です。ギャンブルや女にお金を使っちゃうのはつまらないので、最高にばからしい使い方は何だろうかと真剣に考えます。で、出てきた答えをいくつかあげると
ですが、全くくだらない話です。わざわざ日本から有休使ってリオまで来て、何時間も話す内容とは思えませんが、そんな馬鹿馬鹿しいところが僕らにお似合いです。そんな話を延々としているうちに、いつの間にか店員が店じまいの準備をしています。さすがにもう帰らなきゃいけないかな、ということでやっと腰を上げることにしました。外に出るともうだいぶん日も傾いていて、これから奥まで歩けるような時間帯ではなくなっていました。もうここでUターンして、ちょっと寄り道しながら帰って行きました。
さて、再び公園の入口に戻ったときはちょうど夕暮れ時。リオの人達が家路につく時間帯です。チジュカ国立公園からまっすぐリオ市内に向かうバスはラッシュ並の混雑です。すでにブラジリアンになってしまった僕たちはラッシュのバスに乗るぐらいだったら遠回りでもすいているバスに乗ろうということで割とすいている反対方向のバスに乗ることにしました。これはリオ郊外のバハ・ダ・チジュカに行くバスです。いったんバハ・ダ・チジュカに行ってから、そこからレブロンに出て、学校に帰る計画です。
でも失敗。バハ・ダ・チジュカまでは簡単に来たんですが、そこから直接レブロンに向かうバスが全然来ません。30分ぐらい待っても来ないので、適当なバスに乗ってみたらそのバスがレブロン海岸に行ってくれました。で、レブロンに着くと、友人の一人が青い顔をしています。そして「トイレ行きたいっす…」と悲痛な叫び。ということで近くにあったコンドミニアムを何軒かまわり、なんとかトイレを見つけました。トイレの後、やっとの事でレブロンのレストランにたどり着くのでした。ここも昼に続いてイタリア料理屋。今度はピザです。
なんか小学生の作文のようにあったことをダラダラと書きつづってますが、これには訳があります。この日の終わりにみんなで話したんですが「今日あったことすべては神の導きだったのかもしれない。もしこいつがトイレに行かなかったら運命は違ったはずだ」ということで、やはり時間を追って書かねばならないと思ったからです。
それは食事も終わって「さあ、急いで帰らないと学校の門限だ!」という時に起こりました。今回のガイド役を仰せつかっている僕はさっそくガイドブックを見て学校までの直通バスが通るバス停を探しだし、一番初めに店を出てサクサクと歩いていきました。この時は夜の10時ぐらいでまだまだカリオカ達は家に帰りません。そんなカリオカ達を見るでもなく通り過ぎていると「んんっっ?カリオカ?」と一瞬立ち止まってしまいました。なんかどこかで見た人がいるんです。でよく見てみると、日本で一番有名なカリオカがいました。
びっくりしてしまった僕は呆気にとられてこう言ってしまいました。
「あっ、ラモス・・・」
後ろを歩いていた友人達も僕の声は聞こえたはずですが、「ラモスに似ているブラジル人でも見つけたんだろう」ぐらいの気持ちだったらしく、何も気付かず通り過ぎようとします。そんな友人を引き留めて「だからラモスだって!」と言ったらやっと気付きました。
もうあとは写真とったり握手したりとお決まりのパターン。
日本の原宿なんかで芸能人を見かけるのとは訳が違います。カリオカ・ラモスとリオで遭遇しちゃったんです。「ここに住んでいるんですか?」とポル語で聞くと「うん、すぐそこ」と流暢な日本語で返事が返ってきて、自分でもおかしくなっちゃいます。
僕たちもびっくりしましたが、ラモスの友達もびっくりしたみたい。「お前って本当に日本人には有名なんだな」って顔でラモスを見つめているのが面白いですね。この逆の現象もあるのかもしれませんね。日本人には無名でも外国のどこかの国では超有名は人とか結構いそうな気がします。
12月29日 水曜日
昨日の晩、遅くまで起きていたせいか、寝坊してしまいました。学校から空港まではまっすぐ行けなくてホドビアリアで乗り換えです。ただ、乗り換えの前に少し歩かないといけないんですが、途中にある壁が小便くさいんです。リオの街のちょっとした壁は公衆トイレになっているようであちこちの壁から小便の匂いがします。まあそれ自体は慣れたんですが、その壁にもたれかかっている人がいるのには顔をしかめちゃいますね。
空港に着くとまだ友人の到着前でした。実は今日の友人の到着を僕も待ち望んでいたのは僕です。なぜならパソコン持ってきてくれるから。僕のブラジル旅行の写真はすべてデジカメで撮っています。デジカメを買ったときについていた8MBのメモリーカードに加えて、なけなしの金をはたいて買った48MBのカードも合わせると合計56MBとなり、画像サイズを落とすとだいたい400枚ぐらいとれる計算になります。しかし今回のように何週間も旅をすると、その400枚でさえ心細くなってきます。この問題をどうするかいろいろと考え、大容量のカードを買うという手もありましたが、将来性も考えて、モバイル用のパソコンを一台購入することにしたんです。で、今日到着する友人にそのパソコンの運搬を頼んでいたので早く見たくて見たくてしょうがありませんでした。
その友人とも無事に落ち合います。これで今回のリオ・カウントダウンツアーは全員が揃ったことになります。さっそく学校に行き、パソコンを見せてもらいますが、やはり小さい。今さらながらに日本のテクノロジーに驚かされますが、パソコンで遊ぶのは後にして待ち合わせの場所に急ぎます。
今日の待ち合わせはポン・ジ・アスーカルの直下にある小さなプライア「ウルカ」です。このあたりには高級住宅が建ち並び、その間にある長さ50mほどのプライアはいかにも「お金持ちのお庭」といった感じで、品の良さそうな客達がたくさんいます。今日は全員が勢揃いしたのでまたまたポン・ジ・アスーカルに登る予定です。僕たちがプライアに到着したのとほぼ同時に他の連中も到着です。こっちは予定よりも40分以上遅れていただけに「待たせてるんじゃないか?」と気が気じゃありませんでしたが、みんなブラジル人になっちゃったんでしょうか、待ち合わせ時間に40分遅れてきっちりと勢揃いしちゃいました。
そのままプライア沿いの半オープンテラス式のレストランに入ります。プライア沿いの数少ないレストランのひとつだったので結構混んでます。プライア沿いの席はあいていなかったので、ちょっと引っ込んだところに座りましたが、そんなことはどうでも良くなるほどおいしかった。特にレストランの味をはかる指標だと僕が密かに思っているピッカーニャ(牛の腰の部分の肉)が特に美味しかった。目の前の鉄板で焼く新鮮なお肉は、肉が美味しいことで有名な僕の地元と互角のうまさでした。ただ、僕の場合、目の前で料理する系にはめっぽう弱いのでその分は割り引いて考えないといけません。日本のステーキ屋でも強烈に熱した石の板と生肉を出してくれて、自分の好みの焼き加減にできるところなんか結構好きでした。もちろんお好み焼きも自分で焼くのが好きだったりします。
昨日もレストランで延々と話していましたが、今日も全員が揃ったということで話に花が咲きます。またもや「もうこのままずっとここにいようか」という雰囲気が漂い始めましたが、今日はまだやることがあるので、みんなのお尻を叩いて出ることにしました。そしてその足で「Rio-Sul ショッピン(ショッピングセンター)」へ。ここはコパカバーナに抜けるトンネルの近くにある大きなショッピンで、交通の便もいいことから結構地元の人にも人気があるみたいですが、もともと物欲の方向性が普通の人とは違う僕は初めて入るところです。ここでは大事な買い物をしなければなりません。
店内に入り、ショッピンにくわしい友人に案内してもらいます。やっぱショッピンの主人公は女性ですね。これは日本でもブラジルでも変わりません。特に年末近いせいかかなりの人出です。迷子になりそうな大きな店内をぞろぞろとドラクエの画面みたいな行列となって進んでいきます。しかしデカイです。ガイドブックに「ブラジルにもアメリカ仕込みの『生活の豊かさ=ショッピングセンターの大きさ』という醜い思想が侵入している」と書かれている通りかもしれません。
巨大な店内をグルグルと歩いてお目当てのお店「Bum Bum」に到着です。この店は世界の最先端のお店として有名らしく、世界の流行の発信源と言われているお店です。店内を見ると見事に女性客しかいません。だってビキニ専門店だから。そうです。この店は世界の水着業界の最先端、リオ・デ・ジャネイロでもNo1と言われているお店なんです。
実は今日到着した友人に「リオではプライアで泳ぐと思うから水着持ってきてね」と言ったところ「スクール水着みたいなワンピースしか持ってないよ」という返事が返ってきたんです。これは大変です。ビキニ大国ブラジルでは日々布地を小さくするべく努力を続けています。Tバックなんて当たり前というかもう流行遅れです。尻は見せるのが当たり前、最近では横のヒモがなくて、Uの字型のバタフライみたいなものを張り付けるだけという恐るべきレベルにまで進歩しつつあります。そんなブラジルでは昨日おしめがとれた子供から、50年前はさぞやその美貌で数多くの男性を陥れたであろう女性までみんなビキニです。日本だと春先から夏の水着シーズンにむけて涙ぐましい努力(でもそのほとんどは報われなかったりする)をしますが、そこはブラジル、おおらかなもんでそんなことはほとんど気にしません。おなかが何段にもなっているおばちゃんも普通にビキニを着ていて、日本人の目から見たら「???」ですが、「暑いときに涼しい格好をして何が悪い」と言われると、ブラジルの方が正しいのかもしれません。
そんなブラジルですからワンピースの水着はかえって注目の的です。ただでさえ真冬の日本から来た真っ白な肌の旅行者は浮いているのにそんな格好をしては「ブラジルのみなさん見て下さい!!」と言っているようなものです。治安の悪化が著しいリオの海岸で、そんなことをするのは自殺行為です。やはりここは他のブラジル人と同じくビキニを着なければなりません。しかしそこは紳士の僕達、女性にお金を払わせるのはプライドが許しません。みんなでお金を出し合ってビキニを買ってあげるというのが漢(おとこ!)というものです。決して「スケベオヤジが若い女性のビキニ姿が見たいばかりに水着を買って、無理矢理着せようとしている」のではありません。そのあたりを一言申し添えておきます。
さて、無理矢理連れ込んだ…じゃない丁重に御案内した店内にはたくさんのビキニが並んでいます。なんかそれを見ているだけで「ブラジルっていいところ!」と断言できます。「黒がいい」という話なので、その中から厳選した一枚を選んで試着してもらうことにしました。で、彼女が試着室にいる間、僕たちは男だけで取り残されていたんですが、実は結構恥ずかしいことだったようです。Bum Bumはガラス張りのお店なので、店の外の人達からも丸見えなんですが、ビキニ専門店でただ立ちつくしている日本人男性ご一行様というのは傍目には「スケベジャパニーズ」と見えていたみたいです。で、ちょっと恥ずかしそうにしていたら店員から「日本人ですか?」と日本語で話しかけられました。「えっ?」と聞いてみると、彼女は日系人のスミレちゃんという女性で、おじいちゃんは日本からやってきたそうです。「小さい頃は日本語学校に通って日本語の勉強をしてました。」とか「今は仕事が忙しいので日本語の勉強が出来ません」とか「でもいつか日本に行きたいです」とか話してくれるのを聞くとなんとなくホッとします。リオの街はサン・パウロにくらべて日系人が少ないのでこうやって思わぬところで日系人にあってうれしくなっちゃいました。
やがて試着も終わり、その水着にすることにしたようです。公約通り男達でそのお金を出し合って店を出たんですが、顔から汗が吹き出るのはなぜなんでしょう?彼女のためを思って買ってあげたのに。
とにもかくにもやるべきことをやって、ホッとした僕たちは夕暮れのリオの街を見るべくポン・ジ・アスーカルに登ります。今日は雲が低くたれ込めていて、ポン・ジ・アスーカルの頂上は雲の中に見え隠れしていますが、一縷の望みを持って行ってみることにします。
麓の駅に着いてみると頂上が曇っているせいか、あまり客はいません。すんなりとゴンドラに乗り込みます。ポン・ジ・アスーカルの頂上に行くまでには途中の駅でゴンドラを乗り継がないと行けないんですが、そこはまだ雲の下で展望台からフラメンゴ海岸やさっき昼御飯を食べたウルカの海岸を確認します。始めてみる人達にとってはここからのリオの眺めでも結構楽しめるようで、みんな「きれいやんか!」と感動してます。そこから頂上を見ると、もう完全に雲の中ですね。頂上行きのゴンドラに乗ってみると、ケーブルの先が雲の中に隠れています。出発したゴンドラはどんどんと雲に近づいていき、やがて雲の中に入ってきました。それとともにヒヤッとした空気も流れ込んできて、スキー場のゴンドラのようです。日本にいた頃はスキーにも良く出かけていたのでその頃のことが懐かしく思い出されます。
もちろん頂上は完全にガスの中。視界はゼロです。さすがに視界ゼロというだけあってそれほどお客さんはいません。まもなく夕暮れ時なんですが、普通は観光客でいっぱいになる見晴らしのいいランショネッチも今日は席が空いています。一緒のゴンドラに乗ってきた客もその光景をみて早々に退散していますが、長年山でつちかった僕の経験によるとこの雲は晴れます。晴れるというよりも雲の高度が下がり、そのうち雲海を見ることができるはずです。今日の雲はガスというよりも風に飛ばされた雲のかたまりがいくつも通り過ぎるタイプです。雲のかたまりの合間には切れ間もあり、こういった雲の場合、夕暮れになり気温が下がり始めると雲の高度も下がり始めるはずです。
その自分の判断を信じて、ちょっと肌寒い頂上で延々と粘ります。寒い体にホットココアがありがたく感じるほど冷たい風です。しかし晴れる気配はいっこうにありません。真っ白で何にも見えない展望台ではやることもありません。近くの売店ではたくさんのコルコバードのキリスト像の木彫り人形が売っていて、友人がおみやげのために大量に買い込んでいたので、ちょっと遊ぶことにしました。それを手に持ってコルコバードとおぼしき方向に掲げ、写真にとってもらうというだけです。とはいっても何もする事がなかった他の観光客にも喜んでいただけたようで、それを写真に撮っている人までいます。その他にもいろいろと遊んでいるうちに「見えるぞ!」という観光客達の声が聞こえてきました。
そっちを振り返ってみると、予想通り雲の高度が少しずつ下がっているようです。やがてリオの街を取り囲む山々が見え、その中にはひときわ目立つコルコバードのキリスト像も確認できるようになりました。キリストの足元には雲海が広がり、その雲海には今まさに太陽が沈もうとしています。今まで何度もポン・ジ・アスーカルには登りましたが、これほどまでに神々しい風景は始めてみました。リオの街は雲に隠れて見えませんでしたが、この光景こそまさに「Cidade Maravilhosa (= Marvelous city) 」です。さらに幸いなことに下の方が曇っているのでだれも登ってきません。こんな素晴らしい風景を静かに楽しむことができるとは僕たちはもしかしたら旅の神に祝福されているのかもしれませんね。
さらにその後、雲は晴れ、100万ドルのリオの夜景まで楽しむことができました。日本の友人達に一番見せたかった光景です。そう思うだけで幸せな気分になった僕はしばらくそこを離れることが出来ませんでした。
そうはいっても学校には門限があるのでそろそろ帰ることにします。感動の余韻に浸りながら待合室でゴンドラを待っているとテレビのニュースで「ヘベイロン(Reveilhon 年末のカウントダウンのこと。)」のことを取り上げていました。その話によると、「世界で一番美しいと言われるリオのヘベイロンを見るためにブラジルのみならず、世界中から観光客が集まっており、当日の夜のコパカバーナ、イパネマ両プライアの人出は300万人と予想されています。」という恐るべきもの。コパカバーナとイパネマ、合わせて10kmもない海岸線になんと300万人もの人達が集結!!「これは場所取りが大変だ」という思いの反面「世界から300万人も集まる素晴らしいヘベイロンを体験することができる!」という興奮がわき上がってきます。
僕たちは本当に旅の神に恵まれているのかもしれません。