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2000年1月 帰ってきたリオ・デ・ジャネイロ



1月5日 水曜日

さて、四日間も楽しんだイグアスも今日でお別れ。リオ・デ・ジャネイロに移動です。リオについたら、ぼちぼち友人達も帰国。今回のカウントダウンツアーも終わりに近づいてきました。そう思うとちょっと悲しくなりますが、それは空も同じなのか、今にも降りそうな天気です。これほど湿り気たっぷりで真っ黒な雲を見るのも久しぶりです。ブラジルでは自然も原色というか、日本の淡い色の自然にくらべて何もかもがどぎついですね。

雨に見送られてイグアスを出発。飛行機はいったんサン・パウロで着陸します。今日の便でサン・パウロから帰る友人一名と最初のお別れ。本当にどうもありがとう。また来て下さい。

そしてリオ・デ・ジャネイロはいい天気。めくるめく快楽の日々を過ごしてきて、ちょっとお疲れ気味の僕たちは宿でのんびりと過ごすだけでした。

1月6日 木曜日

カウントダウンツアーも残すところあと数日。みんなはおみやげの購入で余念がありません。いろいろと買いに行くみたいですが、男の子のお目当てはサッカーのユニフォーム。一番のブラジル土産ですからね。ということで単純にデザイン的な好みからフラメンゴを奨めておきましたが、これが後でいい結果となります。

楽しく買い物に行く人もあれば、体調を崩した友人もいます。旅先での病気はちょっと心配ですよね。でもこの時泊まっていたのは例のリオの日本語学校。ここは日系人会も兼ねているのでこういったときには力強いです。さっそく会の人に聞いて、近くに住んでいる日系人のお医者さんを紹介してもらいます。日系人にはお医者さんが多く、日本語が出来る先生も大勢います。今回紹介してもらったお医者さんも、その一人で一目見て「ああ、いかにもいいお医者さんだなぁ」と思うようなおじさんです。そのおじさんは流暢な日本語を話していて、聞いてみると、以前、慶應の医学部で研修していたそうです。

お医者さんはさっそく友人に問診するんですが、この時も完璧な日本語を話します。外国語で体の症状を言ったり聞いたりするのはとっても難しいものなんですがさすがです。これだったら友人も安心でしょう。

結局病気ではなく、単なる疲労ということで一安心。栄養補給の処方箋を書いてもらいます。その間いろいろと雑談したんですが、その中でこのおじさん、僕の住む町のすぐ近くで生まれたということが分かりました。僕が住むノロエステ一帯は古くから日系人が住んでいるところで「日系人の故郷」とも呼ばれています。そしてノロエステからブラジル中に日系人が雄飛していったので、各地にノロエステ出身者が住んでいて、今までにも何度も会ったんですが、またここでも会いました。それだけでも何か共通するものがあるみたいでうれしいですね。さて、無事に薬を買った後は、そのまま学校で休むことにしましょう。

休んでいるうちにぼちぼち買い物組も帰ってきます。さあ、これから今日のメーンエベント「サッカー世界クラブ選手権大会」の観戦です。これは今年から始まった大会で、世界の各大陸の大会を勝ち抜いた強豪チームが集い、世界一を競うものです。残念ながら日本のチームは出場していませんが、ブラジルからはコリンチャンスヴァスコ・ダ・ガマが出場しています。リオのマラカナンスタジアムではこのヴァスコが入っているBグループの試合が組まれています。ちょうどいい具合にリオにいるんですから見ない手はありません。日本に帰る友人達に最後のおみやげです。ただ、先ほど病院に行った友人を含めて二人が今晩の便で日本に帰るので時間との戦いです。さすがに試合を全部見る暇はありませんが、二試合のうち、最初の一試合ぐらいは見る時間がありそうです。

マラカナンまでは車で行きますが、スタジアムの近くになると予想通りの渋滞です。まわりにはヴァスコの旗をはためかせた車がクラクションをならしながら並んでいます。真夏のブラジルの強烈な太陽に照らされながらクーラーの無い車の中で缶詰になり、こっちは死にそうになっているのに、まわりのヴァスカイーノ(ヴァスコファン)は楽しげに大騒ぎしています。やっぱニワカサッカーファンと本物の違いはここにあるのかもしれません。苦しいときにでもヴァスコのことを思って応援すること…それは人生の教訓のような響きがあります。

蒸し焼き状態でウンウンうなっているうちに僕らを乗せた車はやっとのことでマラカナンの前に。


スタジアム中のスタジアム、ブラジルサッカーの聖地。1950年の第4回ワールドカップのために建設されましたが、収容人員は10万人を越え、大会決勝戦やペレの引退試合では20万人を越える観客を収容したマンモススタジアムです。今は改修され、収容人員は減ったもののブラジル中のサッカー少年のあこがれの地であることには変わりありません。ちなみに第4回ワールドカップ決勝戦で悲願の初優勝をめざすブラジルがウルグアイに1×0から終了間際に逆転されてまさかの敗戦。これはブラジルサッカー最大の悲劇と言われ、ブラジル中が悲しみに包まれたといいます。


ついにマラカナン初対面です。リオが世界に誇るスーパースタジアム、そして世界中のサッカーファンなら一度は行ってみたいと思う夢のスタジアム。

が、しかし…

しょぼいっす。ただの水色のスタジアムっす。二十万を誇る巨大さを期待しようにも、大きさなら福岡ドームの方が屋根がある分、圧倒的に大きいです。かわりに五十年の歴史から生まれる重厚さを求めようにも、外観は安っぽい水色で中途半端に古く、よっぽど甲子園球場を取りまくツタの方が歴史の重みを感じさせてくれます(もちろん甲子園の方が歴史が古いし)。マラカナンを見た時の僕の気分は初めて大阪の日生球場見たときの気分に似ているんですが、そう書いちゃうとマラカナン、及び、世界中のブラジルサッカーファンに失礼でしょうか。ま、試合を見ないうちに酷評するのもなんなので、まずは試合試合…

車を下りて歩いていく途中にはたくさんのヴァスカイーノが歩いています。当たり前っていえば当たり前なんですが、世の中には例外もあります。マラカナンから大通りをはさんで反対側の歩道をこともあろうにフラメンゴのユニフォームを着たフラメンギスタ(フラメンゴファン)のカップルが歩いています。用もないのにヴァスカイーノでいっぱいのマラカナン近くを歩くとは不注意もいいとこですが、案の定ヴァスカイーノ達からさかんにヤジを飛ばされています。幸い、そのお兄ちゃんはいかにも喧嘩が強そうなデカイ体をしていたのでそれ以上いじめられませんでしたが、やはりブラジルのサッカー観戦の時には服装も注意しないといけません。

今日の組み合わせは第一試合「マンチェスター・ユナイテッド×ネカサ」、第二試合「ヴァスコ×サウス・メルボルン」ということで、まずは開幕戦として顔見せ程度の組み合わせです。もちろんBブロックの目玉はあさって、8日の行われる世界ナンバー1のクラブチーム、マンチェスターとヴァスコの対戦です。そういうわけで今日のチケットもあまっているようで、その場で買えました。さっそく入場しましょう。

入口はたくさんありますが、その中を自分たちの席の入口を探しながら歩いていると、そこにはマンチェスターのユニフォームを来たトルセドール(応援団)達がたむろしてました。よく話を聞いていると英語を話しているので、ブラジル在住のイギリス人か、イギリス人旅行者かもしれません。イギリスといえば、なんといっても悪名高いフーリガンの生産地ですよね。目の前のトルセドールたちも、わざわざ人の出入りが激しい入口の前で堂々とマンチェスターを応援していて、「ヴァスカイーノのみなさん、かかってきなさい!」状態。でも見てみると、ブラジル・セレソンのユニフォームを着た人や、ブラジルの帽子をかぶっている人もいます。やっぱり圧倒的多数のブラジル人に気を遣っているんでしょうか?

そこを通り過ぎ、マラカナンに入ると幅の広い坂がスタジアムまで続いていて、途中に警官が横一列に並び、厳しいボディーチェックを行っています。どこの国でもサッカーファンは気が荒く、すぐに喧嘩になっちゃうので、武器になるような持ち物を持ち込ませないためです。普段なら別にいいんですが、今日はちょっとまずいっす。本日帰国組の二人はおみやげから何から全ての荷物を持って来ています。中には武器になるものがごっそり入っていてい、もめることは必定。案の定警官は大きな荷物を指さして「全部開けなさい」の指示。こちらも彼らが日本から来たことや、今晩の飛行機で帰ることを説明しますが、やはり全品チェックは逃れられないんでしょうか。

有無を言わさず警官はザックを開け始めましたが、一番上に入っていたものを見て一瞬驚き「これはなんだ!」の質問。それは午前中に友人が買ったおみやげ用のフラメンゴのユニフォームでした。今日はヴァスコの試合だけに「ヤッベェ…」と思いましたが、なんと警官は「おぉ!、お前はフラメンギスタか?そうか、俺もフラメンギスタだ。フラメンギスタに悪いヤツはいない。だから通ってよろしい。でもまわりのヴァスカイーノには見られないように注意するんだぞ!」と言うではありませんか。たった一枚のユニフォームが僕たちを救ってくれたんです。

で、ちょっと興味があったのでその警官に「あんたらはみんなフラメンギスタか?」と聞いたら「そうだ、みんなフラメンギスタだ。フラメンゴは良いチームだからな。」の答え。さらに突っ込んで「じゃあ今日はヴァスコに負けてほしいと思っているのか?」と聞くと「そうだ、その通りだ。」とあっけらかんと答えてくれました。それを聞いて思い出したのが帝国主義時代の植民地政策。領内にふたつの民族がいたとしたら、片方を警官に登用してもう片方を徹底的に弾圧させることにより内部分裂を促すという分断政策です。もしかしたらリオの警察内部でもヴァスコの試合の警備はフラメンギスタ、フラメンゴの試合の警備はヴァスカイーノという具合に使い分けているのかもしれません。

複雑な民族問題ならぬファン問題をかいま見た後は、ついにスタジアム入場です。通路をくぐり抜け、やっと出ました。スタンドです。目の前には青々とした芝生が広がっています。もう第一試合は始まっていて、ピッチではマンチェスターとネカサの選手が走り回っています。それを見た瞬間、やっぱマラカナンに来てよかったと思いました。マラカナンはマラカナン、やはりなんとも言えぬ迫力がありました。イングランドのウェンブリーにひけをとらないサッカーの聖地です。

目の前で実際に試合をしているのは昨年のトヨタカップでパウメイラスを下した世界一のチームですが、観客はまだまだ少なく、のんびりと腰掛けてみることができます。でもスタジアムにいるファンのほとんどがヴァスカイーノで、みんなネカサを応援しています。やはりヴァスコの最大の敵はマンチェスターですからね。数少ないマンチェスターファンが歓声を上げると、場内からは大ブーイングがおきます。そして前半半ばにネカサが先取点を上げると場内から大きな歓声があがり、マンチェスターファンは静まります。でも一番場内が盛り上がったのはその直後、マンチェスターのヒーロー、ベッカムが危険なタックルで一発退場になったときでした。退場になった選手は次の試合には出ることができません。そしてマンチェスターの次なる相手はヴァスコ。つまりヴァスコ戦にはベッカムなしで戦わなければならず、かなりの戦力ダウンになり、その分ヴァスコには有利になります。もちろんヴァスカイーノもそのことを分かっているのでもうヴァスコが勝利したかのような大歓声でした。一方あきれ顔のマンチェスターファン。確かに僕もブラジルチームに頑張ってほしいんですが、主力を欠いた相手に勝ってもねぇ。

後半になると、だんだんとヴァスカイーノが増えてきて、目の前の試合には関係なくヴァスコの応援で盛り上がります。そうなるとウェーブなんかをやっちゃうんですが、スタジアムの一角を占めているマンチェスターファンのところでウェーブが必ず止まっちゃいます。そりゃマンチェスターファンにしたら、格下のネカサ相手に手間取り、さらにベッカムまで退場させられちゃったんだからウェーブする気にもならないのは分かります。でもファンは身勝手なもので。そんなマンチェスターファンに強烈なブーイング。最終的には1×1の引き分けで終わったものの、マンチェスターにとって最悪な一日となりました。

二試合目が始まる頃には日もとっぷりと暮れ、場内はヴァスカイーノで満員になります。そしてみんなで「ヴァ〜スコ〜」のコールをあげるんですが、ちょっと気になります。ブラジルのポル語にも方言があって、僕が住んでいるサン・パウロ州では Vasco のことを「ヴァスコ」と読みますが、リオ近郊ではこれを「ヴァシュコ」と読みます。だから、今場内で叫ばれているコールも正確には「ヴァ〜シュコ〜」という風に言っていて、なんとなく子供の発音みたいでかわいいですね。

そのヴァスコの対戦相手はかなり格下のサウス・メルボルン。ちょっとかわいそうな気もしますが、ファンは情け容赦なくメルボルンにブーイングを飛ばします。もちろん試合の方も、中盤は完全にヴァスコが支配していて、メルボルンは守るばかりの一方的な展開。幸いフラメンゴから移籍したばかりのホマーリオの動きが悪く攻撃がちぐはぐなため、かろうじてヴァスコの得点を防いでいます。しかしこれも長続きするはずもなく、前半53分にはフェリペが得点。我慢に我慢してきたヴァスカイーノの「ヴァ〜シュコ〜」コールが空高くこだましていきました。そして試合終了間際にはヴァスコのエース、エジムンドがゴールを決め「ハッ!エ〜ジムンド〜」のコールが鳴り響きます。そう、ブラジルサッカーを見ていて面白いのがこのコールなんですよね。各選手ごとに決まっていて、得点を決めたりするとみんなで大合唱するんです。そうするとまるで選手と一緒に戦っているような気持ちになるから不思議です。

ところで、前半途中で日本に帰る二人はスタジアムを後にしたんですが、聞くところによると空港までのタクシーの運ちゃんがヴァスカイーノで道中ずっと「ヴァ〜シュコ〜」と叫びながら行ったとか。ま、楽しんでいただけて良かった良かった。 

1月7日 金曜日

今日は残りの友人が日本に帰る日です。そうすると残るのは僕ひとり。またまた普通の生活に戻ります。帰国組が最後の買い物に出かける間に僕もホドビアリアまで行って、帰りのバスチケットを手配。僕の旅もひとまず終わりに近づいています。

チケットを買った後もまだ時間があったので、明日のヴァスコ×マンチェスターの試合のチケットもついでに買っておこうとスタジアムに行ってみますが、発売時間が延期になったみたいでまだ売ってません。まあ本来なら怒るところですが、ここはブラジルなんでそんなことは気になりません。また後で出直しましょ。

いったん町中まで戻り、みんなと今日の行動予定の打ち合わせをしてから再び一人でマラカナンに向かいます。町からマラカナンに向かうバスはリオの下町チックなゴチャゴチャした一角を通り抜けていきます。運ちゃんはもう何年もこの路線を担当しているらしく、通りにならんでいる屋台や雑貨屋のおっちゃんおばちゃんに手を振りながら運転していていて「庶民のバス」的エネルギーがビンビン伝わってきます。信号停車していたときも近くでココナッツを売っていたおっちゃんから大急ぎでココナッツを買い、それを飲みながら運転しているところなんかは、さっすがラテンです。ついでに運転が荒く、カーブでは左右に振られ、急停車で前の座席にたたきつけられるところなんかは「オウオウどきなどきな!おいらはカリオカでい!産湯はフラメンゴの海だ!文句あっかァ!チキショーめ!」的で気持ちがいい。そして飲み終わったココナッツを窓から放り投げるところもカリオカっぽくていいです(断定)。

あちこち体を打ち付けられてたどり着いたスタジアム。バス停からチケット売場までちょっと歩いたんですが、臭いっす。ブラジルの大都市に普遍的に適用される「壁=公衆トイレ」の法則が働いているので、壁沿いを歩くと異臭が漂います。まあ慣れてしまえばそれもなんてことないので気にせずに歩いていると、右側になにやら看板が。しかも赤と黒。これはフラメンゴのチームカラー。で、何を書いているかと思ったら「ようこそマンチェスター!」。しかもご丁寧に英語で書いてます。そっか、ヴァスコは世界クラブ選手権に出場するけど、フラメンゴは出場しないので、フラメンギスタはみんなマンチェスターを応援しているですね。敵の敵は味方ってことです。なんて分かりやすいフラメンギスタ。看板の下にはホームページのアドレスが書いてましたが、ヴァスコをやっつけるためにここまでするかね?だからトルセドールは分からない。だからブラジルサッカーは面白い。

たどり着いたチケット売場の前には早くも黒山の人だかり。みんなが狙っているのは明日の試合ですが、これは相当の覚悟で突っ込まないといけないようです。どうしようかと迷っている僕の心を見透かすようにダフ屋が寄ってきて「明日のチケットはもう売り切れたよ、だからオレから買いな。」などと言ってきます。どうみても目の前でチケット売っているのに、あからさまなデタラメです。ブラジル人は子供でも分かるような嘘を平気でつける人種なので、そういった雑念は聞き流し、心を決めて突入することにします。ただやみくもに突入しても玉砕するだけなのは明々白々なので、いったん人の少ないサイドから前線に移動し、そこから真横に突っ込みます。目の前にいるブラジル人を一人一人取り除きながらなんとか窓口にたどり着くと、今度は後ろから引きずり出されないように窓口にしがみつかないといけません。幸い普通のブラジル人よりは体格がいいのでなんとか他のブラジル人を寄せつけずに頑張ることができ、大きな体に生んでくれたお母ちゃんに感謝感謝!!しかし窓口のおばちゃんがなんやかやインネンをつけてなかなかチケットを売ってくれず、まわりの人達も僕も熱くなります。そのおばちゃんを怒鳴りつけてなんとかチケットを売ってもらい、素早く退散したときは一仕事してきたかのような心地よい疲労感に包まれていました。

その後「まあ、チケットもゲットしたし、時間も余ってるからちょっくら行ってくるか!」的お気軽気分でマラカナンの博物館に行ってみましたが、大正解でした。行ったことではなくて、お気楽気分で行ったことが。マラカナンというネームバリューのわりにはとってもしょぼい展示で、気合いを入れていったらかなり噴飯状態に陥ること必至。なんか近々改装するそうですが、とっととやった方がいいでしょう。その近くには世界クラブ選手権のプレスセンターがあって、ガラス張りになっているんですが、こちらも博物館と同じくらいしょぼい。今日は試合がないせいかもしれませんが誰もいなくて壁に貼られたやけに立派なポスターだけが寂しそうでした。去年の7月にのぞいたコパ・アメリカのプレスルームの方がよっぽど活気がありましたね。

やることもやったし、見るものも見たので、コパカバーナの待合い場所に行くことにしましょう。バスに乗ってのんびりとプライアについたときには灼熱地獄。ギンギンの太陽が容赦なく照りつけています。そりゃそうだと寒暖計。37度をさしています。しかも下のアスファルトからの反射で体がチリチリに焦げていくのも分かります。さっそく木陰のキオスクに待避して、友人達とビールを飲むことにしましょう。あまりに熱いのでみんな海に行くそうですが、水が好きじゃない僕はそのままビールを飲み続けます。のんびりモードに入ったらコパカバーナほど素敵&便利なところはありません。座っているだけで、いろいろな物売りがやって来るのでビールのつまみは大丈夫。たまにおみやげ物売りの品物を眺めたりしていれば時間も過ぎていきます。

時間が過ぎていくなぁと思っていたら、アメリカに帰る友人の出発時間まであと二時間しかないっす。やばいっすね。多分。ちょうど夕方になり、込み合ってきた大通りで空港行きのバスを待ちますが、なかなかやって来ません。長いこと待った末に、やっと来たバスも「満員だから乗れません!」のすげない一言。あんた空港行きバスってのは普通のバスと違うんだよ、乗り遅れちゃったら大変なことになるんだよ!と思いますが、ブラジル人にそんな難しいことは分かりません。頑として乗せてくれないバスをあきらめて、次のバスに期待しますが、こういうときにはどんどん時間がたっていくものですね。なんとか次のバスに乗ったけど、渋滞に入ったバスはなかなか進まず、気ばかりが焦る始末。結局空港に到着したのは出発時間の30分前。もうこれでは無理ですね。友人はカウンターまで行ったみたいですが、搭乗を断られたようです。「ダメだったから明日の飛行機に振り替えてもらった」と報告するその口調は予想に反してとっても明るく、コイツ初めから乗り遅れる気だったというのが今やっと分かりました。

まあ、それならそれでいいかと思って、ホッと胸をなで下ろしていたら、日本に帰国するもう一人の友人が

私、実は帰りのチケットをなくしたんよ。だから今から再発行できるか聞いてみる。だから○○のカウンターまで連れてって。」
「えっ、それ本当?」
「ブラジルに来てすぐになくしたんだけどなんとかなると思って言わなかったんだ」
「そっ、そうなの…何とかなるんじゃない?カウンターで聞いてみたら(…お前ら帰る気あるんかい!)」

さっそく友人はカウンターまで行きましたがあっさりと断られてしまいます。さあ、これで日本に帰るすべがなくなりました。

しかし、ここから頑張りました。彼女は。日本の自宅、チケットを手配してもらった旅行会社に電話をかけて長時間の交渉。しかも所持金は限られているのでコレクトコールとかアメリカの友人のコーリングカードとかを駆使してます。一本電話を入れるたびに「ちょっと待って、探してみるから」などの理由で待たされます。まあ僕らがあせってもしょうがないのでだべって時間をつぶしますが、なかなか交渉は進まないみたいです。どうも無くしたチケットの通し番号が分かれば何とかなるみたいですが、それが分からない。だんだんと彼女にも焦りの色が見えてきます。というかチケットを無くしたことに気がついた時点で焦ろよな!

深夜まで延々と交渉が続きますが、それを待つ僕たちには何もできることはなく、まるで分娩室の前でそわそわしながら待つお父さん状態です。このままでは今日中に産まれないかもしれない?と思い始めた深夜11時過ぎになってやっと「チケット再発行できたよ!」の朗報。これでみんな帰国できることになりました。今朝までは「みんな帰って、またひとりになるのか、ちょっと寂しいな…」なんてセンチメンタルな気持ちもあったりしたわけですが、もう今では「みんなちゃんと帰ってくれよ…」と祈らずにはいられない気分でした。

1月8日 土曜日

今日こそは二週間の長きに渡ったカウントダウン in リオ・デ・ジャネイロの最終日。みんな帰っていきます。というか今度こそちゃんと帰って下さいね。今回ばかりは乗り遅れるわけにはいかないので早めにタクシーを拾うことにします。泊まっている学校のすぐそばでタクシーを拾い、そこでお別れ。「じゃっ、また」と言葉を交わした程度であっけなく分かれました。次にあうのは2001年4月のギアナ高地です。

その後は再び学校に戻って、洗濯など細々したことを片づけてから町に繰り出します。今日は夜のヴァスコ×マンチェスター戦以外にこれといった用事もないので、映画でもと思ったからです。お正月の映画といえば007、もう子供の頃からの伝統です。テレビでCMを見るたびに行きたくて行きたくてしょうがありませんでしたが、悲しいかな我が町には映画館がありません。こうやって大きな町に来た時に見るしかありません。

あちこち映画館を探し回った末、シネランディアの映画館で007を発見。シネランディアでシネマかと一人で喜んでました。さて、映画の内容についてですが、ジェームズ・ボンド役のピアーズ・ブロズナンもだいぶん板に付いてきましたね。彼の007初演作を見たときには「おいおい大丈夫かよ」と思ったものですが、今回はいかにも007らしいアクションでした。ただ、最近ボンドカーの地位が低下したのか、あまり映画に出てこず、出てきてもすぐに壊されてしまうところに往年のボンドカーファンとして一抹の悲しみを感じてしまいます。

ブラジルの映画といえば、去年のブラジリアで見たスターウォーズがあります。あのときは映画館から出てみたら目の前には未来都市ブラジリアが広がっていて、まだまだ映画が続いているような錯覚を味わったものですが、今回もこのおまけがついてました。007を見て、いっぱしのスパイ気分になって映画館を出ると、目の前に広がっているのはリオ・デ・ジャネイロの街。いかにもマフィアとかテロリストとかが暗躍してそうです。実際過去の作品でポン・ジ・アスーカルに登るロープウェー上の格闘もありましたよね。それでなくともリオの街にジェームズ・ボンドは似合います。もちろん僕もシネランディアのまわりの高層ビル群の間をジェームズ・ボンドになりきって颯爽と歩いていったのは言うまでもありません。

ジェームズ・ボンド野郎もおなかがすくので高層ビル群の一角にあるレストランに入りましたが、ここも渋かった。ジェームズ・ボンドにぴったり。そこはガレットといってステーキとチキン料理を出すレストランですが、アンチックな木製のカウンターが長い歴史に磨かれて黒光りしているし、ギャルソンもカウンターと同じくらいアンチックでこの道何十年という経験を感じさせてくれる物腰でした。おまけに中途半端な時間だったせいか客が少なく、沈黙が広がっていたのがさらに雰囲気を高めてくれます。もちろん僕も黙って黙々と食べ、言葉少なに出ていくのでした。ハードボイルドとは今の僕のためにある言葉です。

さて、ここで頭を切り換えてサッカーモードにしましょう。駅で友人と待ち合わせてマラカナンに行きます。今日は大きな試合だけあって、地下鉄の中にもたくさんのヴァスカイーノが乗っています。応援歌にあわせて壁や窓をガンガンたたいていてうるさいことこの上ないんですが、客達も分かっているのかあきらめているのか素知らぬそぶり。さらに調子に乗っていくヴァスカイーノですが、僕たちがマラカナン駅で降りると、そいつらは全然下りてこず、大騒ぎしたまま乗って行ってしまいました。おいおい、それは無いだろう。下りてきたのはおとなしそうな人達ばかり。何だかよく分かりません。

地下鉄を後にしてマラカナンに行きましょう。地下鉄の駅からスタジアム入口までは大通りをまたぐ幅広いスロープがのびているんですが、その両側には飲み物を売るおっちゃんや、ヴァスコのユニフォームを売るおっちゃんがたくさんならんでいます。第一試合がヴァスコ×マンチェスター戦なので客足も早く、入り口付近には早くも人だかり、そして今日も聞こえる「ヴァ〜シュコ〜」のかけ声。

試合の1時間ほど前にスタジアムに入りますが、グラウンド近くの席はすでに満杯。ちょっと座るところで困っちゃいました。というのも今回のクラブ選手権は2006年のワールドカップ開催地立候補の顔見せ的な側面もあり、外面を良くしようと考えているんでしょうか、座る席番号を指定されるんです。おととい見た試合でもそうでしたが、スタジアムの入口にFIFAの服を着た少年少女が立ちはだかり「あなたの席は○○番です、御案内しましょう」ってやっているんですが、これは全くブラジルらしくないことなので、みんな一様に「???」って顔。それでも昨日の試合は指定された席で見ましたが、リオ在住の友人も「なんか変わったなぁ、マラカナン」とポツリ。でもご安心、何も変わっていませんでした。今日の試合はみんな好きなところに座っています。

今日の席はスタジアムの東側にあり、もろに西日を浴びて全ての物が黄金色に輝いています。そうなると裸になるのがブラジル人。半分以上の男は脱いでいるんじゃないでしょうか。みんな赤銅色の肌で、それがスタンド中に座っているもんだからスタジアム全体が茶色に見えてしまいます。酒池肉林から「酒池」を取り除いたらかくありかしという景色ですが、全然美しくもなければ楽しくもありません。むさ苦しいだけ。

裸のオッサン達が注目する中で両チームが登場。マンチェスターはトレードマークの赤いシャツと真っ白のズボンです。対するヴァスコは上下とも黒のアウェーのユニフォーム。真っ赤なマンチェスター軍団と真っ黒なヴァスコ軍団がハーフラインを境目ににらみ合っているんですが、これを見ていると映画の「天と地と」みたいです。あたかも両選手達が戦国の戦士のように見えます。確かにお互いにヨーロッパ、南米を代表する強豪チーム、関ヶ原を彷彿とされる戦いです。場内から鳴り止まない「ヴァ〜シュコ〜」のコールが地響きのように体に染みわたります。

興奮のキックオフ。

やはりベッカムを欠いたマンチェスターには精彩がありません。ヴァスコが一方的に攻め続け、時折カウンターで相手ゴールを狙うマンチェスター。どうでもいいことですが、出場停止のベッカムがなぜかマンチェスターのベンチに座っています。しかもユニフォームを着て。どうして?

しかし今日もホマーリオが浮いちゃってますね。その分エジムンドが獅子奮迅の活躍でマンチェスター守備陣のプレスを切り裂いて突入します。ホント今日のエジムンドは並々ならぬ気合いで、鬼気迫るものがありますね。そしてディフェンダーを突破したエジムンドからゴール前につめていたホマーリオへ絶妙のパスが渡り、ホマーリオがごっつぁんゴール。ヴァスコの先制です。試合の流れからいって勝ちを確信したヴァスカイーノが大騒ぎ。ポルトガル語ではこういったときに「ヴァスカイーノがフェスタをしている」といいますが、まさにフェスタ状態。

もうちょっといい試合になるかと思ったんですが、その後もヴァスコの一方的な試合運び。エジムンドも信じられないようなスーパーゴールを決めて、結局3×1でヴァスコが圧勝しました。これでヴァスコは二連勝、マンチェスターは一敗一分で予選突破も危ない状況です。確かにマンチェスターを下したのはうれしいんですが、もうちょっとちゃんとした試合で勝てたら面白かったんですがね。まあファンにとっては内容よりも勝利が一番。ホクホク顔で帰っていきます。

ファンのほとんどが帰っていく中で、第二試合が始まります。残っているファンも第一試合の勝利の余韻にひたりながらののんびりムード。どっちが勝ってもいいので適当にヤジを飛ばしながら見ています。でもあまりに退屈になったのか遊んでいるヴァスカイーノもいるようです。よく試合中には「○○クソ食らえ!」とか「○○へぼチーム!」とかのヤジをみんなで大合唱するんですが、突如場内でヤジ合戦が始まっちゃいました。普段は○○のところに相手チームの名前が入るんですが、今は相手がいないので座っているセクターの色でヤジってます。僕が座っているのは白セクターで、隣は黄セクターなんですが、まわりにいる人達は「やい!黄色!クソ食らえ!」などと大合唱して挑発します。もちろん黄セクターからはさらに激しいヤジが返ってきて楽しいかぎり。さすがブラジル人、楽しむことにかけては天下一品です。

1月9日 日曜日

長きにわたったカウントダウン in リオ・デ・ジャネイロツアーもとうとう最終日。さすがに動き回る気にもならないので、日本語学校にある漫画の本を片っ端から読破しながら時間をつぶしていきます。昼過ぎになって荷物整理をしてみると、日本からの差し入れや各地のおみやげでザックはパンパンです。

背中にずっしりと食い込むザックの重さがこの二週間の思い出でした。

これでツアーは終わりです。またまたこれからは一人旅の始まり。アマゾン周遊の大旅行が始まります。


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