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ACT3:暗躍!だんご3兄弟 |
さんさんと降り注ぐ陽光の下、ジャ・アークは 庭で午後のひとときを楽しんでいた。 今は名を、ジャック・A・グレックと変え、若干25歳にして ペンターナで士官を務めている。 タートル・サメーとの結婚生活は僅か2年で終わり、その後、 彼は努力に努力を重ね現在の地位まで上ってきた。 今では将来を有望視される若者である。 幼少の頃の傷を仮面で隠し、周囲から浴びせられる奇異の視線に 絶えて勝ち得たものだった。 『グレック様、お客様がお見えでございます。』 執事が来客を告げた。 『客? 誰だ?』 『越前屋と申しておりますが・・・・。』 心当たりが無かった。いや、心当たりがないと言えば 嘘になる。越前屋という老舗のだんご屋があるのはアークも知っていた。 ただ、面識がないという意味で心当たりがなかったのだ。 『どのような用件だ?』 『ご挨拶に伺ったと言っておりますが・・・。』 『・・・・・。』 一介のだんご屋がたかが挨拶ぐらいで会いに来るはずがない。 何かウラがあることをアークは感じていた。 『通せ・・。』 危険な匂いを感じながらも、それを覗いてみたいという 好奇心が勝っていた。 間もなく金にものいわせて仕立てたようなスーツを 着た3人が執事に従われてやってきた。 『良いお天気でございますなぁ。』 真ん中の眼鏡をかけた男が白々しく言う。 『曇天とした雲が3つばかり来たがな。』 皮肉交じりにアークが言い返した。 『これはキツイ冗談を・・・はっはっはっはっ』 『自己紹介がまだだったな。ジャック・A・グレックだ。』 『これは重ね重ね失礼を・・・・。まず左におりますが 次男のチョーサック。』 髭面で長身の男が軽く会釈する。 『普段は無口でございますが、営業面ではなかなかのキレ者・・・。 次に右におりますのが、三男のジューン。』 少し禿げ上がった男がニヤニヤとしていた。 『ニヤけた顔しておりますが、腕っ節が強くもっぱらトラブルシューターを やっております。 そして私が長男の・・。』 左右の男の腕がピクリと動く。 『ミナミハルオでござ・・・・(バシッ)。』 眼鏡の男は左右の頬をすかさず叩かれていた。 『・・・・・。』 『グレック様は冗談がお嫌いなようで・・・・。』 『今のが冗談なのか?』 ギャグとは縁遠い世界で生きてきたアークには、何が何やら さっぱりわかっていなかったのだ。 『・・・・私めが越前屋の主、越前屋ジョージでございます。』 『まさか、芸を披露しにわざわざやって来た訳ではあるまいな・・・。』 『滅相もございません。この度は科学省の高官になられるとか・・・・ 今日はその祝辞を兼ねたご挨拶に伺った次第で・・・。』 『それだけか・・・?』 アークは越前屋を見据えて言った。 仮面の眼の部分が陽光でキラリと光る。 さながらアークの視線の鋭さを表しているようだ。 『くくく・・・すでにお察しのようで・・・。』 『縁も所縁もないだんご屋が、たかが一士官の昇進の挨拶に来るとは思えん。違うか?』 『さすがはグレック様。若くして高官の地位にお付きになるお方は違いますな。 恐れ入ります。』 『世辞はいい。用件はなんだ?』 『その前に・・・・。』 越前屋はそういうと包みをアークの前に差し出した。 『お近付きと言っては何ですが、当家自慢のだんごでございます。』 しかし、アークは手を付けようとしない。 『ご遠慮なさらずに・・・・。』 越前屋は包みを解き、箱を開けた。 『こ、これは・・・・。』 『当家が士官様のために用意した、黄金色のだんごでございます。』 箱の中身は金貨で埋まっていた。 『私が賄賂など受け取ると思うのか・・・・。』 苦労してきたとはいえ、アークは金に執着心がなかった。 『話を聞いて頂ければ気も変わりましょう。実は・・・・。』 そう言いながら越前屋は次男のチョーサックを促した。 チョーサックはやはり無口なまま、ファイルしてある書類をアークに 差し出した。 『私どもの業界は競争相手が少ないのですが、その分しのぎを削った状態でして 新製品の開発に余念がございません。歴史のあるものだけに古い客はうるさく また若い世代には受け入れられない状況でございます。』 『なるほど・・・。』 『そこで私どもが他に差をつけるべく考えたのがアイス化でございます。』 『アイス化? はははははは、これは面白い。先ほどの芸よりおもしろいぞ。』 『おかしいですかな?』 『固くてなって食えぬわ。子供でもわかること・・・・。』 『ところが出来るのでございます。王立研究所が誇る「特殊冷凍保存システム」のノウハウがあれば・・・。』 『なっ・・・・。』 国家機密に属する情報を一介のだんご屋が握っていることにアークは驚愕した。 『現代では治療不可能な患者を将来の医療技術に託すための冷凍保存や 星間航行時のコールドスリープなどに期待されるシステム・・・・と聞いておりますが。』 『き、貴様・・・どこでそれを・・・。』 勝ち誇ったかのような顔をしてだんご屋は答える。 『たかがだんご屋と申せど、他の業者に遅れぬよう情報収集には余念はございません。 だんごを特産物とするポポンもアイス化を考えているようですが、まぁ小国ゆえ科学技術で この国に追いつくまでには30年はかかりましょう。それまでに私どもが製品化すれば この国も潤うというもの・・・・。』 『国家プロジェクトの中心となる技術をだんご屋風情に渡せるわけなかろう。 今日の話は聞かなかったことにしてやる。立ち去るがよい・・・。』 アークは立ち上がり屋敷へと歩を進めた。 『このプロジェクトの責任者がダーヤマと名乗る地球の科学者であっても、 黙っていられますかな・・・。』 不適な笑みを顔に張り付かせ、アークの背中へと言葉を投げる。 『な、なに!?』 『技術顧問ということで、赴任しております。たしかグレック様も地球 に留学されておりましたなぁ。』 『ダ、ダーヤマ・・・ヤツがここに・・・・。』 アークは凍りついていた。 あの忌まわしい記憶が蘇ってくる。思い出しただけでもキズは疼き、 手が自然と仮面へと運ばれ、忘れていた殺意が込み上げてくる。 『貴様、それを知って私に近づいたのか・・・。』 『くくくく、アーク様はダーヤマとは何やら因縁がおありのようで・・・・。』 グレックではなくアークの名で呼ぶことで、越前屋は全てを伝えているようだった。 『これで互いに利がございますな。』 『しかし・・・。』 『心配は無用でございます。こちらで全て行ないますゆえ・・・。 アーク様はダーヤマの事だけお考えください。』 『準備は既に出来ているか・・・・貴様、怪しいとは思っていたが相当な悪党だな。』 『くくく、滅相もございません。そうそうスターナとか言う女も 先日こちらに留学してきたとか・・・。』 決定的は一言だった。 忌まわしき記憶が頭の中を駆け巡り、あの時に受けた 苦痛と恥辱で張り裂けんばかりであった。 引き返すことの出来ない事象の地平線へと足を踏み入れたことを 感じるアークだった。 |