08-Apr-1998 登場 ブドウ日記番外編 シュパルゲル(+その他)日記 このコーナーの目次
はじめに (08-Apr-98) シュパルゲル(Spargel)とは、ドイツ語でアスパラガスのこと。日本では青いやつ(...ホントは緑色だが、何故か日本語では「青い」とも言う。不思議だ...)が一般的で、白いやつとなるとビン詰めのフニャフニャしたやつのイメージが強いことと思う。ドイツでは、青いのも白いのも両方食べるが、白いやつの方が断然幅を効かせている。それも水煮のビン詰めではなく、生のやつを市場で買って来て、自分で茹でて食べる。レストランで食べるのも同様。 白アスパラは、ヨーロッパの近隣諸国でも食べられるが、ドイツでは一段とその地位が高いようだ。春から初夏にかけての風物の一つとして、広く、かつ深く愛されている。日頃食べ物にはあまり金と関心を注がないドイツにおいて、決して安くない食品であるにもかかわらず、不思議なくらいによく食べる。何か、特別な思い入れがあるという話も聞く。 この白アスパラ、もちろん季節外れには南や北の国々からの輸入物も少々見かけるが、人々がこぞって食べるのは、地元産のものが出回る4月〜6月にかけてである。この時期、ドイツ中で広く栽培されているようで、市場でも採れたての物が山積みされるし、国道沿いにも仮設のシュパルゲル売りの小屋が建ったりする。ぼくの会社の近くの空き地にも、地元の大手農園の仮設シュパルゲルスタンドが建ち、昼休みや夕方の帰宅時には買い求める人達でにぎわう。大抵のドイツ料理レストランでは、「シュパルゲルメニュー」と題した季節限定メニューが供される。 .....っと、ここまでは、ドイツについて書かれた色々な本によく書かれているので、ご存知の方も多いだろう。我が家でもつい昨年までは、それ以上の特別な意識はなく、ただ「うまい、うまい!」と食べていた。実はここフランクフルトから、ちょっと南のマンハイムにかけての辺り一帯が、ドイツでも有数のシュパルゲル産地であると知ったのは、何と当地での生活も5年目の去年(97年)のことであった。それ以前でも、高速道路の車窓から見える、季節も過ぎて伸び放題になったアスパラガス畑の景色なんかは十分記憶にあったが、今にして思えば不思議なことに、その収穫期の風景には気が付かなかったのだ。 去年の春、高速道路の車窓から、たまたま収穫風景を目にした。「これは面白そうだ」という訳で、それ以来週末の行動パターンの一つとして、ブドウ散歩と共にシュパルゲル畑散歩もレパートリーに加わったのだ。ただ、残念ながら目覚めたのは既にシーズン後半で、むしろ収穫も終わって伸び放題のシュパルゲルの畑の中を散歩した方が多かったかもしれない。また、そのころはまだこのHPも無かったというか、自分でHPを始めようなんて考えてもいなかった。 それが、何の因果か、今じゃ「ブドウ日記」なんて言うのを書いている。だったら、折角だから「シュパルゲル日記」も書いてやろうじゃないか、という訳だ。もっとも、この農作物はブドウと違って、年中見物対象になるようなものでもない。だから、まあ期間限定連載の「番外編」というのが順当なところだろう。 では、はじまり、はじまり。
この白シュパルゲル、どうやって作るのか、ごく簡単に説明しておこう。一言で言ってしまえば、「深谷ネギ」+「タケノコ」だ。....それでは良く分からないって? まず最初に、畑にタネをまく....かどうか、ぼくは良く知らない。園芸屋さんにはシュパルゲルの種を売っているから、種からでも出来るのだろうが、普通は越年した地下茎から生えてくるのではなかろうか。ま、ここの所は重要ではない。(と言って、ごまかす。) 初夏に収穫の済んだシュパ畑は、そのままボサボサに伸び放題のまま冬まで放っておかれるが、やがてトラクターで引っ掻き回しながら、畑が耕される。春先になると、これを高い(深い)畝にする。間隔は1.5〜2メートルくらい。畝の高さは、どうかすると40cmくらいはあるだろうか。この畝の山の中心の深い所に、シュパ公の地下茎があるらしい。厳密には、元々地下茎の残っている場所に、高く土盛りをして畝にする、と言ったほうが正しかろう。....でなければ、筋状にタネを蒔いた上に、高く土盛りをするわけだ。なお、この界隈で見る限り、この土盛り作業は完全に機械化されている。後は、シュパ公が伸びて来るのをひたすら待つ。場所によってはビニールを掛けたりする。これはきっと、季節の比較的早いうちに収穫するための作業ではないかと、素人農作物観察家は、勝手に考えている。 さて然るべき時期になると、シュパルゲルの茎がどんどん伸びて来て、畝の表面に達する。 そのまま放置すると、この茎は地上で緑色になって、普通の緑シュパルゲルとなる。もっとも、普通に緑シュパルゲルとして売られているものは、きっと高い土盛りの畝を作ったりはしないはずだし、もしかしたら品種だって違うかもしれない。 ドイツ名物の白シュパは、その穂先が地表に現れる瞬間に、地中深い所からすっぱり切り取る。何でも、穂先が緑色になってしまうと商品価値が激減してしまう(事実、白シュパの柔らかい穂先は一段と旨い..)とかで、とにかく穂先が地上に現れる瞬間に収穫せねばならない。とは言え、これらシュパ公はある日一斉にニョキニョキ伸びて来るわけではないから、同じ畑の同じ所を毎日見てまわって、その都度出てきたやつだけを一本一本、手で土をかき分けて掘る必要がある。そのためもあってか、畝の盛り土は、とっても軽く柔らかく、ふかふかに耕されている。そして、1本のシュパ公を掘った跡の穴は、これまたキレイに埋め戻され、更に、戻した穴の表面はコテで平らに仕上げられる。翌日以降に出て来る新芽をいち早く見つけ易くするためだろう。 ....とまあ、文章で記述してみたが、イメージが沸いただろうか。少なくとも、「これは相当の手間のかかる作業である」ことはお分かりいただけたと思う。昨シーズン、間近で観察していた時の感じでは、ある日の「巡回」で見つかって掘られるシュパ公は、ざっと2〜3メートルに1本位の割合であった。しかもその殆どは、一緒に付いて見てまわった我々には、「どうしてあそこにあるのが分かるの?」と、不思議なくらい目立たない。それを瞬時に見つけ、瞬時に掘り起こして、また瞬時に穴を埋め戻して表面をならすという一連の作業は、芸術的にすら見えた。農作物としては一際高い価格も、これを見てうなずいてしまった。
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