3月5日 日曜日
ついに来ました日曜日。今夜7時からカルナバル、エスコーラ・エスペシアウのジスフィーリ(行進)が始まります。まず何よりも大事なことは睡眠。午前中に到着する友人の対応をしたあとはひたすら横になります。とにかく寝ダメしておかないと今晩は朝までの長丁場です。
お陰でほぼ昼過ぎまで寝ることができ、体調万全で出動です。7時開始ですが、人の話だと7時きっかりに始まることもあれば、2時間ぐらいは平気で遅れるとのこと。7時開始を想定して5時には出発します。まずは地下鉄に乗ろうとラルゴ・ド・マッシャードの駅まで行きますが、途中でハタと気付きました。そう、今日は日曜日、地下鉄がお休みする日です。なんとリオの街の地下鉄は日曜日は運休するというまったくふざけた地下鉄です。世の中広しといえども日曜日に運休する地下鉄なんてあるんでしょうか。あのインドはカルカッタの地下鉄でさえ動いていたような記憶があります。まったくブラジル人、とくにカリオカは働かない!そういえばサン・パウロの人も同じようなことを言っていましたね。しょうがないのでバスを乗り継いでサンボードロモまで急ぎます。
しかしサンボードロモ近くの大通りに来ると、状況が一変。通りには今日の出場を待つかくエスコーラのカーホ・アレゴリコ(山車)がならんでいて素通りすることができません。引きつけられるように近づくと大通りには本当にたくさんの数のカーホがならんでいました。またもやブラジルらしいのはカーホの一部はまだまだ建設中で、飾り付けがほとんど終わっていないところもあります。「提出物は何事も締切までに出さない、出来ればばっくれる」をモットーとする僕としてはなんか共感できます。そう、締切なんて謝ってごねればなんとかなるんです。そのカーホのまわりに目をやると、これもどこかのエスコーラらしい人達が衣装を着たまま歩いています。会場に更衣室なんてないので、みんな家で衣装を着てそのままバスに乗ってきたりします。そんな人達がカーホの間を歩いているといやが上にもカルナバル気分が盛り上がってきます。
さらに会場に近づいてくると両側に屋台も現れ、お祭りになってきます。会場に急ぐ人達もたくさんいます。会場の周辺になると参加者の通るエリアと観客が通るエリアが金網で分けられ、金網の向こう側には出動態勢を整え、電飾もついているカーホや、きちんと整列して待っているアラの面々も見かけられます。そのあたりになると、ピリピリした緊張感がこっちまで伝わってきます。ブラジル人がそんな状態になるなんてホント滅多にないことです。
会場に近づいた頃には場内でアナウンスが始まり、バテリア(打楽器隊)の演奏が始まっちゃいました。しかし今いるところから見ると、僕たちがチケットを持っているセトール4はちょうど反対側。あちこちから集まってくるたくさんの人混みをぬって移動するのは大変です。結局30分ほどかかってやっと到着です。ただ、入口についてみてもそれほど混んでいるわけでもなく、割とあっけなく入れました。もともとセトール4は空席があったセトールなのでその程度なのかもしれません。
さて、席について待っているとだんだんとバテリアの音が大きくなってきます。そうすると建物の影からまず最初に先触れの人達が来て、なにかいいながら両手を叩いて会場をあおります。もう引火寸前の人達はバチバチバチとむやみやたらに叩いちゃったりしてます。なんかこれはご飯をねだる子供がお茶碗をお箸で叩くようなもんですね。みんなで叩いているうちに、コミッソン・ジ・フレンチが登場します。会場は総立ちになり「待ってました!!」の大歓声。こっちの方も「来た来た来た、リオのカルナバルがとうとう始まっちゃったよ!」と盛り上がります。
UNIDOS DO PORTO DE PEDRA |
まず最初のエスコーラは昨日ニテロイに衣装が飾ってあったポルト・ジ・ペドラです。そのコミッソン・ジ・フレンチ達は長方形の盾みたいな物を持っていて、それを全員で組み合わせるとブラジルの国旗になるという踊りです。うまく国旗が完成するたびにスタジアムからは大きな歓声。いいですね〜。その後はカーホが登場です。それも虎のカーホ。「なんで虎なん?」って疑問は残りますが、まあいいでしょう。その後には色とりどりのアラが通り過ぎていきます。ただ、何となく色に統一感がなく、ちょっと退屈になります。「これがカルナバル?へなちょこやんか!」とあなどっていると遠くの方からバテリアの音が近づいてきて、目の前の建物の影からついに登場です(写真で見たら分かりますが、ちょうど目の前にはカマロッチ2の建物があって、スタート方向の視界が遮られていたんです)。するとまわりを圧するばかりの打楽器の音が天まで響きわたります。
実は僕がカルナバルにこだわるのがこの打楽器なんです。日本にいる頃から打楽器系の音楽が好きで、アフリカの民族音楽を集めたりしていたんですが、そのうちたどり着いたのが南米の打楽器の世界。簡単には真似の出来ない複雑なリズムを完成させている彼らの音楽が好きで、ブラジルに来ても打楽器の音が良く効いている曲を集めていました。本当は声やメロディーなんかなくてもいいんです。リズムが聞こえれば。カルナバルではプシャドールがその美声を響かせ、ほんのかすかにギターでメロディーを弾いている音が聞こえるだけで、後は太古のリズムが会場を包みます。もちろん会場も大歓声。
そのバテリアを見ていると、突然行進を止め、バックするではありませんか。ちょうどバテリアはジスフィーリの中間にいるんですが、セトール9とセトール11の間の広場に来たらバテリアはいったんバックしてその広場に入ります。バテリア達を通り越して後ろのアラやカーホが前に行きます。どうもバテリアはそこでしばらく演奏しながら待機して、ジスフィーリの最後について退場するようです。しかもそのバテリア溜まりが僕たちのいるセトール4の目の前なので打楽器の響きが直接響きます。
さてその打楽器ですが、まず基本となるのは大太鼓(スルド)。単調ながらも全体の基本となるリズムを叩き出すとても重要なパートでバテリアのベテランの仕事です。そして小太鼓(ヘピニーケ)。こちらはもうちょっと複雑なリズムを作ります。そしてやや高い音く、複雑なリズムを作り出すのがタンボリン。小さいタンバリンみたいなヤツをよくしなる棒みたいなもので叩いて高い音を出します。サンバのリズムの中のタタタンタン系の音はこいつの仕業です。もう一つよく響くのがタンバリンの縁についている小さなシンバルみたいなのをそろばんのようにたくさん重ねたガンザで、見た目も大きなそろばんです。こいつは要所要所に登場し、シャカシャカシャカシャカという音を出します。その他にもいろいろな楽器がありますが、基本的なリズムを作り出すのはどうもこれらの楽器のようです。
打楽器の音に酔いしれているうちにたくさんのアラやカーホが通り過ぎ、最後にはバテリアも出てきました。しかしなんとなくイマイチという感じのするエスコーラでした。
GRANDE RIO |
次に登場するのはグランジ・ヒオというエスコーラ。ここは先触れに誰だか知りませんが有名芸能人を使っているようです。というのもまわりから「あれ、誰!」「○○!」って会話がたくさん聞こえたのでそうなんでしょう。その芸能人効果もあってか観客席はかなりの盛り上がり。最初のエスコーラよりもカーホも美しく、全体の踊りもうまくまとまっています。また、あちこちに有名人を配置しているようで、そのたびに観客席から歓声があがります。あんまりブラジルの芸能人について知識はありませんが、一人だけわかったのが「ア〜ニマ〜ウ」と一昔前の阪急のリリーフエースみたいなかけ声が客席に広がった時。こいつはヴァスコのエジムンドに違いありません。
VILA ISABEL |
その次はヴィラ・イザベルです。ここは他のエスコーラに比べると異色でした。エンレードは「インジオ」、全編にわたってインジオに関係するアラやカーホが続きます。なんといってもびっくりさせたのがコミッソン・ジ・フレンチ。インジオ風の藁葺きとんがり屋根の家をかついだほとんど裸同然のインジオの踊り子達がそのまわりで踊ります。他のエスコーラが派手なほう派手なほうに流れるのに対して、こちらはシンプル。結構気に入りました。
また、カーホもインジオの住む大自然を表したものが多く、動物や密林をモチーフとした物がほとんどです。カーホの上の踊り子もインジオと言うことでトップレスの女性が結構大勢いて、お客さんは大喜び。とはいえ彼らにもこだわりがあるらしく、約一名いかにも豊胸手術しましたって感じの女性が出てきたとたん、男達が騒然としてきました。あちこちから「あれはシリコンや!だまされるな!」って声が湧き出し「お前らそんなことになると冷静やんか!」と突っ込みたくなります。
さらにアラを見てみても、アルマジロあり、蜂あり、カエルありと自然色が豊かです。ただ、アルマジロのアラを見ていると、日本のお笑い番組の着ぐるみとほとんど同じですね。もし自分が参加し衣装がもらえるとしてもアルマジロの着ぐるみではちょっともの悲しいです。そういった意味で、このエスコーラのアラはややもの悲しくなる衣装が多かったですね。
そしてエスコーラの最後には大勢の人間で作り上げたブラジル国旗がお目見えです。日本と違って国旗に対して迷いのない愛着を感じているブラジル人達はやんやの大喝采。盛り上げて盛り上げて最後に愛国心をくすぐるとブラジル人はコロッといっちゃいますね。
しかしこのエスコーラは他のエスコーラと全く違う印象でした。日本でもどこでも他と違うことをすると一発逆転の可能性もあるものの、おおかたの場合失敗に終わることが多いんですが、結果的にこのエスコーラは失敗だったみたいです。僕はとっても良かったと思うんですが、まわりの人達の感想は「フェイオ(かっこわるい)」。やっぱブラジル人はフリフリの衣装がお好みのようです。そういえば日語学校の学習発表会の時も生徒達は競ってフリフリ衣装を着たがったものでした。まわりとのバランスとかそっちのけでみんなが一番目立とうとしていてそれを押さえるのに苦労したものです。
ところで、各エスコーラが去った後はお掃除チームが登場して衣装から落ちた羽根とか会場から投げ込まれた紙吹雪とかを掃除していきます。ただ、やはりカリオカ、だまって掃除をするのが嫌いなやつもいるようで、掃除そっちのけで踊っています。これが観客に大受けで暇を持ち余していた客席からは大拍手。調子にのって踊っているとついに「オイ!カンピオン!」のかけ声まで出て、最後にはテレビカメラの前でインタビューとかに答えたりしています。う〜ん、このあたりにブラジルと日本の違いをかいま見ちゃいました。ただ、他の人の話を聞くと、こういった人は毎年掃除チームの中にいるようで、はじめから観客もそれを期待しているみたい。そう聞いてピンと来ました。日本にも同じような有名人がいるじゃないですか(正確には「いた」かな?)。一昔前の相撲ファンなら誰でも知っている「パンナム日本支社長」のおっさんです。千秋楽の表彰式に出てきてたどたどしい日本語で「ヒョウショウジョウ、○○ドノ!アンタハエライ!」とか言って客の歓声を浴びた後、各地の方言で読み上げていくのがとっても面白かったことを思い出します。客席を見ていても、パンナムのおっさんが出てくるまで結構みんな残っていましたよね。彼の出番が終わると、なんかみんな急に帰っちゃうし、僕もテレビのチャンネルを変えてました。ただ残念だったのが、彼の登場順が遅いことで、優勝決定が遅れて表彰式が遅く始まったりすると放送時間内に見られなかったんですよね。
CAPRICHOSOS DE PILARES |
お次はカプリショーゾ。カプリショーゾといってもアマゾン、ボイ・ブンバのカプリショーゾではありません。でもこのエスコーラの印象はとっても薄いです。なんかこう言ってはやっている人に申し訳ありませんが、単調でひねりが足りません。たったひとつこのエスコーラで分かったのがブラジルの美意識。一番はじめのカーホは戦車と城壁をアレンジした、僕から見るとまさに高校生の文化祭のようなちゃちいカーホだったんですが、まわりの客は「ほら見て戦車よ、ステキ!」と老若男女みんなお気に入りのようです。このあたり「日本の元気な男の子と一緒やないか!」と思いたくなります。
しかしこの戦車のカーホにはもう一つの隠された見所があります。戦車=戦争ということで、戦争に捕虜はつきものです。カーホの中にも捕虜役らしい鎖につながれた人もいましたが、もう一人忘れられない人がいました。子供の頃、膝を曲げて鉄棒に引っかけて逆さにぶら下がったりしましたが、まさにこれをやっている人がいます。あんまり意味は分からないんですが、あえて言えば「拷問を受けて苦しむ捕虜」といったところでしょうか。この捕虜は両手を地面につけて、足は鉄棒にぶら下げたままずっとそのままです。こちらには背中を見せるようにぶら下がっているんですが音楽に合わせて背中の筋肉を動かしたりして彼なりに参加しています。そしてサビの部分になると両足だけでぶら下がって上半身を後ろにそり上げてこちらに向かって両手を広げてアピールします。きっと踊ってるつもりなんでしょうが見ているこっちには「お願いだ!助けてくれ!」と渾身の力で訴えているようにしか見えません。彼は僕らの前に登場したときからゴールの彼方に消えるまでずっとぶら下がったままでした。その間ほぼ40分。僕たちの前に登場する前の30分間もきっと逆さまになっていたに違いません。僕の心の中で本日一番の「努力賞」をプレゼントしました。ただ、残念だったのは彼の必死の演技がエスコーラの芸術性を高めるのに何の役にも立っていないという痛恨の事実でした。でもそれ以上に彼の男らしい背中は何かを僕に残して去っていきました。
ところで僕たちのセトールは当たり前ですがブラジル人が多くエスコーラが登場すると毎回総立ちになり、彼らがゴールラインをこえて消えて行くまでみんな立ち上がったままで応援するんですが、目の前にあるセトール11は違うみたいです。まず明らかに客層が違います。胸に名札をつけた客が多く、その多くは老人です。どう見てもコパカバーナあたりの高級ホテルに泊まっている外国人観光客って感じです。もちろん日本のツアー客風の人も大勢見かけます。そして彼らは驚くほど盛り上がりません。なんといっても誰が通ろうと何が起ころうと立ち上がったりしません。まあブラジル人とはカルナバルに対する熱意が違うと言えばそれまでですが、ちょっとエスコーラの人にかわいそう。エスコーラもその点は分かっているようで、カーホの上で手を叩いたりして観客席を盛り上げようとする踊り子達もそっちの方はあきらめてこっちの方を集中攻撃してきます。それに12時をとっくにすぎている今頃になるとあっちには人が残っていません。こっちがぎゅうぎゅう詰めになっているのに比べるとうらやましいぐらいすいています。中には横になって見ている人もいて盛り上がるけど狭いこっちにいるのがいいんだか盛り上がらないけど場所が広いあっちの方がいいんだか。ガイドブックによるとこのほかにもセトール7にも外国人観光客が多いそうで、ここも避けた方がいいのかも知れません。
TRADICAO |
さて、カルナバルに目を戻すとお次の登場はトラジソン。ここも他のエスコーラとはちょっと違いました。他のエスコーラのアラは各自それなりに踊っているんですが、アラ全体で踊ることはあまりありません。最初の方の人目に付きやすいアラあたりでは何日も練習したであろう息のあった踊りを見せてくれはするんですが、それ以外のアラは勝手に踊っている人達がゴチャゴチャ集まっているだけです。その点トラジソンはほとんどすべてのアラが、きちんと踊っていました。ただ、踊りのバリエーションは限られているんですが、それでも各アラでは数人ずつきちんと並んで右に行ったり左に行ったりしていて「おっ、ちゃんと練習しているな」という印象を受けます。残念なことに全体のデザインが今ひとつで、イマイチ観客席の受けは良くないようでした。
MOCIDADE INDEPENDENTE DE PADRE MIGUEL |
次に出てくるのは僕としては初日のエスコーラではダントツの出来だと思うモシダージです。もうこのエスコーラは始まる前から違いました。まわりの人達が急に頭に「モシダージ」と書いた鉢巻きを巻いたりして応援態勢に入ってるし、モシダージの名前が入ったシャツを着ているファンもたくさんいます。どうも初日人気ナンバー1のエスコーラのようです。
僕がいるセトールはとなりのカマロッチの建物が邪魔でスタート地点がよく見えず、行進が始まってから目の前にエスコーラが到着するまでだいたい20分〜30分ぐらいかかります。まわりのブラジル人達も他のエスコーラの時はスピーカーから流れるサンバ・エンレードを聞きながら歌詞カードを見て歌詞を憶えたり、トイレに行ったりして何となく「幕間」の雰囲気ですが、ここだけは違いました。前のエスコーラが退場し、「第六番目のエスコーラ、モシダージ・インデペンデンチ・ジ・パードリ・ミゲ〜ル」のアナウンスが流れると観客席から早くも「ウオォォ〜」と大歓声。みんな立ち上がっちゃいます。みんな歌詞を憶えているのか最初から歌っちゃってます。
こっちも「今度は何か違うやんか!」と心待ちに待ちます。そして25分待ってやっと登場ですがもう最初から度肝を抜かれました。他のエスコーラのカーホが高校文化祭だとしたら、こっちのカーホはまさに芸術作品です。エスコーラの主張がこちらまでビンビン響いてくるような強烈なカーホです。竹馬に乗った背の高い銀色に輝くコミッソン・ジ・フレンチの後に引き続いて三本の銀色に輝くタワーとその上に翼を広げる天使が登場したときは映画の「未来世紀ブラジル」を想像させる荘厳な迫力を感じました。
さらにそれに引き続いて第二のカーホが登場した時には本当に感動しました。今までブラジル人の美意識を半分からかったりしていましたが、もう「反省!」です。そのカーホは銀色に輝く支柱が複雑なジャングルジムみたいなものを構成し、その各所にぶら下がっている銀色に輝く踊り子が踊るんですが、それは踊りというよりも舞踏に近い統一された美を感じさせます。また、ジャングルジムのまわりには旗のような細長い布がいくつも垂らされ、そこにぶら下がっている踊り子達は落ちるんじゃないかとハラハラするほどダイナミックな舞踏を披露してくれます。硬質な骨組みと柔らかい布と踊り子の舞踏が不思議にマッチしていてこれまでのカーホとは全く違った美しさを感じさせてくれました。
驚愕のオープニングがすぎると、今度は白と銀を基調とした衣装を身につけた様々なアラが登場します。それぞれ衣装が違うんですが全体を見ると先頭からずっと銀色の帯が続き「ああこれがカルナバルか」と感じさせてくれます。すると一転こんどは緑の奔流です。原色の緑のみずみずしいアラとカーホが登場します。とくに緑のカーホは突然緑のジャングルが目の前に出現したかのように美しいカーホでした。そうすると次に現れてくるのは黄色か青に違いありません。だってブラジルの国旗の色だから。緑は豊かな自然、黄色は燦々と降り注ぐ太陽、そして青はどこまでも青い大西洋です。
そう思うと予想通り黄色いアラとカーホが続きます。今度は黄色が延々と続き、会場は黄色一色になります。太陽をイメージした衣装のアラが登場するとパッと明るくなります。とくに今度のカーホは黄金色に輝くカーホですが、その先頭に黄色いレーシングスーツに身を包み、ブラジル国旗をあしらったヘルメットをかぶっている踊り子がいるのを僕が見落としませんでした。こいつはアイルトン・セナにちがいありません。栄光の絶頂期に若くして世を去った英雄は、今はブラジルのスポーツの神様としてほとんど信仰といっていいほど慕われています。
その次には海をイメージした青の軍団が登場です。もうこのころまでには観客席は完全に出来上がっちゃってすごいことになってます。さすがにこの完成度の高さはただ者じゃないですからね。青の軍団の次は白の波がきて、シメです。そのカーホは最後を飾るのにふさわしいものでした。水晶をイメージしたであろうそれは内部からのライトに照らされて不思議な輝きを放っています。そのまわりに配置された踊り子もゴチャゴチャしてなくて良かったんですが、願わくばビキニ調衣装ではなく、天使のような衣装だったらもっと良かったんじゃないでしょうか。
PORTELA |
興奮がさめやらぬ観客席ですが、次に登場したポルテイラは少しかわいそうでした。テーマはどもゼツーリオ・ヴァルガスみたいです。彼は第二次大戦のころの大統領で、彼の政策エスタード・ノーボは国粋的な政策として有名です。日本移民達の日本語教育も禁止されたり、一部の日系人は収容所に入れられたりと日系人にとっての受難の時代をもたらした大統領です。それを扱っているものだから「政治犯と思想改造」を想像させるカーホがあったりとなんとなくカルナバルっぽくありません。会場もその前のモシダージで疲れちゃってなんとなく気が抜けてます。僕もなんとなく気が抜けながらもせっかく来たんだからと彼らが退場し、バテリアが最後の演奏を終えるまでじーっと見てました。そしてその頃には東の空には薄明かりがひろがり、祭りの終わりを告げてくれました。