店主の読書日記 JAN2004 タイトルリスト 作家別リスト

2004/1/25

アジア古都物語  イスファハンのイマーム広場を初めて見たのはTBS「世界遺産」のビデオだった。
 私、イスラム建築もそれを彩るタイルも絨毯も大好きで、三越本店に行くとペルシャ絨毯売り場をうろついたりもするくらいだ。(←「こいつ金持ってねえな」と思うのか接客はしてもらえない←もちろんその通りで買えない)
 そこで、今回借りて見たのが「<NHKスペシャル>アジア古都物語第5集 イスファハン『楽園を夢見る王都』」。

 イスファファンはイランの首都テヘランから南方約330km。
 町の南にはザグロス山脈に水源を発するザーヤンデルード川が流れている。
 16世紀末にサファヴィー朝ペルシャのシャー・アッバース1世によって遷都される。王はザーヤンデルード川の豊かな水を利用して、この世の楽園、天国を作りあげた。砂漠に暮らす人にとっての楽園は、水の青と草の緑に覆われたオアシスの風景だ。かくして広大な庭園都市が作り上げられ、イスファハンは「世界の半分」と称えられるほどの繁栄した都になる。
 サファヴィー朝は200年で終わりを告げるたが、今でもザヤーンデルード川は町の東西に流れている。王が建てた(1630年に完成した時には、アッバース1世は亡くなっていたが)イマーム・モスク(王のモスク)もイマーム広場の南側にあり、神様の家として大切にされている。

 今ではイスファハンは「世界の半分」ではない。
 空色のドームが美しいモスクも、長く続いたイラン・イラク戦争で被害を受けた。
 もともと50年ごとにされていた補修も10年ずれこんで、やっと60年目の修理だ。
 ドームの空色はタイルの色。
 このビデオでは、老職人と難民の少年の交流が語られる。

 モサッデブグーレさんは77歳。国一番のタイル職人で、その腕はイランだけでなく周辺の国のモスクの修繕に呼ばれるほど。
 モハンマドレザー・ゴルバーニーくんは10歳。アフガニスタンからの難民2世。
 彼は午前中は学校に通い、午後はイマーム広場で靴磨きをして一家の生活を助けている。イマーム広場で働くうちにモサッデブグーレさんと知り合い、その仕事を見て自分もタイル職人になりたいと思う。
 少年は父親にそのことを話す。
 その願いは聞き入れられない。
 60を過ぎた父親は定職がなく、一家はモハンマドレザーくんとその兄弟が稼ぐお金しか収入がないからだ。彼が1日に稼ぐのは約160円。一人もお客がいない時もある。

 モハンマドレザーくんは時たまモサッデブグーレさんの工房を訪ねている。
 自分が10歳の時にタイル職人の仕事をはじめた老職人は、難民の少年に昔の自分の姿を重ねている。少年がやる気さえあれば、自分の技術を仕込んであげたいと思っている。
 工房で少年に教えながら、老職人はこういう。

 今の君の仕事は将来につながらないよ。
 神様のご加護で一人前の職人にしてあげるから――また来るんだよ。

 楽な暮らしではないだろうに、少年はイスファハンの町が好きだという。「好きなところどこにでも行ける自由がある」と。
 イスファハンはもう「世界の半分」ではない。それでも、ある人にとっては確かに楽園への途中なのだ。


2004/1/23

 前々から気になっていた『エマ』……を買おうと思ったが続いているみたいなので、とりあえず1冊で完結している『シャーリー』(森薫/エンターブレインBeam comix)を購入。
 ビクトリア時代を舞台に、13歳のメイドさんと27歳女性の交流を描く連作短編。
 たぶん、この作者の好きなものが私とかぶるのだろうと思うけど、随所に○○風味、△△テイストというのが感じられて、合体してオリジナルになっていて好感がもてた。
 いや、でも、反則でしょう、13歳のメイドさん(笑)。どう考えたってカワイイもの。

 本の中に挟まっていたのが、アンケートはがき。
 えー、裏表とも作者のイラスト入りでございます。
 かわいい。
 すごく、かわいい。……けど……、出せません! これじゃあ、コレクターズ・アイテムっすよ(笑)。アンケートの回収が悪かったら、そのせいでしょう。絶対コピーして使った人がいたと見た。

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2004/1/22

ただいま  『ただいま』を見る。(もう説明いらないでしょうが、BS-JAPANっす……)

 子連れ同士の再婚家庭で、父と母が激しくののしりあう毎日に置かれた二人の女の子。ある日、5元を盗んだ濡れ衣をきせられたタウ・ランは義姉を殴り、その結果、義姉は死んでしまう。
 刑務所に服役して17年、模範囚のタウ・ランは旧正月に一時帰宅を許された。他の一時帰宅組の囚人が家族に迎えに来て去っていく中、彼女には誰も迎えに来ない。バス・ターミナルで途方にくれるタウ・ランに声をかけたのは、刑務所の主任だった。

 と、いったストーリーの地味〜な中国映画。
 私はかなり、中国映画の認識が変わりました。
 テイストとしてはかなりヨーロッパ的。ただし、27歳の美人の主任が語るのは中国らしい理想。たぶん、本当にヨーロッパ映画だとしたら、この主任は定年間近のおっさんあたりが配役されたのではないか。
 おっさんの代わりに美人の主任が、
「世間は慈悲深いのよ。あなたが更正すれば世間は受け入れてくれる」
と、語る。

 実の娘を殺された父は、最後にタウ・ランを受け入れる。
 でも、それは慈悲深いわけでも、タウ・ランが更正したからではない。色々あったが、たぶん時が過ぎたからだ。
「いっそ一生刑務所に入っていてくれないかと思った」
 実の娘についていう母は、冷たい世間の代表だろう。慈悲深いのは時だけかと思うと、キャッチ・コピーの「ハートウォーミング・ストーリー」がずいぶんと苦く感じられた。

『ただいま』過年回家/Seventeen Years(1999年、中国) 89分
監督:チャン・ユアン
CAST:リウ・リン 、リー・ピンピン 、リー・イェッピン 、リアン・ソン


2004/1/21

ラブ・アクチュアリー  試写会で『ラブ・アクチュアリー』を鑑賞。
 いやあ、面白かった。
 ハリウッド的分類なら「ロマンチック・コメディ」なのだけど、コメディ部分がイギリス的で同じ島国の日本人にとっても合うような。
 上映時間2時間15分、飽きっぽい私も全然飽きなかった。

 物語は9つのオムニバスがぎゅーっと凝縮されて詰まっている感じ。色々な愛の形があって、いくつかの恋は叶い、いくつかの愛は報われない。
 特に切ないのが、キーラ・ナイトレイ扮する親友の恋人に片思いする青年・マーク。あることがきっかけで片恋がばれるのだが、その演出がなんとも切ない。
 また、キーラ・ナイトレイがすっごくかわいくて片恋、やむなし!って感じなのだ。私は雑誌の「女優のムダな乳出し」特集(って、なんやねん、それ)で最近注目したけど、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の女優さんだったのね!(←うとすぎ)
 この彼と彼女のエピソードも、時間にしたら20分くらいなものなのだけど、1本の映画くらいの密度がアリ。親友同士の会話とか、背景を無理なく納得させる脚本がいいんだろうなあ。
 もっとも、このエピソードに限ったことでなく、それぞれのエピソードが極力ムダを省いて凝縮されている。考えてみれば贅沢な作りだ。1つの映画で色々なパターンのロマンスにニッコリしたり、ホロリとできたりするのだから。

 なかなか面白かったのが、トーマス・サングスタームの初恋に苦悩する少年・サムのお話。
 義理の父親が、次の恋があるさ、みたいなことをいうと、
「恋は1つきりだよ。誰にとっても」
と、返され、
「そうか、そうだな」
と、しみじみ納得する。
 実はこういうことって結構現実にもある。どれだけ年を取っても、子供に教えられることって多い。
 天使のようにかわいいトーマスくんはヒュー・グラントと遠縁の親戚なのだとか。(もっともお互いに知らなくて、親類のおばさんが「親類のトーマスがこの映画に出てるのよ」といってわかったとか)

 劇中音楽もナイス。
 個人的にはベイ・シティ・ローラーズの「バイバイ・ベイビー」がよかった。BCRはもっと評価されてもいいと思うなあ。

『ラブ・アクチュアリー』LOVE ACTUALLY (2003年、イギリス) 135分
監督・脚本:リチャード・カーティス、撮影:マイケル・コールター、音楽:クレイグ・アームストロング
CAST: ヒュー・グラント(英国首相デヴィッド)、リーアム・ニーソン(ダニエル)、コリン・ファース(ジェイミー)、ローラ・リニー(サラ)、エマ・トンプソン(カレン)、アラン・リックマン(ハリー)、キーラ・ナイトレイ(ジュリエット)、ローワン・アトキンソン(宝石店員)、ロドリゴ・サントロ(カール)、トーマス・サングスターム(サム)、マルティン・マカッチョン(ナタリー)、ビル・ナイ(ビリー)、ハイケ・マカッシュ(ミア)、ビリー・ボブ・ソーントン(米国大統領)、マーティン・フリーマン(ジョン)


2004/1/20

 『ネズミの時計屋さんハーマックスの恋と冒険1――〈月の樹〉の魔法』(マイケル・ホーイ、雨沢泰/ソニー・マガジンズ)読了。
 うわっ。あらためて書いていみると、タイトル長っ(笑)。

 毎日読了してるみたいだが、実は『ミスティック・リバー』と一緒で、2003年から読んでいたもの。ひとつの章ごとにブツ切れ感があるが、逆に新聞連載みたいに毎日少しずつ読んでいくのには向いていたみたいで、読了に3週間もかかってしまった。
 もともと、この小説は海外出張中の妻に夫が1章ずつ書いて送った物語だったそうだ。
 妻にプレゼントするためにまとめて電子出版して、まわりの希望で自費出版、そして、じわじわと人気が出て海外翻訳まで出てしまう。うそのようなシンデレラ・ストーリーのこの小説。

 タイトルの通り、主役はネズミ。時計店を営む少しお腹がポッテリしだしたオヤジネズミで、静かに時計の修理をして過ごす毎日に飛び込んできたのが、女冒険家、リンカ・パーフリンガー。
 いつまでも修理した時計を取りに現れないリンカを心配して行動を起こしたところから、若返りの薬をめぐる冒険に巻き込まれていく……という物語。

 もともと大人が大人に贈った物語なので、充分大人の鑑賞に堪えるファンタジーだ。
 海外ファンタジーは優れたものが多いので(優れていないと翻訳されないか)、その中にあって特に素晴らしいとはいいにくいのだけど、ラストのちょっとビターでホロリとさせるところは、大人じゃないと楽しくないだろうなあ。

 本の体裁からして対象もYAから大人向けなんだけど、子供向けにしてふわふわとかわいいネズミのイラストをたくさん入れてくれればよかったのになあ、なんてことも思う。
 私、ナルニアのリーチピープもミス・ビアンカも大好きなものですから(笑)。

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2004/1/19

 『黒の貴婦人』(西澤保彦/幻冬舎)読了。
 タック&タカチ・シリーズの最新作。
 今回は短編集で(ひとつ中編もある)、割とさらーっと読めるのがこの本のいいところかも。(←『
ミスティック・リバー』症候群といってくれ)

 タイトル作の『黒の貴婦人』に出てくるのは、「白の貴婦人」と呼ばれる謎の女性。
 タック達の行きつけの飲み屋「さんぺい」と「花茶屋」に毎日現れて一日3食限定の鯖寿司を食べていく白尽くめの女。彼女はいったい何のために現れ、その行動を繰り返しているのか。
 ……といったことを、またこのシリーズらしく「○○じゃないのか」「○○だろう」と雑談していくお話。
 『依存』以降の西澤保彦は、非常にこういった「真実はこうかもしれないけれどわからない」というスタイルが多い。事実が見る方向でいかようにも変わってしまう、ということをわかった人間のそれだろうか。
 ニュースで「バールのようなもので」とか「鈍器のようなもので」という言い方にもちょっと似ている。言明を避けるのは非常に今の時代っぽい態度なのかもしれない。
 まあ、読んでる方は、ばさっと断言してもらった方がすっきりするけどね。

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2004/1/18

 痛い。
 腹の真中だけでなく脇まで痛い。……腹筋が。
 土曜日に寝技を教えてもらったのが面白くて、イエ、寝技といってもダンスの寝技なのだけど、
「ジュニア(ジャニーズ)みたい〜」
と、うひゃうひゃ踊ってたら、すっかり腹筋に来たのだ。
 床に倒れこみながら腕立て姿勢になって、床を蹴って体を仰向け、床を蹴り上げる感じで立ち上がってハイキックしながら回転……とか面白そうっしょ?
 しかし、こんなに腹筋を使うとは思わなんだ。
 つくづく、ジャニっ子さん達はエラい。
 あの人達、1日3回公演とかやるし。

 私が営業なら『アンティーク探偵登場!』とタイトルをつけると思う『死体あります―アンティーク・フェア殺人事件―』(リア・ウェイト、木村博江/文春文庫)読了。
 『
ミスティック・リバー』の後だけに、そのコージーさが嬉しい。(実家への一往復で読み終わっちゃったしね)
 主人公のマギーは図版専門の骨董店を営む未亡人。NY郊外のアンティーク・フェアに出店したら、そこで殺人事件が起こって……という内容。
 素人探偵なので厳密にいうとアンティーク探偵ではないのだが、やっぱりウリとしてはそういいたいんじゃないかなあ。
 いいんですか、文藝春秋の方っ? ちょっと販売戦略が奥ゆかしすぎですよ!(笑)

 マギーの専門は図版で、主に古い本の中に入っている手彩色の版画がを取り扱っている。(この作品を読む限りでは、室内装飾に使う目的で買う人が多い)
 著者のリア・ウェイトも同じ図版を専門とした骨董商らしいので、そこいらの薀蓄は山盛りに出てくるが、事件解決の重要なピースではない。私が手放しで誉めにくいのはその辺だ。
 骨董業者ならではのミステリといえるかといえば、ちょーっと違う。
 ただ、ミス・マープル系統のミステリが好きならオススメ。
 重厚なものもいいが、余暇に楽しんで読むには、これくらい軽い方がいいなあ。

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2004/1/17

ベンゴ  なんだか最近、マニアックな(割と)映画ばっかり日記に書いてる気がする。
 「ベンゴ」。
 字幕なのに、ほとんど全編ながら見をしたという。ストーリーは、ながら見でもOKな単純な復讐劇。でも、DVD買ってもいいなあ。というより、そのうち買います。はい。
 何が素晴らしいというと、この映画に満ち溢れる歌と踊り。私の中のスペイン魂をぶるぶる震わす素晴らしさなのだ。
 アンダルシア地方の男達の愛と復讐の物語。単純といったストーリーも、よく考えると寓意を感じられる気もする。
 でも、あんまり深く考えるのはやめて、ロマ民族の音とイスラムの音に身を任せるのが正解だろう。1時間半とは思えないほど、深い音とリズムがぎっしりと詰まっている。
 セザール賞、最優秀音楽賞受賞作品。

『ベンゴ』VENGO(2000年 スペイン/フランス)89分
監督・脚本:トニー・ガトリフ
CAST:アントニオ・カナーレス 、オレステス・ビリャンサン・ロドリゲス 、アントニオ・ペレス・デチェント


2004/1/16

ゴッド and モンスター  アカデミー賞脚本賞(脚色・第71回1998年)を受賞したらしいのだが、全然知らなかった「ゴッド and モンスター」。ついでに、メイド役でリン・レッドクリープがゴールデングローブ賞助演女優賞(第56回1998年)を獲ったそうなのだが、やっぱり知らなかった。
 無理もないか。難解な上、ホモセクシャル臭に満ち満ち溢れた映画だから。
 ちなみにこれもBS-Japanで視聴。「I LOVE ペッカー」といい、本当にこのチャンネルって濃い映画ばっかり放映するなあ。

 『フランケンシュタイン』などの恐怖映画で一世を風靡しながら映画界を引退し、ロサンゼルスの自宅で隠遁生活を送る元監督ジェームズ・ホエール(イアン・マッケラン)。彼は卒中で記憶に障害が出、日に日に悪化する精神錯乱に怯えていた。そんな時に現れたのが、海兵隊出身の庭師クレイトン(ブレンダン・フレイザー)。ホエールは彼に絵のモデルを依頼し、一方ホエールの経歴を知ったクレイトンも、彼に興味を抱き始めるが…。

 自宅のプールで水死体となって発見された実在の映画監督がモデル。映画は過去と過去の映画のフラッシュバックが現在と交互に流れる仕立てになっている。
 物語のはじめに、ホエールのところに雑誌記者がインタビューに訪れる。ホエールは「君が1つの質問につき1枚脱ぐなら答えよう」という。男性記者はホエールの求めに応じて1枚ずつ脱いでいき……。
 ここで引いたアナタ。
 見るのをやめたアナタ。
 正解です。
 これに耐えて見つづけていると、「全裸の青年満載のプールを思い浮かべて微笑む老監督」という、かなりすごいシーンを見なければいけません。

 それはともかくとして、饒舌なところと語られないところの按配がちょっとバランスが悪い気がして乗り切れないことも事実。まあ、半分、スープを作りながら見ていた私も悪いんだけど。

『ゴッド and モンスター』GODS AND MONSTERS(1998年、アメリカ)
監督・脚本:ビル・コンドン 、製作総指揮:クライブ・バーカー 、音楽:カーター・バーウェル
CAST:イアン・マッケラン 、ブレンダン・フレイザー 、リン・レッドクリープ 、ロリータ ダヴィドヴィッチ


2004/1/15

 『ミスティック・リバー』(デニス・ルヘイン、加賀山卓朗訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)読了。
 昨年から読んでいたのだが、年末年始の首痛のせいで(なにせ下、向けないし)、読了が今年に。昨年内に読み終わっていれば、2003年マイベストに間違いなく入れただろう。

 ショーン、ジミー、デイブが11歳のある日、警官を装った2人の男の車に乗せられデイヴが連れ去られる。4日後、誰もがデイヴの生還をあきらめた頃、彼は自力で脱出してきた。
 それから25年。ジミーの娘ケイティが何者かに惨殺される。
 事件の捜査を担当する刑事のショーン。ケイティ殺害の夜に血だらけで帰ってきたデイヴ。そんな夫に怯えるデイブの妻、シレスト。ミスティック・リバーのほとり、彼らの運命が交差する。

 とにかくせつない物語だ。
 若いせつなさでなく、ビターな苦さ。
 この本を読み終えるまでが結構手ごわかったのも、圧倒的な重たさによるところも大きい。めちゃくちゃに落ち込んで帰ってきた時なんて、ちょっと重たすぎて読めないほど。
 読んでいて思い出したのが、宮部みゆきの『模倣犯』だった。(国内作品だと『永遠の仔』と比べられるらしいのだが、私は未読なのでよくわからない) 宮部みゆきが『模倣犯』という圧倒的な分量の作品で何を描いたかというと「破壊された日常を生きる人」の姿で、それを描くためにあのブ厚い上下巻が必要だった。
 『ミスティック・リバー』に登場する人達も、それぞれ破壊された日常を生きている。
 愛する娘を失ったジミー。
 妻が家を出てしまったショーン。
 11歳の事件の傷をずっと持ったまま生きつづけるデイヴ。
 そしてデイヴの隠された暗部に怯える妻・シレスト。
 当たり前で少し退屈な(でも幸せな)日常を過ごしている人は誰もいない。
 それぞれの思いと苦悩がタペストリーのように織られて、結末に向かっていく。物語がいつも戻ってくるのはデイヴが連れ去れたあの時。
 男2人に連れ去れた4日間に何があったか、詳しく語られることはない。ただ、酷い虐待があったことが匂わされるのみ。

 ちょっと話はずれるが、ジミーの娘のケイティが殺されたのがはっきり語られるのも、物語が1/3くらい進んでからだ。普通だったら、デイヴ視点やケイティ視点の章が挿入されて、サスペンスを煽るだろう。この物語はあくまで重く静かに進んでいく。
 しかし、この1/3をバカにしてはいけない。
 すべての結末の原因がこの部分にある。ちょっと勘がいい人ならミステリの謎解きもしてしまえるかもしれない。
 ちょっとがんばってここまで読んだら、あとは『ミスティック・リバー』のドラマに巻き込まれてしまおう。スティーブン・キング作品のように、商品名やTV番組名が山盛り出てくるので、あなたがアメリカものになじみがあれば、かなり臨場感があるはず。
 ショーンの相棒のホワイティ(彼もまた壊れた家庭生活の持ち主だ)が、「スクリーンで上映するなら、俺の役は誰々だな」なんていうシーンもある。

「わかってる」 ジミーは手を伸ばしてデイヴの前腕をぎゅっとつかんだ。「ありがとう」
 その瞬間。デイヴはジミーのためなら家まで持ち上げられそうな気がした。ジミーがここに置いてくれと言うまで、家を胸の高さに抱えられていられると思った。

 私が何よりせつなかったのが、このシーン。
 11歳のデイヴは、頭がよくて度胸のあるジミーについてまわっていた。25年後、苦悩する子持ちの中年になったデイヴは、やはりガキ大将に憧れる"少年"なのだ。この片思いは報われない。
 そしてたぶん……すべての悲劇はここにあったと思うのだ。

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2004/1/14

I LOVE ペッカー  BSで「I LOVE ペッカー」を見る。
 タイトルだけ見てニヤリとした人。そういう映画ではありませんよ!(笑) (ペッカーはスラングで「男性器」[類]ディック……って、余計な英語トリビアを披露しなくても)
 一部で熱狂的ファンのいるジョン・ウォーターズ監督作品。

 ボルチモアのバーガー屋で働く18歳のペッカー。彼は中古のカメラを常に持ち歩き、風変わりな人々や風景を撮影していた。たまたまボルチモアに来ていた美術品ディーラーが才能を認め、NYで彼の写真展を開く。個展は大成功を収め、一躍アートシーンの寵児とスターとなったことから、写真の被写体となった人々から反感を買ってしまう。

 カルトな悪趣味作品という評判が高いウォーターズ監督作品にしてはおとなしめ。NYのアート業界人への皮肉もパターンで、やっぱりおとなしめ。
 強いていえば「紅茶パッグ」か。色々な業界に色々な言い方があるのね……。(遠い目)
 しかし、ウォーターズ入門作品(私もこれが初見)としてはこれくらいの刺激の方がいいのかもしれない。私はもうちょっと濃くても平気だけどさっ。
 配役は結構クセものだ。
 日本のマーケットだと「2大子役あがりスター競演」という切り口で売っている。確かにペッカーの恋人役のクリスティーナ・リッチはいいが、他の顔ぶれも無視できない。
 特にペッカーの妹クリッシー役ローッレン・ハルシーの怪演は必見。砂糖ジャンキーで都会のカラスがエサをかっさらうように、キャンディ類を見つけると誰のものだろうと素晴らしいスピードで盗って……いや、取っていく。オスメント君とかダコタ・ファニングが「天才子役!」と騒がれているのに、この子が騒がれないのは不思議だ。(いや、そもそもこの映画を見た絶対数が少ないのか) 根性ある砂糖ジャンキーっぷりは、とても演技とは思えないほど。

 この妹をはじめ、主役のペッカーより家族のキャラクターが強烈。
 「聖母マリアの人形に奇跡が起こって話し始めた」というおばあちゃん。(でも、おばあちゃんの口が動いている……) ホモが好きでホモバーで働き、ショータイムの実況中継が生きがいの姉。
 こういう変な人々が幸せに普通の生活を営んでいるようだったら、ペッカーの言うとおりボルチモアって素晴らしい。

『I LOVE ペッカー』Pecker(1998年、アメリカ)87分
監督・脚本:ジョン・ウォーターズ、撮影:ロバート・スティーブンス、音楽:スチュワート・コープランド
CAST:エドワード・ファーロング 、クリスティーナ・リッチ 、リリ・テイラー 、メアリー・ケイ・プレイス 、マーサ・プリンプトン 、ベス・アームストロング


2004/1/13

 セミナーのお知らせが来た。

 「腰が痛い!」「肩こりがひどい…!」など、からだの悩みをお持ちではありませんか?
 これらは受動的な病院での治療やマッサージだけではなかなか解消できません。
 からだの状況を正しく把握し、的確にコンディショニング、すなわち、からだの弱い箇所を自ら動かすことで改善していきます。これがR-bodyです。
 当講座では、国際的トップアスリートやプロスポーツ選手を支える一流トレーナーが、あなたのからだを改善します!

 講師のプロフィールを見るとJOC(日本オリンピック委員会)医科学強化スタッフ・トレーナーとか日本代表アイスホッケーチームとか、格闘選手のトレーナーとか錚々たるもの。
 去年は故障が多かったから、予防も含めて聞きに行ってみた。

 2時間くらいのスケジュールのうち、半分は体の仕組みの講義。骨格構造やその骨と靭帯と筋肉がどういう風に存在しているか。腸腰筋なんていう知らない筋肉と大臀筋の関係とか、すごく大学の講義っぽい。
 ちょっと眠たくなったあたりで、実技。隣の人同士で組んで、立ってお互いの体のバランスを見る。(左と右のバランス。横向きだと前と後ろのバランス) 最初はちょっと難しいのだが、ポイントを教えてもらって診断していく。
 これで何がわかるかというと、痛みの原因。同じ肩が痛いという症状でも、原因は様々だったりする。故障した部分が再発しやすいのは、患部を直しても原因を直していないせいだ。
 例えば肩こりなら、マッサージに行って3日くらいは症状が治まってるけど、またしばらくしたらやっぱり痛くなってしまう。これはマッサージによって患部周辺の肉の血行をよくしているだけで、本当の原因は棚上げされたまま残っているから。

 で、原因を改善するためには、あくまでも自分。自分で鍛えないとイカンのですね。
 とりあえず、トレーナーと1対1で個別診断をしてくれる日の予約をしてきた。毎週通うとお金かかりそうだな〜。でもまあ、痛みには替えられないか。


2004/1/11

 既に店主のハガネ日記と改名した方がいいんじゃないかと思う今日この頃。
 出かけたので見れなかったので録画で今年最初のハガレン鑑賞。
 OPとEDが変わってます。くるくる替えてCDを売ってしまえ!という魂胆でしょうか。(おとっつぁん、それはいわない約束でしょ?)

 OPがL'Arc〜en〜Cielの「READY STEADY GO」、EDがYeLLOW Generation「扉の向こうへ」。
 ラルクが悪いわけじゃないけど、「メリッサ」の方がよかったなあ。15才の主人公だったらあれくらいの軽やかさの方がいい感じがします。アニメの方はくるくる動いて満足なんだけれども。


2004/1/10

 増刊号に載っていた鋼の錬金術師イベントを見に、池袋のアニメイトへ。
 場所がわからなくてちょっとウロウロしたけど、なんだ、アムラックスの隣だったのか。

等身大アルフォンス  お目当て等身大の彼……ではなくて、荒川弘直筆原稿。
 1、2枚でも見れたら嬉しいと思ったのに、なんと1話分丸々(第17話「にわか景気の谷」)掲示してあって、すっごく儲けた感じ。非常にウツクシイ原稿でした。
 漫画家さんてタイプがいくつかあって、原稿の段階からきれいでないとイヤなタイプもあれば、「印刷が美しく出ればどーでもいいんじゃい」っていう人もいる。荒川先生の原稿は、修正跡なんかもあんまりなく、初めて漫画家の原稿を見てもそんなに違和感がないんじゃないだろうか。
 最近の作家としてはトーンワークは抑え目。前に見た某漫画家さんの原稿が、原稿用紙のほぼ100%にトーンが貼ってあったことを考えると、紙の白さが眩しいくらい。
 生原で初めて気がついたのが、集中線の美しさ。
 コミックスの印刷なんかだと線の先の鋭さがツブれちゃったりするんだけど、いやあ、きれいきれい。アシさんに実力があるがある人が揃っているのか、すごくシャープな線だ。特に、人物が入ってるコマ。人物を避けて線を引くと線が死んじゃうことが多いのに、線の全部に勢いがあってスゴイ。(って、シブい感心の仕方をしてしまった)
 会場は狭くて展示物って実はたいしたことないんだけど、もうこの生原稿が見れただけで満足だわ。
 ありがとう、アニメイト。(と、いいながら何も買わなかったけど)

 でも、荒川先生ってホントに「手」が上手い。
 この前、ためしに機械鎧を模写してみたら、手の関節の一つ一つに線があるのね。(手のひらだけで部品4つっすよ)
 ロイの指パッチンもきちんと力が入っていて、いっつも無駄に手を描いてしまう私はそれだけで尊敬しちゃうよ。


2004/1/9

 近所のコンビニに久々ぶりに行ってみたら……ありました、「鋼の錬金術師」増刊号。
 どこの書店に行ってもなかったのに、こんなところにあるとは!
 幸福の青い鳥って、ホントに近くにいるものなのね。……って、こんなことで「幸福の青い鳥」を持ち出す私もどうかと思うが。

 TVで「Dr.コトー診療所」のスペシャルの終わりの方だけチラっと見る。
 この番組を見て思うのは、私がダイビングに行っていた沖縄の離島。飲み屋がある分、志期那島の方がナンボか都会だと思うような離島だったのだが、診療所があった。
 同行の友人がそこにお世話になったことがある。
 もともと耳が弱かったようで、何本か潜ったら強烈に耳が痛くなったらしい。(潜水性中耳炎ってヤツですね) 縁側でだらだらしていたら、友人帰ってきた。
「どうだった?」
「あのね……先生が……」
 友人は少し思いつめた表情をしている。
「先生が……」
 先生に何か深刻な診断を言われたのか?
「先生が……すっごく男前だったのーっ!」
 ……ふっ。
 真剣に心配した私がバカだったよ。

 翌日、午前の潜りから帰ってきた私は、宿に帰る途中、診療所の前を通った。
 診療所の前には子供と遊ぶ白衣の青年が。
「ほら、あれが先生だよ」
 復活していた友人が指差し、私はその男前の先生の顔を拝んだ。
 ……確かに
 ええっと、そうだな。羽賀研二から世俗の垢を取って、白衣を着せたと思いねえ。
 キラキラと眩しいのは沖縄の光のせいだけじゃなかっただろう。

 だからTVを見ると
「現実のコトー先生の方がカッコいいなあ」
と、思ってしまう私なのだった。


2004/1/7

 会社に何通かクリスマスカードと、年賀状をいただいた。

 その中に、銀座のバーから来たものが。
 なんだか会社に来ると、社費で飲みにいってるみたいじゃーん(笑)。
 そういや以前行った時にマスターに「ぜひ」と言われてお名刺を差し上げたのだった。特にご贔屓にしてるわけでも(だって敷居も値段も高いんだもん)、便宜を図ったわけでもないのに律儀だなあ。
 お姉ちゃんがいるような店でなく、酒と葉巻を出す銀座らしいこじんまりしたバー。
 ああいうところに行って収まりがつくほど大人になったら再チャレンジします。はい。


2004/1/6

 そういえば、年末に日記に書いたサルを欲しいという人が一人も現れない。
 ……。
 …………今、ふと思ったが、年末からのこの首の痛み、もしかして、これは置物と携帯ストラップ(見ざる言わざる聞かざるの3猿チャーム付)のあわせて4猿x2セット8匹の力だろうか……。

 イエ、年末から張った伏線のオチじゃありません(笑)。


2004/1/5

 年が明けてから毎日なんだけど、やっぱり激痛で目が覚める。
 病院がやっと今日から営業するので、午前中休んで行ってみた。
 えー、私、この病院でレントゲンを取るのこの1年で3回目です(笑)。レントゲン技師のお兄さんともすっかり顔なじみ。(っていう患者、どうよ)
 首のレントゲン後、診察室に呼ばれて、結果を元に先生のお話だ。前・横・後ろの自分の頚椎の写真を鑑賞。私、上半身の自分の骨、ここ1年でほとんど見たんだなあ。骨って、出っ張りと引っ込みが組み合わさって精巧なオブジェのよう。
「頚椎は第7まであって、ここからここまで7つの骨で形成されているわけです」
と、私の骨をボールペンで指しながら先生の説明が始まる。
「普通、頚椎は前に緩やかにカーブしています。ところがあなたの場合、まっすぐなんですね」
 先生が指すそこには、私の気性のようにまっすぐで一本芯の通った頚椎の写真が!
「こういうのは異常……」
えっ!
「……………………………………ではないのですが、首に負担がかかりやすいんです」
 タメが長いよ、先生! ああ、びっくりした。
 でも、あんまり安心できる結果でもないのか。年を取ったら頚椎が曲がってくるというもんでもなさそうだし。

 またもや筋弛緩剤を処方される。
 前回もらった筋弛緩剤もまだ残ってるなー。ご家庭の常備薬に筋弛緩剤ってどんなもんだろ。


2004/1/4

 毎日、首が痛くて目覚めてる。
 くそう。去年から故障が多いなあ。(動物霊でも憑いてるんじゃないか、オレ?)
 さすがに明日から仕事なので、正月も4日目にして出かけた。
 く、車ってこんなに振動があったのね。くしゃみをしても激痛とは何事!?


 日本橋三越のロフテー快眠スタジオで、首と後頭部の落差を測ってもらって、大枚1万円を支払って枕を購入。素材はブラスチックビーズ。カバー別売り。よく考えると結構お高めかもしんない。
 いや、でも、そんなことにかまってられない。(とほほほほ)


2004/1/3

レ・ミゼラブル  年始のTVで我が家で最も人気のあったプログラムは、NHK教育で3夜連続放映の「レ・ミゼラブル」だった。
 ジャンバルジャンにジェラール・ドパルデュー、ジャベール警部にジョン・マルコビッチと、それだけで濃い顔ぶれである。コゼットはかわいいんだけど、恋人のマリウスがまたエマニュエル・サンデュくらい顔が濃い。
 フランス映画ならではの危うい感じがするのが、ジェラール・ドパルデューのジャンバルジャンとコゼットの関係。娘として愛してる以上に危険なものを感じてしまう。
 寝室にふらりと入るジャンバルジャンにあやしいものを感じてハラハラした……のは、私だけ?

『レ・ミゼラブル』Les Miserables(2000年、フランス)180分
監督:ジョゼ・ダヤン、製作:ジャン・ピエール・ゲラン、原作者:ビクトル・ユーゴー、音楽:ジャン・ピエール・プティ
CAST:ジェラール・ドパルデュー 、ジョン・マルコビッチ 、ヴィルジニー・ルドワイヤン 、ジャンヌ・モロー 、シャルロット・ゲンズブール


2004/1/2

 BSでグランプリ・ファイナル(於コロラドスプリングス、アメリカ)などをのんびり見る。
 前期から今のシーズンにかけて、ずいぶん現役を引退した選手が多い。ちょっとずつは世代交代していくものだが、私の印象だとガラっと入れ替わった感じ。まあ、今期上位に上がってきた選手はいきなり現れたわけではないんだろうけどさ。
 これは放映枠のせいで、BSでも放映してくれるのは上位8位くらいまで。地上波だったりすると、日本人の有力選手がいないアイスダンスなんか1位の選手しか放映しなかったりする。
 競技会に行くと、延々25人くらいのプログラムを見たり合間に製氷があったりして疲れるけど、現場に行く良さっていいうのはやっぱりあるんだろうな。ああ、もうちょっと近くでやってくれてチケットが安ければ!

 今期、個人的に注目はシングルスのエマニュエル・サンデュ。最初見た時はあまりの濃い顔に驚いた。
 アンタ、ラテンの国の選手じゃないんかい。
 プログラムも、
「この国の選手にしては濃い目?」
と、いう印象を受ける彼はカナダの選手。(お父さんはパレスチナ人だそうだ)
 ぜひともがんばって、あのカナダ大応援団(どこの会場に行っても見る赤い服を着た不思議な団体。本国からツアーで来てるのか、在日カナディアン達なのかは謎である)を喜ばせてあげて欲しいなあ。


2004/1/1

 あけましておめでとうございます。
 昨年は、一昨年にも増してゆるい更新でございましたが、何回も来訪いただいた方もそうでない方もありがとうございました。
 本年もボチボチご贔屓くださいませ。

 ゆったり起床。
 ディスカバリーチャンネルで「2003年ベストセレクション」をやっていたので、見逃していた「ネフェルティティの微笑み」を見る。ネフェルティティだけでなくハトシェプストなんかも取り上げて、ちょっとエジプトの女王特集といった感じ。
 夜になってTVをつけたら、テレビ東京で「新春エジプトミステリー悲劇の少年王“ツタンカーメン”黄金のマスクに隠された3400年目の真実!」をやっていた。
 エジプト責めな元旦だった。
 役に立たないとわかっても見ちゃうのはファラオの呪いか?



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