2004/2/15
ケーブルで『I am Sam/アイ・アム・サム』を見る。
公開の時に妹に割引券をもらったので、ストーリーは一応知っていた。
知的障害があり自閉症気味でもあるサム(ショーン・ペン)は、自分の娘ルーシー・ダイアモンド(ダコタ・ファニング)を生まれたばかりの時から一人で懸命に育ててきた。しかし、成長するルーシーはサムの知的能力を追い抜いてしまうことに悩み、勉強を拒否する。小さないさかいが原因でサムは養育能力がないと判断され、ルーシーは施設に入れられてしまう。
愛するルーシーと一緒に暮らすために、サムはエリート弁護士のリタ(ミシェル・ファイファー)に依頼。裁判で戦うのだが……。
と、いった物語。
「子供とハンディキャップを扱った泣かせる映画」と、思って見に行かなかったのだが、考えが浅かった。
もちろん、ルーシーとサムの親子愛は美しく、だーだー泣いてしまうのだが、私としては弁護士のリタが隠れ主役のような気がする。
実は私、往年の名作『クレイマー・クレイマー』を昨年になって見た。
メリル・ストリープの妻が「自分の人生を見つけたい」と言って、子供を夫(ダスティ・ホフマン)のところに残して突然出て行ってしまうのだ。
仕事ひとすじだった夫は当然家事もできず、大変な苦労をしながら子育てに慣れて行く。そして、やっと子供とうまく行くようになった時、妻は親権を取るために裁判を起こして……といったストーリーで、原題は"Kramer VS Kramer"。(Mr.クレイマー対Ms.クレイマーの裁判という意味)
父親と子供、裁判とくれば、これはもう確信犯でしょう。脚本も書いている監督のジェシー・ネルソンは女性だし。
『クレイマー・クレイマー』が公開されたのは1979年。アメリカの専業主婦が滅びの道を歩み始めた年だった。
女性の自立結構、社会進出だって素晴らしい。国から見たって、税金倍増だ。素晴らしい。
でも、その時から女性は家ではいい妻であり母であり、会社では優秀な社員であり、社交の時は素晴らしいホステスでなければならないという非常な要求をされるようになった。女性自身も、素晴らしい女性を思い描いて一人何役も頑張る。毎日ずーっと頑張るのはそりゃあ疲れる。でも、仕方ない。あの日、メリル・ストリープは人生を探しに出て行っちゃったんだもの。
サムの弁護をするリタも仕事で成功していて、豪邸に済み、夫と子供を持っている。
そんなリタがサムの前でだらだら泣くシーンがある。
それまでリタはやたら怒っていた。
自分の子供はブアイソだし、サムの友達は証人としてはちっとも役立たずだし、サムは質疑応答を練習しても覚えないし。
落ち込んだサムは
「君みたいにできないよ、完璧リタ」
と、いう。
サムのひとことに、彼女の中でぶちっと切れた音がした気がする。
「アタシなんて夫に浮気されて子供に嫌われて仕事仲間からもハブんちょなんだから! ガタガタ言ってんじゃねえぞ、このボケがあっ!」
……と、こんな下品なものいいはしませんが(笑)。
サムはルーシーに熱烈愛され、友達にも愛されている。同じ子供のいる親としてリタが自分と比べないわけがない。自分がすべてに失敗したダメ人間だと思えて、リタは泣く。
人は完璧なものを素晴らしいと思う一方で、完璧でないものを愛する。
すべてに完璧でなくても大丈夫と悟ったリタは、後半、そりゃあ楽そうだ。
この映画がちょうど21世紀に入った年に作られたことを考えると面白い。自分の人生を探しに行ったクレイマーは、20年が過ぎてようやっと家に帰って来たのだろうか。
『I am Sam/アイ・アム・サム』 I am Sam(2001年、アメリカ)188分
監督・脚本:ジェシー・ネルソン、音楽:ジョン・パウエル
CAST:ショーン・ペン 、ミシェル・ファイファー 、ダコタ・ファニング 、ダイアン・ウィースト 、ローラ・ダーン