店主の読書日記 SEP2003 タイトルリスト 作家別リスト
2002.12月1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月2004.1月

2003/9/30

 流行の場所にめったに行かずに暮らしている私が、とうとう六本木ヒルズにデビューした。
 グランドハイアットで仕事関係のパーティがあったのだ。(仕事なあたりがトホホ)
 グランドハイアットは大変大人っぽく、照明が薄暗く、無駄な空間が多い。あっ、書き方がひどいわ(笑)。いい言葉でいうとヨーロッパ・テイストの薄闇の文化なのだ。お花は花器も花のチョイスもモダン。地味だが、マスコミの人なんかは好みそうな感じ。
 でも、私はオフィシャルな空間が薄暗いのって、実は好きじゃない。だって、空き時間に本とか書類とか読みたいじゃないですか!(笑)

 毎度のことながら抽選会で何もあたらず会場を後にし、私の六本木ヒルズ・デビューは終わった。
 が。
 よく考えてみたら、グランドハイアットのパーティ会場にしか行ってないよ!(笑)
 というわけで、まだまだ私にとって六本木ヒルズは未知の場所なのであった。


2003/9/29

 危機管理室は焦りと不安でチリチリと焦げそうだった。
 乗客300名を乗せたまま乗っ取られた航空機。犯人グループとの交渉は一向に進まず、乗客の体力と気力を奪いながら、ただ時間だけが虚しく過ぎて行く。
 チーフの上村は重いみぞおちをかかえながら、部下と事件の様子を見守っていた。既に有効と思える手は出し尽くした。
「こんなとき、あいつがいたら……」
 誰かが低くつぶやいた、と、思ったら自分の声だった。耳ざとく聞きつけた後輩が上村の意を悟る。
「あいつってあの人ですね? 上村さんと同期の……」
 10年ほど前に起きたハイジャック事件を一人の被害者も出さずに収めた伝説の交渉人。彼は上村の同期だったが、事件の直後、なぜか会社を辞めていた。
 北海道でラーメン屋でもやるよ。
 軽やかに笑った友の姿が上村のまぶたに浮かぶ。そのまま、他の同期の誰にも連絡を取らず住まいも変えてしまった。
「探しましょうよ、上村さん」
「しかし、やつが今、どこにいるかは誰も知らないんだ」
 事件はいつ、どんなことが起こるかわからない。
「今やれることは、もうそれくらいでしょう。ダメでもやってみましょうよ!」
 自分より10も若い後輩がそう言った。あの時、あの10年前の事件の時、自分たちも若くて必死だった。
「よおし、探してみようか。どこかに連絡先の控えくらい残ってるさ」
 上村とチームの男たちは、倉庫から台車で書類とバインダーの山を運んできた。電子化されたリストに連絡先が登録されていないのは確認済みである。根気よく、アナログの資料を探せばどこかにうもれているかもしれない。
 テレビが伝える現場の中継を目の端で追いながら、誰もが端っこが黄色くなった紙の山や古いファイルと格闘していた。
「あった!」
 何分、何十分経ったろう。誰かがそう言った。
 コピーのトナーが移ったファイルから、1枚の紙が取り出された。紙には伝説の男の名前とひとつながりの数字が書いてあった。
 紙を受け取って、しばらく見つめた後、上村は言った。
「これは……この番号は社員番号だ……」

 そんなドラマだか再現フィルムを流すテレビを、蕎麦屋で見ていた私は思った。
 ずいぶん、注文を取りに来ないし、どうせならハンバーグ定食でも食べないな。
 蕎麦屋を出て、お店を探していたら目が覚めた。

 うがーっ。
 伝説の交渉人はどうしたんだーーっ!
 何で夢の中で食欲を優先させるよ>自分!
 もしかして、そのまま蕎麦屋にいれば、奥で蕎麦を打っていたおじちゃん(元伝説の交渉人)が鉢巻を取りながら出てきたかもしれないのにさあ。


2003/9/28

 『不安な童話』(恩田陸/新潮文庫)読了。
 恩田陸初期のミステリ。

 私は知っている、このハサミで刺し殺されるのだ―。強烈な既視感に襲われ、女流画家・高槻倫子の遺作展で意識を失った古橋万由子。彼女はその息子から「25年前に殺された母の生まれ変わり」と告げられる。時に、溢れるように広がる他人の記憶。そして発見される倫子の遺書、そこに隠されたメッセージとは…。犯人は誰なのか、その謎が明らかになる時、禁断の事実が浮かび上がる。

愛と死の間で  昔見た、『愛と死の間で』という映画を思い出した。
 前世の記憶とハサミの恐怖がモチーフで、よくできたサスペンスだったと思う。それなのにあまり知られていないのは、もしかして監督・主演のケネス・ブラナーが地味なせいか。(最近、ハリー・ポッターに出ててびっくりしました) ケネス・ブラナーは、シェイクスピア劇団をやっていたキャリアがあって、どうやらローレンス・オリビエを目指していたらしいのだが……えーっと、なんか違う(笑)。やっぱり、自分のキャラを大切にしたいとな、ケネス。(余計なお世話だ)
 映画の雰囲気は、ヒッチコックの『めまい』を思い出す。(でも、ヒッチコックに比べると地味←しつこい)
 この映画は、テレビで何回も見た。鮮やかな謎解きをしつつ、不思議な余韻を残したすごーく巧い映画。
 『めまい』の原作は、フランス人のボワロー&ナルスジャックの『死者の中から』という小説で、なるほど。と、思う。ブロンドで上品で賢そうな女優が好きだったヒッチコックにぴったりなのは、英米文学ではなくて、ヨーロッパ文学なんだろう。
 今はミステリのジャンル自体が広くなったので、これもそれもミステリだが、『死者の中から』みたいなミステリを江戸川乱歩がうまい言葉で定義している。
 「奇妙な味」。
 『愛と死の間で』と『めまい』を見た人なら、なんとなくわかってもらえると思う。
 小説読みなら、ディクスン・カーの『火刑法廷』とか、この『不安な童話』だ。

 主人公・万由子はなくしものを見つけたり、横領を見つけてしまったり、少し不思議な力を持ってい る。それは夭折の女流画家・高槻倫子も持っていた能力なのだという。果たして、万由子は本当に25年 前に殺された倫子の生まれ変わりなのだろうか。そして倫子を殺した犯人は……という風に『不安な童話』の物語は進んでいく。前世というスーパーナチュラルなモチーフが恩田陸的で、実はそれが最大のトリックになってい るのかもしれない。(説明しにくいが、ネタバレしないならこんなもんだろう)。

 読み終わった時には、なんとういうか不思議な感覚だった。小学生の女の子がバイオリンを持って出てきて、きらきら星でも弾くのかとおもったら目の前でいきなり超技巧的な曲を演奏されてしまっ たような……。別に稚拙なものが出てくると侮っていたわけじゃ全然ないのだけれど。
 これもうまい説明にはなっていないな。
 そういや、万由子の勤める大学の教授とか、万由子の幼馴染がかなりおもしろいキャラクターとして登場する。そのくせ、幼馴染なんてほとんど活躍せずに終わってしまってもったいない感じ。もしかしてシリーズの予定だったのかなあ。

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2003/9/27

 歩いて10分くらいのところでフリーマーケットをやっていたので覗いてみた。
 洋服や家庭用品を広げているスペースが多い中で、木と木屑を売っている人を発見。売っていたのはヒバとヒノキ。
「匂い嗅いでみて」
というので、ヒノキからためすと、高級旅館のお風呂のにおいがした(笑)。ヒバは鋭いスパイシーな匂いだった。防虫効果がありそうなので、こっちの木屑を200円分購入。
 オマケに他の木の木屑をもらう。ほとんど陽気といっていいような明るい黄色の細かいかけら。ヒバともヒノキとも色が全然違う。
 売っているおじさん(お兄さん?(笑))が、マジックで袋に木の名前を書いてくれた。
 樹齢100年くらい経ってる木だよ、お山にもこんな木はそうそう残ってないよ、と書いてくれた名前は「カヤ」。
「ああ、あれ! 碁盤とかに使う!」
(↑『ヒカルの碁』で仕入れた知識)
 確か、すごく高級な素材で、碁盤のいいやつは100万円とかするのだった。
 オマケの木屑は特に何かに使えるものではないそうだけど、ちょっと甘い匂いがして、なんとなく嬉しい。


2003/9/26

 近所の複合ビルの吹き抜けスペースでは、月に何回か入場無料のコンサートをやる。
 昨日はバイオリンとピアノコンサートで、バイオリニストが先日デビューした若い男性だったせいか若い女性の観客がいっぱいだった。
 通りがかりに耳に入ってなかなかよかったので、ちょっと離れたところに座って……読書してみた。(もちろん、ステージからは見えない場所ですよ) 
 30分くらいだったけれど、生演奏のバイオリンとピアノがBGMの読書タイムはとても豪華。都会暮らしもたまにはいいことがあるね。


2003/9/25

 表紙に犬がいっぱい書いてあったので読んでみた 『ジェインに舞いおりた奇跡』(ファーン・マイケルズ、中村凪子訳/ヴィレッジブックス)。なんとなく心温まりそうな予感を裏切って、最初はレイプのシーンから始まる。

 さえない女子大生のジェインは、ミス・キャンパスのコニーと図書館の帰りに何人かの学生に襲われた。太めのジェインは「ラード桶とやりたいやつはいるか」と散々嘲笑されただけだったが、コニーは輪姦されてしまう。
 その数日後にコニーは自殺。ジェインは、屈辱的なエピソードを話せず、コニーの自殺の真相を内緒にしたままで心の傷をかかえながら生きてきた。

と、いう、なかなか暗い始まりだった。
 原題は"Plain Jane"。なと、日本だとプレーンは生成りとかシンプルとか割といい意味だが、英語のplainは「つまらない」とか「不器量」の意味もあるそうだ。(そういえば、前に読んだ(2002/9/16)『のっぽのサラ』は原題が"Sarah, plain and tall"だった) あとがきを読むと、「Plain Janeなクッキーだけど食べてみて」みたいに熟語で使うという。この言葉は、ジェインが美人の母親にさんざん言われたセリフでもある。
 なんだか、こう書いてると暗そうなドラマなんだけど、実際は軽くてコージィな感じ。親代わりの名づけ親(夫婦のミステリ作家)もいい味を出している。ただ、どうもこの作家は元々ロマンス作家だったらしく、ロマンス・パートがクドい(笑)。もうちょっとサスペンス・パートが強力だったら、さっそくお気に入り作家の仲間入りなんだけどなあ。
 ちょっと息抜きしたいときには、おすすめ。

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2003/9/24

OINARI――浅草ギンコ物語  たまたま切符が手に入った『OINARI――浅草ギンコ物語』を見に行く。新感線の中島かずき脚本だったので覚悟して行ったら、非常にアッサリ。夏の『阿修羅城の瞳』は上演時間が長いことも手伝って、見るだけでものすごく体力を消耗する芝居だったのに。3日間満漢全席を食べたのと、かけそばをツルツルっと一杯いただいたくらいの違い。(いや、満漢全席を食べたことはないけどさ)
 体がラク。新感線の芝居は客もテンションを上げなければいけないけど、そんなこともないから気分もラク。
 内容は、第2次世界大戦の前後。浅草の左前の芝居小屋・青薔薇座に齢三千年の妖孤が現れて……という、とっても中島かずきチックな物語世界だったのだけど、演出と役者が違うと、こうも違うものか。
 たぶん、新感線の芝居は色々too muchなんだろうなあ。で、たぶん、そのtoo muchなところが好きだったりするんだろうな。

 ところで、浅草といえばNHKの朝の連ドラ。今週で最終週らしく、ちょっと悲しい。老舗の鰻屋に生まれた朝倉こころを主人公にしたドラマで、なんといっても、女将(今は代替わりしたが)の岸恵子が素敵。娘役の伊藤蘭よりかわいいのはなぜだろう?(笑) 
 こんな女将がいたら、浅草に通っちゃうなあ。
 ドラマ『Dr.コトー診療所』の大塚寧々の飲み屋とか、映画『花』の樋口可南子の一杯飯屋とかに異様に心惹かれるのだけれど、私の中のオヤジ魂がちょっと疲れているのか?

 『カードの王様』(立野真琴/白泉社花とゆめコミックス)8巻を買って帰る。
 これに併録されていたシリーズ外の短編「Cherry candy cinderella」が、よかった。3人の血のつながらないカッコいい義理のパパと暮らす女の子が主人公という定番の少女マンガだけど、なんだかセリフ回しが心地いいのね。

 あたしホントに今まで淋しかった事一度もなかった
 キャンディみたいに甘やかされて、シンデレラみたいにお城に住んで

 立野先生、デビューして20年だそうで。応援してます。

脚本:中島かずき、演出:加納幸和、振付:前田清実
出演:宮本信子(稲荷坂ギンコ)、村田雄浩(春山鉄之介)、中条きよし(御子柴大蔵)、橋爪淳(杉谷誉)、柳家花緑(唐木田忠一)、大鳥れい(楼蘭)、加納幸和(春山鉄太郎)、粟根まこと(村崎竜作)、植木潤(妄蘭)他

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2003/9/23

マディソン郡の橋  『めぐり逢い』は泣くけど、これは泣かなかったなあ、『マディソン郡の橋』(1995年、アメリカ)。
 元は大ベストセラーの小説だが、実は私、この本を読んだことがない。どうも、天邪鬼だから、みんなが読んでる時に読むのがイヤなんですね。(ミステリは別) こういう誰もが知ってる本は、ブームが終わっていい具合に発酵された頃に読むのが粋……なーんて、いってみたりしたりして。(←広川太一郎節で読んでくだされ)

 物語は、亡くなった母親・フランチェスカの遺品を整理する兄妹の姿から始まる。母親はキリスト教徒なのに死後は火葬にし、その灰を橋から撒くように遺言している。娘が鍵のかかったチェストを開けてみつけたのは3冊のノート。そこには、フランチェスカのたった4日間の、そして永遠の愛について記されていた。

 見終わって思ったのは、「専業主婦というもの」だった。
 たまにどうにかすると、私みたいな独身で一人暮らしの働く女に、非常にアタリの厳しい専業主婦の人がいる。(ちなみに、私の友達には専業主婦もたくさんいるし、みんな優しいいい人だ)
 不思議なのが、どうみても幸せな人に、それほど幸せじゃない(いい年で結婚もしてくて働かないと食っていけない)私への憎しみが見えること。自慢じゃないが、私の仕事なんて、この間も近くで女性課長が過労で倒れて救急隊が来たし、その前に会社で倒れた役員はとうとう復帰しないまま退職してしまったようなハードなところだよ。去年なんて、1日24時間の16〜18時間は会社で過ごしてたよ。(←ぐち)
 ついでに自慢じゃないが、私はオタクだ。家にいるのが大好きで、家にこもっていてもストレスを感じないという時点で、まじりけなくオタクだ。
 そんな私からすれば、こっちが羨むことはあっても専業主婦に妬まれるとこなんてないはず。
 が、最近、なんとなく思う。
 私を憎む彼女ら(と、ひとくくりにするのは危険だが)は、幸せだけど「単調」なのだ。だから、(どっちかというと)不幸だけど単調ではない(ようにみえる)私を憎むのだ。憎まれているのは、本当は私ではなく「単調」だろう。単調は幸せなことだが(不幸は劇的だ)、その中にい続けていると、いつしかそれを憎むようになる。

 この映画のフランチェスカを、ただの不倫主婦だというのは簡単だ。
 彼女は荷物をまとめ、新しい愛のために家を出て行こうとする。「単調な日常」を後にして。しかし、彼女はキンケイドと行けば、単調でない生活の中でお互いを憎むことになるだろうことを知っていた。
 だから、彼女は夫と子供の元に留まることを決める。胸にあるのは、いつまでもいつまでも美しい真実の愛の思い出……。
 こう書いてみるといかにも打算的な女に見えるが、フランチェスカのルーツも考えなくてはフェアでないだろう。第2次世界大戦の戦争花嫁で故郷はイタリアの田舎町、まわりに思い出を共有できる人はいない。近所の人はみないい人だが、よそ者や「普通をはずれた人間」に対してはとても冷たい……。
 フランチェスカが過ごしてきたのは、そういう毎日なのだ。
 だから、極論だが、キンケイドが他の町で他の女と同じような思い出を作っても、フランチェスカにとっては変わらないのかもしれない。(もちろん、キンケイドも彼女を思いつづけたからこそ、世界中がうっとりするわけだが) 心の中に、不可侵の最高級の愛の思い出があることが重要なのだ。
 そして、胸の奥の思い出を武器に毎日を戦っていく女達は、誰も責められないのだと思う。

『マディソン郡の橋』 1995年アメリカ (135分)
監督:クリント・イーストウッド 原作:ロバート・J・ウォラー 脚本:リチャード・ラグラベニーズ 音楽: レニー・ニーハウス
CAST:クリント・イーストウッド、メリル・ストリープ、アニー・コーリー、ビクター・スレザック、ジム・ヘイニー


2003/9/22

  『女王陛下の薔薇4――咲き匂う花たち』(三浦真奈美/中央公論新社C★ファンタジアノベルズ)読了。
 今回で完結。大河ロマンにもできそうなんだけど、剣も魔法もないファンタジーだとこれくらいが限界なのかな。(物語的な限界じゃなくて、出版事情という限界)
 植民地パガンで起きた反乱に、直接かかわることになったエスティが大活躍。もちろん、当事者ということで藩主の娘・ブランカ(パガンは女系が家を継いでいくので、ブランカの配偶者が次期藩主となる)も大活躍。ブランカの活躍はトホホなことが多いが、どちらかといえばシリアスな物語の中のいい息抜きなのではないだろうか。

 全巻読んで思うが、この物語がすごいところは、ちょっとも美形キャラが出ないところだ(笑)。
 唯一、エスティの元婚約者が美形なのだが、こいつがちょっとないくらいのヘタレである。プライドがあって実力がなく、失敗を人のせいにするのが大好きだ。これじゃあ、いくら顔がよくてもヒーローにはなれない。
 主要男性キャラとしては、エイダン・グレイがいる。いるが……、どうみても40がらみなんだよね……。西ホルトジョイ(モデルは中近東であろう。砂漠があるっちゅーし)を私財を投じて開発したことから"西ホルトジョイの巨人"の異名を持ち、政財界に影響力を持つ男。策士のセシリア女王をして「食えない男」といわしめる。……って、これ、やっぱり20代の男じゃないよ、絶対。
 ライトノベルで主人公とからむ男性キャラが、40過ぎのおっさんというのは、どうですか、お客さん! 私は全然かまわないのけれどさ(笑)。

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2003/9/21

めぐり逢い  昼ご飯を食べる時にケーブルTVをつけたら、やっていたのが『めぐり逢い』(1994年、アメリカ)。
 ウォーレン・ビーティとアネット・ベニング夫妻によるリメイク版のやつだ。
 私は元になった1957年の『めぐり逢い(原題"An Affair of Remember")』が大好きで、それも実は1939年の『邂逅(原題"An Affair")』のリメイクだそうだ。

 大西洋横断の豪華客船に乗っている男と女。
 男は国際的プレイボーイ、ニッキー。NYにいる大富豪の婚約者に会うために乗っている。女は忙しい恋人にすすめられての休暇で乗船したテリー。
 二人はお互いに恋人がある身でありながら、恋に落ちる。
 NY港にしずしずと船が入っていく。ニッキーが言う。
「僕は今まで自分で金をかせいだことのない男だ。でも、君がよければ一緒になりたい」
 半年後に、エンパイヤ・ステートビルの展望台での再会を約束して二人は別れる。お互いに自分の生活を整理するために。
 そして半年後、エンパイヤ・ステートビルに急ぐテリーがいる。久しぶりに会える最愛の人への思いに胸ははちきれそう。タクシーを降りて、道をわたる。何かが何かにぶつかる重たい音。人々の叫び声。
 展望台で一人立ち尽くすニッキー。夜がふけてもテリーは来ない。苦い表情でエレベーターを降りる。
 半年後、コンサート会場の客席で、ニッキーは懐かしいテリーに再会する。横に座るのは元恋人。ニッキーは思う。あの日、エンパイヤ・ステートビルに来なかったのは、恋人とよりを戻したからだと。
 ニッキーの後姿を見送った男がいう。僕達も帰ろう、と。彼が、テリーの席に運んできたのは車椅子だった……。

 すみません、何も見ずに書いてます。
 だから細部は違うかも。1957年バージョンのストーリーはこんな感じ。書いてるだけで、ちょっと泣きそう(笑)。
めぐり逢えたら  『めぐり逢い』という映画はずいぶん愛されているらしく、リメイクではなくモチーフに使った映画もあった。メグ・ライアン主演の『めぐり逢えたら(原題"Sleepless In Seattle")』が、それだ。  この映画の中で、メグ・ライアンが女友達と『めぐり逢い』のビデオを見てだーだー泣いているシーンがある。トム・ハンクス扮するサムが『めぐり逢い』のストーリーを説明されるシーンでは、説明する女性がストーリーを話しながら泣く。
 この人の気持ち、すっごいわかるよ!(笑)

 1957年版のヒロインはデボラ・カーだった。1994年版はアネット・ベニング。りんとして潔いテリーという女性にぴったりの知的な美しさがある。物語の中でキーとなるニッキーの祖母役は、1994年版では、キャサリン・ヘップバーンが演じている。1957年版の祖母は南仏のヴィル・ブランシェという風光明媚な町の花の庭の館に住んでいたけれど、ヘップバーンの祖母は野性味のあるフィジーのコロニアル調のお屋敷だ。花だらけの庭も捨てがたいが、この映画の設定はヘップバーンのきりりとしたイメージに合っていたと思う。

 しかし、やっぱり私は1957年版が好きだ。
 ひとつには、太平洋横断客船で出会う男と女という設定が、今の時代だと無理があるのだろう。ビーティも無理だと思ったらしく現代風にストーリーを変えているが、イマイチだ。(1957年版は、前半はともかく後半は本当に無駄がない脚本だぞ) あとは、主役の一人、ニッキー役のビーティ自身が、イマイチ。1957年版のケーリー・グラントを知らなければいいのだけど。どうも、グラントを見てしまうと、点が辛くなってしまうなあ。グラントは『めぐり逢い』当時、53歳。若い! 壮年のおあにいさんにしか見えない。しかも、職業、プレイボーイという設定がするりと納得できてしまう粋さ。
 このメロドラマの名作を90年代に蘇らせるなら、『めぐり逢えたら』の方が賢いやり方なのかもしれない。

「めぐり逢い」 1994年アメリカ(108分)
監督:グレン・ゴードン・キャロン、脚本:ウォーレン・ビーティ、音楽:エンニオ・モリコーネ
CAST:ウォーレン・ビーティ、アネット・ベニング、キャサリン・ヘプバーン、ピーアーズ・ブロスナン、ケイト・キャプショー


2003/9/20

 えーと、先週のどこかで読み終わってました。『創竜伝13――噴火列島 』(田中芳樹/講談社ノベルス)。
 12巻がチャイナ・ファンタジー編で、その前の11巻が外伝だったから、まともに物語が進むのは久しぶり。えーと(←調べている)、7年ぶりか。大河ロマンだなあ(笑)。
 今回は、イラク攻撃後の出版ということで、そこいらの批判がたっぷり。田中芳樹という作家は政治批判を作品の中で言う作家だ。しかし、創竜伝は本来、小気味良い物語だろう。読者は、竜崎ブラザーズが権力や暴力に縛られないで縦横無尽に活躍するところに喝采するのだ。
 政治批判がスパイスだとしたら、今回はスパイスが効きすぎ。
 「創竜伝はやっぱり小気味いいや」と、見直したいので、次の巻は早く出してくだされ。(って、こんなところは絶対読まないでしょうけどさあ(笑))

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2003/9/19

 朝、メールチェックをしたら、「上京します」という旅人さんのメールが!
 うわあ、よかったよう。最近、自慢じゃないが、メールチェックなんて週に1回すればいい方なのだ。しかし、前日にメールを出す旅人さんも旅人さんでしてよ!(笑)
 なんとか連絡も取れて、夕ご飯とお茶をご一緒する。

 しかし、東京っていいとこだね(笑)。
 ふくやまけいこの『東京物語』の中で、蕎麦屋のフミちゃんがいうのだ。「私、東京に生まれて得しちゃったな」と。
 昭和初期が舞台だから、今ほど旅行は手軽でない。新婚旅行で熱海に行くのがせいぜい、と、フミちゃんはいう。でも、自分はずーっと東京にいても、色んな人が来て会える。
 私もこのごろそう思う。
 東京にいなければ、これだけたくんさんの人と会えてはいないに違いない。


2003/9/18

  『女王陛下の薔薇3――刺の痛み』(三浦真奈美/中央公論新社C★ファンタジアノベルズ)読了。
 この巻はリディアというキャラが大活躍だった。大きくストーリーにからむわけではないが、さすが、作者が一番自分に似ているというだけあるわ。
 このリディア、元は主人公のエスティと、不遇時代のセシリア(もちろん女王即位前)と同じ学校にいたお嬢様ながら、実家が没落。一家を支えるため家庭教師となったという苦労の人。普通より高い棒給のため、人がいやがる植民地パガンへやってきた。エスティと船で再会したときに「憐れむような目で見られた」ことが気に入らず、エスティの婚約者を寝取るという、ライトノベルにしてはかなり太いキャラだ。  当然、読者の評判はよくない。私もあまり好きでなかった……のだが、3巻で見直した。
 リディアって、ライトノベルにしてはものすごく人間的なキャラだったのだ。ライトノベルで嫌われるねたみやそねみを普通に自分の中に飼って、その時代の「女の幸せ」という常識に縛られている。しかも、リディアの恋愛感情というのが、これまた複雑な女らしさなのだ。
 ちょっとライトノベルの範疇を超えるかな〜、と、思うけど、面白い。
 しかし、エスティは性格が美しすぎて、イマイチ食い足りないと思うのは私だけだろうか。まわりに曲者ばかり揃ってるから、主人公くらい毒がないタイプの方がいいのかもしれないけれど。

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2003/9/17

 15日までes!booksで「2003新潮文庫夏の100冊」のキャンペーンをやっていた。新潮文庫にコピーをつける、というヤツだ。対象は、新潮文庫であればOK。「2003新潮文庫夏の100冊」に入っていない本でもかまわない。
 商品がyonda?エプロンだったので、エプロン欲しさに私も参加してみた。どうせなら、100冊分つけてやろうやんけ!と、いう志のもとに。
 これが難しい。
 だって、あんなにザクザク絶版になってるとは思わなかったんだよーーっ!
 海外翻訳だけで100冊イケるかと思っていたのに、クランツの『ダズル』も『また会う日まで』も、クラークの『愛しいひとの眠る間に』も絶版。『相続人ローラ』、『ホテル』、『嵐の中で輝いて』絶版。クィネル全滅、ジョナサン・ケラーマン全滅、エリザベス・ジョージ全滅。ああ……。
 どっちかというと、新潮文庫の絶版100冊(そういう企画もありましたが)の方が簡単そうだぜ。(ふっ)
 ヨイショでなくて、新潮文庫の海外作品はいい。作品自体もいいものが多いし、翻訳もいい。ただ、優れた海外作品がすぐ絶版になってしまうのはキライだ。

 『多重人格殺人者』(ジェイムズ・パタースン、小林宏明訳/新潮文庫)なんてモーガン・フリーマン主演で映画化されたのに、公開の時には既に絶版になっていたという……。もったいない。
 邦訳タイトルが悪かったのだろうか。現代は"Along Came a Spider"。タイトルだけ見ると、はやりのサイコキラーものにも取れてしまう。が、それだけで片付けてしまうのはあまりにもったいない。

 物語は、大西洋無着陸横断飛行で知られるリンドバーグの息子の誘拐殺人事件から始まる。
 「世紀の犯罪」といわれた誘拐事件に入れ込む学校教師、そして起こる名士の子息達の誘拐事件……。ワシントン市警のアレックス・クロス刑事は、黒人の貧しい家庭を狙った連続殺人犯を追っていた。そこへ起きた事件。FBI、市警、シークレットサービスの合同チームが捜査を開始した。誘拐されたのは映画女優の娘マギーと、財務長官の息子マイクル。しばらくして、マイクルの遺体が発見される。
 マギーを誘拐されてしまい、挽回のためにクロスと捜査を共にするようになるのが、シークレットサービスの女性課長・ジェジー。マギーは両親の元へ戻らず、事件は迷宮入りの様相を見せる。

 終始重苦しい雰囲気だが、ドラマは常に緊迫感があり、サスペンスフルだ。その中で、マギーとマイクルの会話なんかは、すごく印象深くで面白悲しい(早く大人になってしまう子供は、いつ見ても悲しい)し、クロスとジェジーの大人っぽい恋愛もいい。大人のための上質ミステリとは、こういうことをいうのだろう。
 個人的は、地道にずーっと売れていく質の高い作品だと思うのだが。
 まだ古本屋で充分手に入ると思うので、オススメ。

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2003/9/16

 仕事の話で恐縮だが、構想立案から2年、総費用XX億円の新自社システム構築のプロジェクトがカット・オーバーした。前に日記に書いたので、覚えていらっしゃる方もいるかもしれない。仮称「プロジェクトX」として親しまれていたヤツだ。
 実際に稼動するにあたり、社内で愛称が募集された。毎日頻繁に使う言葉(になるだろう、絶対)なだけに、みんな必死である。万が一、「新人歌手による新春シャンソン・ショー」なんていう愛称になってしまったら! (なりません)
 おっさん達の名付け好きも手伝って、総計80もの名前が寄せられた。
 私も商品ねらいで応募しようと思いながら忘れていたら、最終候補のお知らせメールがやってきた。

 メール読んで愕然とした。
 例えば、「VIS」。更なる飛躍と勝利の気持ちをこめて、"Victory with Improved System"の頭文字を取ったもの。そして、「A○ES」。"Advanced 社名 Expert System"の頭文字を取ったもので、ラテン語「賽は投げられた」の略も兼ねるそうだ。
 う、うわあああ。なんだかスゴイわ。
 よかったぁ、「X-box」なんていうおちゃらけたやつを出さなくて。

 ちなみに最終的に決まった愛称は「ジェシー」。
 低レベルな上にトシヨリな私が
「高見山?」
と、思ってしまったのはいうまでもない。


2003/9/15

 えーと、3週間くらいだらだら読んでいた『窓辺には夜の歌』(田中芳樹/講談社)を読み終わる。
 『
夏の魔術』シリーズの2冊目。

 学園祭のコンサート会場に轟く雷鳴、暗闇の中でパニックに陥る学生たち。それは、能戸耕平と立花来夢を「裏面世界」に誘う序曲に過ぎなかった。「怪奇幻想文学館」の館長と共に学長室を訪ねた耕平たちは、学内に黒魔術にふける学生たちが存在する噂を聞く。薄闇の世界に、二人はふたたび呼び寄せられるのか!?学園祭にしのびよる「拝蛇教」の魔手!長編ゴシック・ホラー。

 と、出版社のあらすじを引用するとサスペンス・ホラーでみたいすが、怖くありません。怖がりさんでも安心(笑)。
 しかし、毎回、出版社のアオリが違うぞ。『夏の魔術』は「長編ファンタジック・ホラー」、『窓辺には夜の歌』は「長編ゴシック・ホラー」。
 共通するのは「ホラー」だが、ホラー・ファンにとってはヌルいし、ファンタジー好きにとっては微妙に違う。銀英伝の田中芳樹ファンにとってもちょいと違うだろう。ターゲットが難しいんじゃないか? もしかしたら。

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2003/9/14

 目覚ましをかけたわけでもないのに、なぜか朝5時に目がさめてしまった。前の日に早く寝たわけでもないのに。
 このままじゃ絶対寝不足だ。目をつぶって30分くらい布団の中でバタバタするが、眠れない。あきらめて、前に買った『寄席芸人伝』(古谷三敏)全8巻を持ってくる。8冊も読むうちには眠くなってくるだろ。

 で、結局、眠れずに8冊読みきってしまった(笑)。
 週刊誌連載された一話完結もので、一話は短い。実際の落語家のエピソードを下敷きにした、人情話あり、芸への執念あり。咄家も落語を聞く人もずーっと庶民だから、そこには市井の人の泣き笑いがたっぷりで、私を泣かせたり笑わせたりする。
 このマンガ、実は大学時代に小学館ビックコミック版で読破していた。入部してもないのに入り浸っていた落研に全巻揃えてあったのだ。卒業して「揃えようかなあ」と思ったら絶版。今回読んだのは中公文庫版で、これも今は出ていない。現在出ているのは、ちょっと1冊が高い小学館叢書で……と、思って調べたら、これも絶版になってるじゃありませんか! おー、まい、がーっ!!(よく調べたら、小学館叢書と中公文庫の出版は順番が逆でしたが)
 すっごくいい話なのに、なんで絶版になっちゃうんだろう。文庫だったら、まだまだ売れそうな気がするんだけど。でも、寄席にいっても若い人ってあんまり(と、いうかほとんど)いないから、私の好みとは別に、落語業界自体が先細りなのか。
 江戸前の人情と共に落語が死に絶えちゃったらヤだなあ。

 ところで、今回久しぶりに読んで、落語界の業界用語を色々思い出しました。
 「サゲ」がオチ、「カゼ」が扇子なんかは割と一般的、「金ちゃん」はお客のことで、これが何でも笑う客だと「甘金」、芸がわからない野暮な客だと「セコ金」、なんていう変化形もある。結構よく出てきたのが、男性器の「ロセン」。
 こうして、さっぱり役に立たない知識が増えるけど、どうしたものか(笑)。


2003/9/13

SIMONE  ごめんなさい、また試写会です。「シモーヌ」。
 トラ腹じゃないけど、実際に映画館でお金を払って見ないならあんまりえらそうなことは言えないと思うワタクシ。まあ、映画会社もHPで紹介してもらうことを狙って試写会に呼んでくれるんでしょう。うん。だから書こう。いいことだけ書くとは限らんけど(笑)。

   わがまま主演女優ニコラ(ウィノナ・ライダー)に手を焼かされた挙句、とうとう降板されてしまった映画監督のヴィクター・タランスキー(アル・パチーノ)は困っていた。そんな彼の前にハンクと名乗る死期の迫った男が現れる。ハンクが持ってきたのは、実際の女優がいらない画期的なコンピューター・プログラムの話。取り合わなかったタランスキーだが、家も抵当に入り、主演をしてくれる女優もみつからない。
 半年後、完成した映画はタランスキーも予想しなかったほどの大ヒット。主演のCG女優シモーヌ(もちろん、人間でないことはタランスキーしか知らない)は注目を集め、マスコミにTVに引っ張りだこになった。しかし、その熱狂はだんだんとタランスキーを追い詰め……。

 監督は「トゥルーマン・ショー」のアンドリュー・ニコル。
 上に書いたあらすじでも大体わかると思うが、もう皮肉満載。
 他の出演者のトレーラーが10cm高いといって降板してしまう、セリフも覚えない女優ニコラ。そんな俳優への鬱憤をシモーヌの口を借りて言わせるタランスキー。
 わかりやすい皮肉の他に、「じゃあ、監督の思い通りになるけど予想も越えない俳優と仕事をして楽しいわけ?」みたいなシーンがあったりもする。
 俳優のチャリティ好きも皮肉……っているのか、どうかがちょいと微妙。ラストも近くに家族愛を描いて見せたり、案外、家族愛とか子供への慈しみに目覚めちゃったのかもしれない。確か、監督はこの作品で、シモーヌ役のレイチェル・ロバーツと出来ちゃった結婚。案外、皮肉屋さんの照れ隠しなのかもしれないなー、なんていう風に思ったりもする。

 完璧な美貌にボディという設定のレイチェル・ロバーツは本当にキレイ。わがまま女優役のウィノナ・ライダーも、出番が少ないのに印象的。
 でも、やっぱりここのHPをご来訪の方へは、オヤジスキー映画としてオススメしよう。主演のアル・パチーノは、ショボくれオヤジスキーにはたまらんものがあるでしょう。私が一押しなのはエコー社の記者。巨体に繊細な心を持つ彼は単純におかしく、この映画の一服の清涼剤でした。

「シモーヌ」 2002年アメリカ(117分)
監督/脚本/製作:アンドリュー・ニコル、撮影:エドワード・ラックマン、作曲:カーター・バーウェル
CAST:アル・パチーノ、レイチェル・ロバーツ、キャサリン・キーナー、ウィノナ・ライダー


2003/9/12

 『女王陛下の薔薇2――秘めたる花園』(三浦真奈美/中央公論新社C★ファンタジアノベルズ)読了。
 架空の王国(モデルは英国)ブレニム帝国を舞台にしたファンタジー2作目。
 女性が「家庭の天使」であった時代、参政権のなかった時代という設定になっている。この時代に懸命に生きている女性が主人公だ。主人公エスティは父親が決めた婚約者がいる植民地、パガンに赴く。この地で紆余曲折あって、藩主の娘・ブランカと親しくなり、婚約者に婚約破棄されてパガンを離れる……ところまでが1作目。
 今回は、エスティがブレニムに戻って、自分の道を見つける重要な部分になっている。なにしろ、婚約破棄が大変な不名誉で(特にエスティのせいではないのだが)、そういう娘はまともな結婚はできないという時代設定、帰国したエスティは父に子沢山のやもめ男に嫁がされそうになる。

 ここいらの舞台設定がライトノベルとしては珍しいような気がする。
 主人公が過酷な状態に置かれるものはよく見る。が、レディと表面上は敬われはするが、その実、職業も好きな人も自由に選べない世界というのは、少女がメインターゲットの小説としては、実はすごく難しいのではないだろうか。
 物語の広がりが制限されるし、そういう状況の中でのヒロインは地味だし、案外不自由な学生さんたちはカタルシスを得られないし。
 閉塞的な状況の中で、エスティは新しい道を歩みはじめる。ほとんど植民地に行った人がいないブレニムで、パガンに関する新聞のコラムを書くようになるのだ。
 ひかえめで静かな性格のエスティはヒロインとしては地味かなあ、と、思うけれど、実際はこういう芯の強い人が粘り強く少しずつ時代を変えるんだろうね、現実でも。

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2003/9/11

 『くらのかみ』(小野不由美/講談社)読了。
 初めて本屋で見たとき、一緒だった猫宮さんは言った。
「あ、佐藤さとる」。
 違うって(笑)。
 イラストは、佐藤さとるの『誰も知らない小さな国』シリーズでおなじみの村上勉。すっごい気持ちはわかる。わかったのだが、やっぱりどんなにわかちがたく作品と結びついている挿絵でも、読者が覚えてるのは作家の名前だけなのかなあ、なんて思ったりも。
 でも、ひと目見ただけで、ぱっと記憶がよみがえる程の引きがあるんだから、イラストってやっぱりすごいよね。
 個人的には手間をかけた装丁が素敵だと思う。
 箱入りで、箱は表紙が一部見えるように丸く型抜き。本体はハードカバーで背は布張りに文字が金の箔押しで入っている。多色刷りの挿絵に本文は総ルビだ。
 でも、装丁はちょっと控えめにしてあと500円安かったら、と、思わんこともない(笑)。
 このミステリーランドという企画が、「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」というキャッチなんですね。私の感覚だと、児童書っていうのは1,300円くらいなのだ。少年少女に読ませるためには、ちょっと高いかな、という感じ。(かつて子どもだった「あなた」は買うでしょうけれど)

 私が、この本を読んだきっかけは、西澤保彦のオフィシャルサイトの日記で絶賛していたから。
 講談社からの献呈本だったらしいのだが、他の2作に比べて手放しの賞賛。

 勢いに乗って小野不由美さんの『くらのかみ』を読むに至って、うおっと飛び上がってしまった。なんと! これはバリバリのハード・パズラーではありませんか! 中学1年生を筆頭にあとは小学生ばかりという子供のグループが論理を詰めてゆく過程が、少しも不自然ではない。しかも、しかも、収束するに従って、なぜこれが「座敷童子の物語」なのかというポイントが謎解きに見事に融合するという、奇蹟のような構成! おお、おお! 同じ作者による、本格ミステリ大賞の候補にもなった『黒祠の島』よりも、個人的にはずっと「本格」モード全開。ひさしぶりに興奮して、部屋じゅう駆け回ってしまった。こりゃもう落ち込んでいる場合じゃありません(笑)。すばらしい。すばらしい!
 ひさびさに、オレも頑張って良いものを書こうという、前向きな気持ちになれました。ありがとう、小野さん! ありがとう、U山さん!!

 好きな作家にこれだけ書かれれば、「読もう!」って気になるじゃありませんか!(笑)
 読んでみたら、字が大きいので、割とすぐ読めてしまった。しかし、どうなんだろ。かつては子どもだった人は楽しめるとして、小学校高学年くらいの子どもが読んで楽しいのかなあ。
 大人が読んでも楽しい子供の本はたくさんあるけど、逆はその限りではないもんな。

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2003/9/10

 平積みになっていたので油断したら、店頭から消え、仕方なく注文した『金魚屋古書店出納帳2』(芳崎せいむ/少年画報社YKコミックス)。
 届くまでに時間がかかって、今ごろの読了になってしまった。奥付を見ると2版になっている。一生懸命、増刷していたのね。

 収録されている最初の話に出てくるのは、あだち充の『タッチ』。全26巻の『タッチ』を、好きな女の子に毎日1冊ずつを貸してあげる男の子の話だ。
 『タッチ』という、すごく知名度があって、少しでもマンガ好きならストーリーを知ってる作品ならではの使い方。うまいなあ、これ。
 なかな切ないラブ・ストーリーに仕上がっていて、収録作品の中では一番好きかも。
 他の作品は、少しマニアックだし。(マニアックな人間が何を言うというツッコミはキライだ)

 マンガの神様ってどこにいると思います?

 マニアがマニアにこう聞くシーンがある。
 まあ、普通は「マンガの神様」といえば手塚治虫なのだけれど、純粋にマンガの神様がいるとしたらどこだろう、という。
 私は肩の少し上に浮いている気がする。本屋に行くと「買え〜、あれを買え〜、これも買え〜」と囁くのだ。ちょっと貧乏神と微妙に紙一重なのだけれど(笑)、感動もくれたりするので、やっぱりキライになれない。

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2003/9/9

 「ウォーター・ボーイズ」最終回。
 ビデオを取るほどではないけど、八嶋さんが出ていたので、家に帰っている時は見ていた。(と、いっても3回くらい)
 若い同じくらいの男の子の体型をあれだけ一遍に色々見られる番組は、近年なかったのではないだろうか。絵描きの皆様、必見。って、もう遅いか。
 モデルになったのは会社の後輩の家のそばの高校だそうだ。結構な進学校で、演じるのはシンクロ部ではなく水泳部の男の子達。それくらい近所の住人はみんな知ってる……くらいの学園祭の目玉なのだとか。

 だらだら読んでいて、先週のどこかで読み終わった『笑う怪獣』(西澤保彦/新潮社)。
 アタル、正太郎、京介の3人組が活躍する連作短編集で、この3人の行くところ、巨大怪獣が現れたり、改造人間が現れたり、宇宙人が現れたりする。喜国雅彦の表紙からしてバカバカしさ満開。なのに、なのに……ほとんどのの短編が本格ミステリに仕上がっているという。
 何度、バカバカしいとおもいながら、納得してしまったか。なんとなく、ちょっとくやしいぞ(笑)。
 でもまあ、思い起こせば、初期の西澤作品ってこんなのばっかりだったよな。

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2003/9/8

 おきてみたら、パソコンがかわっていた。
 ねてるうちにこびとさんがきて、かえてくれたんだね。

 ……なんていうメルヘンなことは、もちろんなく。
 OSをWin2000にするためにシステムの人がパソコンを変えたのだった。同じパソコンでOSをインストールするという手もあるのだが、何百台も入れ替えするのに、そんなことをやってはいられない。Win98マシン撤去→Win2000が入ったマシンを設置→撤去したマシンにWin2000をインストール→Win98マシン撤去……という大規模なバケツリレーが行われたらしい。(金曜の深夜からやってたので私は知らない)
 バックアップは「入れ替え作業をする前に取るから大丈夫」とは言われたが、なくなって泣くの自分だ。
 でも、20GBもあるマシンにガシガシ入れてたデータは相当なもので、バックアップの途中で飽きてしまった。どうしてもなくなるとまずいもの以外は、「宵越しのデータは持たねえ」とさっぱりとあきらめる。
 朝来てみたら、だいたいOKだった。
 が。
 細かいものが色々なくなっている。メールのアカウントはきれいに消えているし、IPメッセンジャーもなかった。フォトショもない。まあまあ復旧させるのに、半日かかってしまった。パソコンのお引越しも現実のお引越しに劣らず大変だ。

 『ゴッホ殺人事件』(高橋克彦/講談社)下巻読了。
 やっぱり、
上巻の方がわくわくしたなあ。後半は、物語の最初に出てきたゴッホの作品(市場に出れば最低500億円!)がメインの普通のサスペンスなので、「歴史の新発見!」みたいな純粋なわくわく感がないんだよね。
 ミステリの謎解きも用意されているから、これは好みだろう。私は歴史の謎ミステリにドキドキする性質だってことで。
 物語の最後に、なぜゴッホが売れなかったかという謎が語られる。これも、前半ほどのインパクトがないので、なんとなく後半が薄い印象。
 でも、逆にいえば、前半の学説が驚天動地の面白さだったのだ。
 こういう歴史の謎、しかもゴッホみたいに研究書が膨大に出てる画家なんて研究されきって、新発見なんてほとんど出ない。いいかえれば、なかなかミステリにはなりにくいので、それは評価しないと!

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2003/9/7

あなたが寝てる間に・・・  talkさんと「やっぱりドラマは脚本と演出だよ」という話をしてて、これを見てナルホドと思った『あなたが寝てる間に・・・』。

 シカゴの鉄道の改札係のルーシーは、両親を亡くして一人暮らし。単調な仕事の楽しみが駅で見かけるハンサムなビジネスマン、ピーターだ。彼女は彼と両思いになって、結婚する夢をみながら心をなぐさめている。
 そんなある日、ルーシーはホームに落ちたピーターを助ける。婚約者と勘違いされたルーシーは、ピーターの家族の大感謝にあって、本当のことを言えなくなってしまう。

 昏睡状態が続いて寝っぱなしのピーター。その間にどんどん深みにはまっていくルーシー。
 登場人物がみんな善意の人なのに、その善意がどんどんから回っていくところがおかしい。
 最初、「私たち、いつ結婚するの?」とピーターを遠くに見ながらつぶやいているルーシーに、「おおっ、電波な人かっ!?」と思ったけど、ちゃんと伏線になっていたのね。(病院で、「私たち結婚するのに……」と、つぶやいた独り言から、勘違いが始まる)
 とにかく無駄なセリフとかシーンがないのがすごい。例えば、ルーシーがピーターの部屋に行くシーン。そのシーン自体で笑わせ、後から出てくるシーンの2重の伏線になっている。
 しかも、飾ってあるのが本人の写真だけなのを見せることで、さりげなく観客に「もしかしてナルシスト?」、「もしかして家族とうまくいってない?」と思わせる。高級そうだけど無機質なインテリアもそうで、ピーターの実家を考えるとピンと来てしまうのだ。(ピーターの実家は、亡くなった人の家具を買い取って売る家具屋)
 気をつけてみると色々わかるが、気をつけてみないとただのラブ・コメディ。そういうのって、すごい。すごく普通に上質でいるためには、きちんと作りこんでないといかんのね。

 ルーシーは幼い時に母を亡くし、父親も死んでいる。都会で独身で孤独。しかも、家族が大集合するアメリカのクリスマス・シーズンに、一人ぼっちは心底ツライ。
 ピーターの病室に現れた家族達はみんな暖かくて親切で、家族同然の隣のソウルおじさんまでキュートな人々だ。こんな家族が大歓迎してくれたら、どんなに染みるだろう。
 他愛がないといえば他愛がないが、私は好きだ、こういうの。どんな年齢の人でも、ちょっと笑ってちょっと泣いて少し幸せな気分になれるというのは素敵だと思う。

「あなたが寝てる間に…」 1995年アメリカ(112分)
監督:ジョン・タートルトーブ、脚本:ダニエル・G・サリヴァン フレデリック・リボウ
キャスト/サンドラ・ブロック 、ビル・プルマン、ピーター・ギャラガー、ピーター・ボイル、グリンス・ジョーンズ、ジャック・ウォーデン


2003/9/6

 大阪からtalkさんが状況されたので、夕方から出かけていく。
 えーと、たっぷり濃い話(これまた、違う種類の濃さなワケだよ)をできて楽しかったです。ありがとうございました、皆様。


2003/9/5

 適当に買ってしまったら、アタリだったという『碧のミレニアム』(杜野亜希/白泉社花とゆめコミックス)。
 実は、ちょっと前から瀬戸内の海賊のことを調べたかったのだ。(十二国のせいではないぞ、念の為) 歴史にはちっとも詳しくないので、できたら簡単に楽をして理解したい。(←歴史マニアが激昂しそうな言い草)
 しかし、そこいらは非常にマイナーで本も少ない。ぼんやりと「ああ、瀬戸内に詳しくなりたいなあ」と思っていたところに思わずヒットした作品でアリマシタ。
 物語は、主人公の女子高生がタイムスリップしてしまうというもので、舞台が大三島で時代は戦国時代というのがミソ。
 つまり、私の知りたかった村上水軍のことがバッチリ出てくるのだー。ヤッター!
 作者は雑談スペースで「史実通りに話を進めるとはかぎらない」と書いてあったけれど、かまうものか。だって、私、毛利元就が、そこの辺の人だってことさえ知らなかったんだもん(笑)。

 今さらながら、NHK大河の『毛利元就』が見たいなあ。(放送してた時はチラリとも見なかった)
 どこかでNHK大河ばっかり1日中やってくれるチャンネルとかできないかなあ。時代劇専門チャンネルがあるんだから、そんなに突拍子もないアイディアじゃないと思うんだけど。

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2003/9/4

 おっと、忘れてた。これも先週末に読み終わった『爆風』(アイリス・ジョハンセン、池田真紀子訳/二見文庫)。
 『
顔のない狩人』にも出てきた、災難救助犬モンティとトレーナーのサラが主役で登場。『顔のない狩人』の前作、『失われた顔』から登場しているローガンも出てくる。
 ローガンは、かなり成功したコンピューター会社の社長というキャラクター。ビル・ゲイツにスティーブ・ジョブズのカリスマ性とアントニオ・バンデラスのルックスを与えたような……って書いてるだけでも無敵そうだ。なんで、顔シリーズでは失恋しちゃったのかわかりません(笑)。
 前から割とローガン贔屓(判官贔屓のシャレではない)の私だが、今回、犬にモテモテな彼を見て、また少し好感度が上がった。

 物語はよく出来たサスペンス。
 ローガンに個人的恨みを持つ男が登場し、次々とテロを繰り返す。対するローガンが、助けを求めたのがサラとモンティの才能。しかし、生存者を救出したサラとモンティが次はターゲットに狙われてしまう。
 戦闘のプロ同士がお互いを狙う。
 緊張感が続く物語の中で、ホッとするのがゴールデンレトリバーのモンティの存在だ。
 信じやすくて腹をなでてもらうのが何より好きなカワイコちゃん。(男の子だけどさ) 今回は、なんとモンティの恋の相手も登場する。どんなお嬢さんかは読んでのお楽しみ♪

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2003/9/3

 寝込んだというと「電話すればいいのに」といって下さる、ここを見てる方と見ていない方、ありがとう。お気持ちはとてもとても嬉しいです。
 が。
 だいたい調子悪くなるときは前兆がありまして、そこいらから掃除とか洗いものとか、後回しにできることは放棄しているわけです。
 だから、深刻に体調が悪くなった時は、部屋がぐちゃぐちゃ。
 そんな状態で家に来ていただくことはできない。
 と、いったら、
「食べるものだけ届けてもいいんだよ」
と、さらに優しい言葉をかけていただいたりして。
 でも、でもね。私のために買って来ていただいて、その上わざわざ届けて下さったものをドア口で受け取って、「はい、帰った帰った」と送り帰す。善意の人にそんな扱いはなんとものしのびないじゃありませんか。
 だから、ありがとう。ここを見てるあなたと見ていない善意のあなた。
 リオハは心から感謝しているのです。都会で一人暮らしができるのもあなたのような人がいてくれるから。
 ただただ、ぶっさいくな私とぶっさいくな部屋をお見せしたくないだけなのです。

 あ、でも、本当に具合が悪くて家に電話したら、
「今、忙しいから」
と、ガチャンと切られた心の傷もあるのかも(笑)。
(病原菌を家に持ち込まないため、具合の悪い時は家に帰ってくるな、とも言われている……)


2003/9/2

 『ゴッホ殺人事件』(高橋克彦/講談社)上巻読了。
 これも、寝込んだ時に読んだもの。
 何でそんなにサクサク進んだかというと、途中から食べるものがなくなったから(笑)。いや、焼くだけの冷食の餃子とか、レトルトを開けて、レンジにかけるリゾットとかはあったのよ。
 が、そんなわずかの手間が、どうしようもなく面倒なほど体力がなかった……。(結論:人間が食事にかける時間はバカにならない)
 本当に読書って怠惰な人間でもできる趣味だこと(笑)。

 さて、本の方はすっごく労作でして、乱歩賞の『写楽殺人事件』を彷彿とさせる内容。
 丹念な下調べのたまものといった感じがする。

 パリで美術品修復家をしている加納由梨子の母が東京で死に、貸金庫にドイツ語で書かれたリストが遺された。「ヴィンセント」の文字はゴッホと関係があるのか。パリに戻った由梨子のもとへ、オルセー美術館のゴッホ研究者がたずねてきた。貸金庫に遺された謎のリスト。ゴッホ研究者たちが追う喪われた名作とは。

 ゴッホの「ひまわり」は日本にある。ものすごい価格で落札されたから、ゴッホの絵の1枚がどんなに高いかは周知の事実だろう。
 最近でも、作者不明の絵で落札予定価格1万円の油絵が、ゴッホの作品と鑑定された途端に人気沸騰、最終的に6600万円で落札された。(2003年2月、故中川一政コレクション)
 どうやら、これはゴッホが多作なことも理由があるらしい。ゴッホは手が早くて近所のお嬢さんを泣かしまくって……っていうそういう手の早さでなく、1日にキャンバス3枚くらい仕上げてしまったらしい。何しろ生前に売れた作品が1枚だけという画家だけあって、作品総数もよくわかっていない。
 作品にサインもしない作家だったので、ゴッホの作とは夢にも思われていない作品が今も田舎の農家の屋根裏で埃をかぶっているのかもしれないのだ。
 そんな驚愕の未発見ゴッホ作品らしき謎のリストから物語ははじまる。
 それと一緒にと共に語られるのが、ゴッホの死の謎。実は、ゴッホの死は自殺ではなく殺人だとオルセーの学芸員・マルゴが語るのだ。
 ゴッホは殺された。誰が? どうして?
 マルゴはゴッホと弟・テオの書簡集などの誰でも手に入る資料から犯人を特定していく。

 高橋克彦は『写楽殺人事件』もそうだが、こういう史実から推理していく部分が本当に面白い。それにからめた殺人事件がつけたしみたいで面白くなかったりもするんだけれど。
 でも、差し引きしても歴史ミステリの部分は本当に面白いのだ。
 下巻が楽しみ。

 ちょっと治ったので、洗濯と風呂掃除をする。病気になると、ここいらがまずオロソカになってくる。
 風呂のすみっこのパッキンを外して「うぎゃあああ」となりながら掃除をしてて思った。(外せなければ見なくてすんだのに……)
 まず食が足りて、それからだよな、清潔は。
 飢えていれば、清潔にするための労力はすべて食を得るために使うだろう。発展途上国がだいたいにおいて清潔でないのは仕方ないのだ。
 「衣食足りて礼節を知る」というけど「衣食足りて清潔を知る」だなあ。
 (と、社会を考えているようだが、やっているのは風呂掃除)

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2003/9/1

 これも病床で(そんな大げさな)読んだ1冊、『チチンプイプイ』(宮部みゆき、室井滋/文春文庫)。
 ジャンルは違うけれど売れっ子の2人の対談がメインの本。本当なら対談集、といっていいのだが、中の「ムロイ、ミステリーに挑戦の巻」がちょいと違いう。
 これ、読んでて思ったけど、物書き、特にミステリ作家を志す人は一読しておいて損はない。
 室井滋が短編ミステリを書いて、それを宮部みゆきが批評するという豪華な試みで、宮部みゆきは技巧的なアドバイスを惜しげなく披露している。そんなことに気をつけて読んだことはなかったが、なるほどとうなずけることばかりだ。
 How to本じゃなくて、意外な場所で意外なものが読めるもんである。

 普通に対談集と読んでも充分面白いので、軽い読み物が欲しい人にオススメ。

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